スコットランド国立美術館 The GREATS 美の巨匠たち  (神戸市立博物館) | れぽれろのブログ

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8月20日の土曜日「スコットランド国立美術館 The GREATS 美の巨匠たち」と題された展示を鑑賞しに、神戸市立博物館に行ってきました。今回はその覚書です。

スコットランド国立美術館はイギリスのエディンバラにある美術館で、その名の通りスコットランド地域にある美術館です。ヨーロッパ中世から近代まで、多くの美術作品を収集している美術館とのことで、今回の展示でも多くの有名作家の作品が展示されており、楽しく鑑賞できました。
展示は4部構成で、1.ルネサンス、2.バロック、3.グランド・ツアーの時代、4.19世紀の開拓者たち、の順で、1部と2部が3階、3部と4部が2階という展示になっていました。いわゆる美術史上の傑作を見るなら前半(3階)の展示が良かったですが、地元イギリスの作家がたくさん登場する後半(4階)がこの美術館らしい展示で、個人的に面白かったです。以下、個人的な見どころを中心に概要をまとめておきます。


前半は1.ルネサンス、2.バロック、という章立てでしたが、とくにバロックのカテゴリの展示が充実していたように思います。
まず重要なのはベラスケス卵を料理する老婆」(1618)です。初期ベラスケスの有名作品で、暗い背景の中にいる対象物に明るい光が降り注ぐという、いかにもバロックの時代らしい1枚になっていました。描写は精密で、後期ベラスケスのような大胆な筆致と色彩感はそんなに見られませんが、人物、衣服、静物と、それぞれ異なる筆致で描き分けられた確かな描写は心地よく、全体と細部を見るのがともに楽しいです。そんな中、卵料理の部分は意外と大胆な筆遣いで描かれており、ササッと描いているにもかかわらず調理中の卵の様子がよく分かるという、後期作品の萌芽が見られるようにも感じられて面白かったです。
もう1作重要な作品をあげるなら、レンブラントベッドの中の女性」(1647)でしょうか。不安げな表情の女性がベッドから顔を出すという作品で、解説によると聖書の一場面を表しているとされ、鑑賞者の知識が試されるとのことでしたが、情報なしで見ると単に女性を描いた風俗画に見えるのがレンブラントの面白いところ。女性の表情は不安げでありつつ、何かをずっと見守っているようにもみえ、視線の先に何があるのか、想像力をかきたてられます。人物の描写の巧みさはレンブラントならでは。主題の意味よりも人物を味わいたい作品であるように思います。

その他個人的に面白かった作品など。
エル・グレコ祝福するキリスト」(1600頃)は、背景を描かずキリストのみを正面から描いた1枚で、キリストの表情が良い雰囲気、衣服の赤と青もエル・グレコらしい色彩で心地よいです。キリストの服の色の組み合わせはヴェロッキオ「幼児キリストを礼拝する聖母」に似ていますが、エル・グレコの色の方がやや淡い感じで心地よいです。
個人的にお気に入り度が高いのはドイツの画家たちの細密画です。「死と乙女」等で有名なハンス・バルドゥング・グリーンの「聖マルティヌスと物乞い」(1502-3頃、素描)や、アダム・エルスハイマーという画家の「聖ステパノの石打ち」(1603-4頃)など、ドイツルネサンスらしい細密画になっていて面白い。とくにエルスハイマーの作品は背景の描き込みや石打の歳の血の描写などが細かく、小さい画面にこれでもかというくらいに情報を詰め込んだ作品は見ていて楽しいです。エルスハイマーは知らない画家でしたが、個人的お気に入り度は高いです。
いつも楽しみにしているオランダの風俗画家ヤン・ステーンですが、今回の「村の結婚式」(1655-60頃)は、この手の題材にしてはいつものウエーイ感がありません 笑。ヤン・ステーンの描く結婚式といえば酔っ払いが騒ぐおもしろ風俗画を期待してしまいますが、今回はやや落ち着いた画面。それでも人物の服装などは面白く、当時の農村の様子を楽しめます。


後半は18世紀から19世紀、スコットランドということで、地元イギリスの作家の作品がたくさん見られるのがこのフロアです。
 

イギリス以外の一般の美術史上の有名作家の見どころとしては、まずは18世紀ロココ、ブーシェの「田園の情景」(1762)がいかにもロココらしい作品で面白いです。伝統的な三連祭壇画のような形式をとっていますが、宗教色はゼロ。3組の男女が戯れている様子が描かれ、背景の木々の描写と合わせて心地よいです。
ヴァトーの「スズメの巣泥棒」(1712頃)はいかにもヴァトーらしい小品で、小さい画面に描かれる男女の戯れと、背景の森の様子が心地よい。人物のポージングの巧みさと画面構成もヴァトーならでは。ヴァトーの弟子パテルの「水浴する貴婦人たち」(1721頃)もヴァトー以上にヴァトー的な?大胆な男女の戯れの様子が楽しいです。
19世紀ならバルビゾン派のコローによる「廃墟」(1865-70頃)「ラ・フェルテ=スー=ジュアール近郊の思い出(朝)」(1865-70頃)あたりがお気に入りでしょうか。後期コローの森の風景は、ロココの森と比べてやわらかで、地味ながら落ち着いた雰囲気が心地よいです。とくに後者がお気に入りの一枚。

一方イギリス美術の見どころは、まずは何といってもウィリアム・ブレイクの水彩画です。「石板に十戒を記す神」(1805)はいかにもブレイクらしいロマン主義的終末感漂う作品。タイトルからすると聖書の十戒のシーンのようですが、燃えがある炎の様子はどう見ても審判の日に見えます 笑。ブレイクの版画作品は国内でも見られますが、水彩画はなかなか貴重。かれこれ20年くらいいろんな美術館の来日展示を見てきていますが、ひょっとしたらブレイクの水彩画は初めて見たのではないかと思います。美術ファンならこの1枚を見るためだけでもこの展示を見に来る価値はあるかも?
ブレイク以外のイギリスの作家としては、やはり著名なゲインズバラ、コンスタブル、ターナーが見どころと思います。
ゲインズバラは人物画と風景画が来ていましたが、個人的には風景画の方が好みです。「遠景に村の見える風景」(1748-50)はイギリスの田舎の川と森と空を描いた作品で、空を大胆に広く取った画面構成の中、ポツポツと描かれる牛の様子も楽しい。
ターナーの「トンブリッジ、ソマーヒル」(1811)はゲインズバラと同じく引きの画面で、やはり川と森と空の中に点々と牛がいる風景を描いた作品です。後年のターナーのような荒れ狂う画面の作品ではなく、落ち着いた風景が楽しめる、前期ターナーの佳作だと思います。
コンスタブルの「デダムの谷」(1828)も空と森の作品ですが、こちらは木々が大きく描かれ、木の質感と雲の質感が心地よいです。

あまり有名ではないイギリス画家としては、まずジョージ・モーランドの連作の風刺画「勤勉のもたらす快適さ」「怠惰のもたらす惨めさ」(1790以前)が面白く、勤勉な家庭と怠惰な家庭の様子をかなりステレオタイプ的に描いた2連作は、あまりにも紋切り型で楽しいです 笑。2連作のうちやはり見に行ってしまうのは「怠惰」の方です。ボロボロに破れたカーテンや衣服、骨をしゃぶる子供、泣き叫ぶ赤ん坊と、ベタな貧しさがこれでもかと描かれます。同じく18世紀イギリスの画家ウィリアム・ホガースの風刺画をも思わせて楽しい。
一方ジョン・マーティンマクベス」(1820頃)になると、こちらは英国風怪奇的ロマン主義?といった作風で、風景の中に人物が小さく描かれた作品ですが、空のどんより具合とうねるような雲の様子は、若干大げさな劇的さが感じられます。いかにも何か事件がこれから起こりそうな不穏な感じが漂ってきて、楽しい作品になっています。
その真逆の画家がウィリアム・ダイスで、「荒野のダビデ」(1860頃)「悲しみの人」(1860頃)の2作が展示されていましたが、いずれも聖書を題材にした作品で、きっちりと描かれた端正な画面は、その後のラファエル前派にもつながりそうな印象の作品です。ダイスは地元スコットランド出身の画家らしく、おそらく他ではあまり見ることのできない作家だと思われます。


ということで、本展の覚書でした。
ベラスケスやレンブラントなどの名作も堪能できますが、全体としてやはりイギリス絵画が面白いです。イギリス以外なら他の展覧会の展示でも同様の作品に接することはできますが、18世紀以降のイギリス絵画を色々と見られるのはこの展示ならでは。とくに心地よい風景画、楽しい風刺画、怪しげなロマン主義絵画が個人的な見どころ。19世紀のラファエル前派以前の丁寧な作品などもインパクトは薄いですが面白く、貴重なものなのかもしれません。


美術館の入口の写真。

こちらはレノルズの「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」(1780-81)です。本文ではイギリスの人物画はスルーしましたが、人物画ならこのあたりが見どころかも。


展示の入口の様子。

この中には来ていない作品もあるので、要注意です 笑。



おまけ。

こちらは1ヶ月ほど前、7月23日の阪急神戸線の様子。

この写真では少し分かりにくいですが、中吊り広告が1車両まるまるすべてこの広告。阪急電車が完全にベラスケスにジャックされていました 笑。


この日(8月20日)の阪急神戸線の様子。

この日はなぜかディック・ブルーナのラッピング電車でした。ミッフィーをはじめ、ブルーナの動物たちが描かれていて楽しいですね。阪急のコラボ車両もなかなか面白いです。