画図百鬼夜行/鳥山石燕 -地域別にみる妖怪たち- | れぽれろのブログ

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鳥山石燕(とりやませきえん)は江戸時代中期の絵師。

江戸に住んでいた人で、1713年に生まれ1788年に亡くなっています。時代的には新井白石の頃に生まれ、徳川吉宗、田沼意次の時代を経て、松平定信の時代に亡くなっている、といった年代の人。
狩野派の系譜につながる人で、美術史的には美人画で有名な喜多川歌麿の師匠筋にあたる人として有名です。

現在、鳥山石燕といえば「画図百鬼夜行」の絵師、つまり妖怪の絵師として有名だと思います。
石燕の描く妖怪はあまりおどろおどろしくはなく、どちらかと言えばユーモラスで可愛げがあります。古今の様々な妖怪たちを描いており、おそらく石燕が姿を与えた妖怪も多数いることと思います。現代においても、例えば水木しげるなどが描く妖怪は、石燕の描いた妖怪の姿を参考にしていることが多いです。
「画図百鬼夜行」は現在角川ソフィア文庫のシリーズで文庫化されており、安価で簡単に購入することができます。Wikipediaでも積極的に画像がアップロードされており、パブリックドメインとして誰でも参照することができるようになっています。

ということで、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」の中から、20枚の妖怪画を並べてみます。
今回は出没地域がはっきりしている妖怪計20体を地域別に取り上げます。東北から九州まで順に並べますが、どうしても昔から伝承の多い近畿圏が中心になってしまい、20枚中12枚が近畿地方の妖怪となります。



・黒塚 (くろづか)

まずは奥州安達ケ原にいたとされる鬼の絵から。
安達ケ原は現在の福島県の中通りのあたり、このあたりに住んでいた女鬼の墓が黒塚と呼ばれ、いつしかこの鬼自体も黒塚と呼ばれるようになったようです。
切り刻まれた人間の頭部・手首・足首が描かれていますが、あまり残忍な様子はなく、鬼の表情含めどちらかと言えばユーモラスな感じがします。(同じ黒塚の絵でも、後年の浮世絵師月岡芳年の作品の方が残忍な感じがします。)


・殺生石 (せっしょうせき)

続いては関東地方。
下野国那須野にあった石とのことですので、現在の栃木県那須地方の伝承のようです。
実際は溶岩から噴き出す火山性ガスの煙なのですが、昔の人はこれを老いた狐が石と化して煙を出すと考えたようです。
煙に当たって落ちていく鳥の姿も面白いです。


・茂林寺釜 (もりんじのかま)

こちらは上州、群馬県。
狸が化けた釜、いわゆる文福茶釜伝説です。釜と化した狸の姿が何ともユーモラス、しっぽが出ているのも可愛げがあります。
昔話や落語でもキツネはどちらかと言えば怖い伝承が多いように思いますが、タヌキはなぜかユーモアを感じる話が多いですね。


・日和坊 (ひよりぼう)

続いては常州茨城県。
日和坊は雨の日は姿を見せず、晴れの日になると出てくる妖怪で、昔の人は雨が続くと「出てきておくれ日和坊」と言って晴れの日を待ち望んだのだとか。
絵的には中国山水画風の切り立った山と大和絵風の丸っこい山が一緒に描かれているのも楽しい。
日和坊は後に水木しげるも同じ姿で描いています。


・夜啼石 (よなきのいし)

中部地方に移ります。
遠州小夜の中山、現在の静岡県西部にある峠にあったとされる石の伝承。
殺された妊婦の霊が石と化し、その妊婦の赤ん坊が石にすがって泣く様子が描かれています。
この赤ん坊は後に成長し母のかたき討ちを果たしたと言われています。


・覚 (さとり)

飛騨美濃の山中、現在の岐阜県の山の中にいたとされる妖怪で、人間の言葉を喋り、人間の心を悟るモンスターです。
やっつけようとしてもその心を悟られ、すぐに逃げられてしまうのだとか。
この妖怪も水木しげるが同じ姿で描き直しています。


・油赤子 (あぶらあかご)

近畿地方は古くからたくさんの伝承がある地域、ここから近畿地方12連発となります。
油赤子は近江国(滋賀県)大津に現れたとされる油に寄ってくる妖怪で、火の玉とも赤子の姿とも言われます。
この絵ではどう見ても火のついた油を舐めようとしており、危なっかしいことこの上ない 笑。
当時の行燈の様子も分かる一枚。


・片輪車 (かたわぐるま)

こちらも近江国(滋賀県)、甲賀地方に現れたとされる妖怪で、この片輪車の姿を見ると良くないことが起こるのだとか。
火のついた車輪に女性が乗っかっている姿で描かれています。


・朧車 (おぼろぐるま)

画図百鬼夜行では、やはりというか京都府の伝承の絵が最も多く、計4枚の絵が残されています。
こちらは賀茂の大路に現れた朧車という妖怪で、賀茂の大路は賀茂神社の方面か鴨川の近辺の道のように思いますが、京都府南部の加茂という説もあります。
昔の貴族たちが祭礼の際に牛車の駐車場所を取り合ったいざこざから怨念化したとのことで、実につまらない理由で怨念が発生していたことが分かります 笑。
水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」では東京の調布方面に現れ、この朧車を中心としてお化けの国が形成されるというエピソードがあります。



・叢原火 (そうげんび)

こちらも京都府、洛外西院の南、壬生寺に出没した鬼火とのことですので、現在の阪急大宮駅と西院駅の間あたりで見られた火のようです。炎の中には男性の顔が。
下に描かえた小川が可愛らしくて良い雰囲気。


・橋姫 (はしひめ)

続いては宇治橋の橋姫、現在の京都府宇治市の橋にいたとされる妖怪。
醜い独身の女性が夫がいないことを妬んで現れるという、なんとも物騒な妖怪です。燃え盛るたいまつを頭部に刺し口にくわえており、その妬みの深さがうかがえます。
嵐、雷、波が描かれており、画図百鬼夜行の中でもなかなか派手な描かれ方の一枚。


・酒呑童子 (しゅてんどうじ)

こちらは有名な酒呑童子。
「大江山いく野の道」(この表現は小式部内侍の有名な和歌と同じ)に現れたとされる鬼で、京都府の大江山に住む鬼、源頼光に退治されたことで有名。
現在もJR福知山線に乗ると大江山付近でこの伝承の解説を聞くことができます。


・元興寺 (がごぜ)

こちらは奈良県。
南都七大寺の1つとして有名な元興寺(がんごうじ)に住む妖怪ですが、妖怪としては「がごぜ」と発音されます。この妖怪については「画図百鬼夜行」中にコメントはなし。
お寺の窓から変な体勢で外に出ようとしています。この窓はどんな構造になっているのか 笑。
水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」では、上記の朧車の回に登場し、お化けの国の総理大臣という扱いになっています。(「ゲゲゲの鬼太郎」では旧仮名使いで「ぐわごぜ」と表記されています。)


・姥ヶ火 (うばがび)

大阪府河内方面(大阪府東南部)に現れると言われる怪火。
姥捨てにされた老婆の恨みが火となって現れるのだとか。


・大禿 (おおかぶろ)

那智高野に現れたとされる妖怪で、現在の和歌山県南部の那智山や和歌山県北部の高野山に出没していたようです。
一般に禿(かぶろ)は遊女見習いのことですが、大きな姿であり、実は男かもしれないと解説されています。確かにこの屏風が通常の大きさなら、この大禿は異様にデカいです。


・道成寺鐘 (どうじょうじのかね)

紀州日高郡とのことですので、現在の和歌山県中部。
鐘にすがりつく蛇女と燃え盛る炎が描かれています。一般的には清姫の名で有名な妖怪で、蛇と化した女性が鐘に隠れた男性を襲うシーンが絵画化されています。
女性が実は蛇というモティーフは、神話の時代から楳図かずおの漫画まで数多く見られます。


・目競 (めくらべ)

続いては兵庫県の福原。
平清盛が庭を見るとそこに無数のガイコツがいて、どんどん増えていったという平家物語のエピソードから取られた1枚。下の方の適当に描かれた(?)ガイコツの方が可愛げがあって良い感じ。
手塚治虫の「火の鳥-乱世編」でも、この清盛と目競のシーンが漫画化されています。


・長壁 (おさかべ)

こちらは兵庫県姫路市。
姫路城の天守閣に住んでいたとされるおさかべ姫(女性)で、年1回のペースで城主に面会したと言われています。
コウモリが妙に可愛らしく描かれています。
おさかべ姫も水木しげるがこれと同じ姿で描いています。


・不知火 (しらぬい)

ようやく近畿地方を脱出し、西国に向かいます。
筑紫国(福岡県)の海に現れたとされる怪火で、有明海・八代海の蜃気楼のことだとも言われています。(八代海は不知火海とも呼ばれるのだとか。)
解説によると景行天皇の時代の伝説とのことで、そうだとすると相当古い時代(古墳時代以前)のはずですが、描かれた人物の服装が平安時代以降のものと思われるのはご愛敬 笑。


・あやかし

ラストです。
西国の海上に現れたとされる大蛇で、佐賀県や長崎県の方に伝承があるようです。
長いときは船を越えるのに2~3日かかったとのことですので、異様に長い蛇のようです。どんな蛇やねん 笑。体からは大量の油が出るのだとか。


ということで、妖怪画20枚を並べてみました。

石燕の絵は味があって、個人的にはお気に入り度は高いです。
今回は地域別に妖怪を並べてみましたが、画図百鬼夜行はこの他にもユーモラスな妖怪が多数描かれていますので、機会があればまた続編も書くかもしれません。