乞食blog -8ページ目

棺おけの中

朝方、体の寒気が取れぬまま震えていたら、
こうりゃん先生が風邪薬と一緒に、
アルミホイルをダンボールで挟み
ガムテープで止めた、特製のダンボールを差し入れてくれた。

棺おけのように体の寸法ぴったりに組んで
着込めるだけ着込み、毛布に包まってその中に入ると
これが驚くほど暖かい。

「これも使うといいですよ」

と、使い捨てカイロまで差し入れてくれた。
何でも容積と熱量の問題で、アルミホイルで保温性を保った
ある一定の容積なら、体温とカイロのみで十分温まり、
その熱を維持できるのだそうだ。
仕組みは良く解らなかったが、
ひたすらこうりゃん先生の優しさと知識がありがたかった。

快適な棺おけの中でぬくぬくと横になっていたら、
なんだか皆に置いていかれている気がして、
急に怖くなった。気ばかりが焦る。

体調最悪

昨晩、油断したら雨にやられた。
ついていないというか、
自分の責任なのだが。

体が冷える。冬の野宿はつらい。

ゴリラマスク

今日昼頃、キンさんとノリさんが
両手に大きなビニール袋を抱えて帰ってきた。
少し遠いディスカウントストアの廃棄物置き場から
「お宝」を発掘してきたそうだ。
毎度お馴染みの恒例行事みたいなもんだ。

時計やらラジオやら衣服など結構色んな物が捨ててあって、
「物余りニッポンの象徴ともいえますねえ」
とはこうりゃん先生の言葉。

今日は小物類に混ざって、ゴリラのマスクがあった。
「これ、いいだろ?」
と、キンさんが自慢げに見せびらかしていた。
そんなキンさんに半ば呆れながらカズ姉が、

「ったく、どーしてそんなもん拾ってくるんだい!
どーせなら食えるもん拾ってきなヨ!」

「んだと!クソババア!
お天道様が許しても、ゴリラ様は許さねえゾ!」

などと悪態を吐きつつ、
そのゴリラのマスクを被って
「ウホホ!ウホホ!」
とゴリラのマネをしはじめるキンさん。
もちろん、みんな大爆笑だ。

「ガオー!ババア~!襲うゾー!ウッホホ~」

と両手をガバッと挙げながらカズ姉に襲い掛かるキンさん。

「バカ!およしよ!バカ!」
「あ!!さてはオメエの被りてえんだな!よし特別被らせてやる!」

と、キンさんはカズ姉に強引にマスクを被せた。

「ぎゃははっ!ババアゴリラだ!
怒った時のオメエにそっくりだな!」
「っふざけんじゃないよ!」

と、文句を言うカズ姉はマスクを被ったまんまだったので、
なんだかむしょうに可笑しくて笑ってしまった。

今日一日そのゴリラのマスクのおかげで、笑って過ごせた。

ヨシさんのプレゼント・人間の尊厳

ヨシさんがアルミホイルに包まれた
ソーセージやパテを 大量に持って現れた。
どこかの店の仕出し料理のサンプルだとかいう。

キンさんとヤマちゃんが
「すげえな、こんなの丸ごと捨てちまうんだ!
さすがヨシさんは、そういう穴場見つけるのうまいな」
と興奮している。

「いや、捨ててあったわけではないんだけどね」
とヨシさん。 そして、自分はもういいので、
みんなで分けてね、といって、自分のハウスには戻らずに、
またどこか闇の中を消えていった。

「なんだ、気前のいいやつだなあ」
と後ろ姿を見守る山ちゃん。
「ここのところ公園で寝泊りしていないみたいですね」
とこうりゃん先生。
「パンパーティの時は、夜もずーっといたわよ」
とカズ姉。

とりあえずヨシさんの差し入れを
みんなでおいしくいただいた。
アルミホイルで包まれた惣菜は、まだ暖かいものもあった。

人間の尊厳というのは
「暖かい食べ物にありつけるかどうかにかかっている」
という話を、以前こうりゃん先生としたことがある。
炊き出しなどで暖かいものを口にするたびに、
普通の暮らしに戻りたいという気持ちが
ふつふつと湧き上がってくる、それは確かだ。

ビジネスを考える

朝起きたら山ちゃんはもう居なかった。
もう缶広いに行ってしまったたのだろうか。
一緒に行きたかったのだが仕方ない。

アルミ缶はキロ100円で買い取ってもらえるそうだが、
最近はペットボトルが増えて、
なかなか集まらなくなっているらしい。

ビッグイシューも1冊売れば100円の儲けだが、
仕入れを自腹でする必要がある。

雑誌拾いも紹介が無いと出来ないらしい上に
最近はテロ対策とかで、駅のゴミ箱が撤去され、
見つけにくくなっているらしい。

拾ったものを並べて勝手にどろぼう市をやるのも、
そこそこ儲かるらしいが、地回りが怖い。
どれも簡単にできそうだが、一長一短ある。

なんて、動く前に考えすぎてしまい
結局動けなくなってしまう。悪い癖だ。
昔から自覚はあるのだが、なかなか治らない。
我ながら困ったものだ。