人生のベスト25冊 -れぽれろの作り方- | れぽれろのブログ

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読書が趣味だと人に言うと、「お勧めの本は?」などと問われることもよくあります。
これはなかなか難しい質問で、自分にとって重要な本でも、他者にとってはどうでもいい本というのはよくあること。
自分の中でも、良いと思う本、面白い本、勉強になる本、影響を受けた本というと、それぞれ全然違う。
相手の嗜好に合わせて答える必要がありますし、そもそも本と言えば小説とビジネス書しかないと思っている人も世の中には多く、自分は小説とビジネス書以外の本ばかり読んでいるので、話がかみ合わないことも多いです。
なので、「お勧めの本は?」と問われると自分はいつも差し当たり「ない」と答えています 笑。

といいつつ、今までの読書経験の中からベストを選んでみるのも面白いかなと思い、今回は自分にとって重要な本を25冊(上下巻もあるので正確には25タイトル)を選んでみようと思います。
名付けて人生の25冊。
しかし人生を最初から振り返って選ぶとなると、それこそディック・ブルーナから始まってしまう(笑)ので、さすがに幼いころに読んだ本は除くことにし、中高生以降に読んだ本の中から、現在でも読み返す価値があると思う本、自分を形作った本、自分にとって大切だと思える本を25冊を選ぶことにします。
これを読めば、れぽれろという人間が出来上がる、そんな25冊です。


ベスト25冊を以下に並べます。

・世界史への扉/樺山紘一 (朝日新聞社)
・文学部唯野教授/筒井康隆 (岩波書店同時代ライブラリー)
・痛快 憲法学/小室直樹 (集英社)
・日本人のための宗教原論/小室直樹 (徳間書店)
・百年の孤独/ガルシア=マルケス (新潮社)

・異邦人/カミュ (新潮文庫)
・自由な新世紀・不自由なあなた/宮台真司 (メディアファクトリー)
・世界はそもそもデタラメである/宮台真司 (メディアファクトリー)
・宗教学入門/脇本平也 (講談社学術文庫)
・生きるチカラ/植島啓司 (集英社新書)

・風土/和辻哲郎 (岩波文庫)
・偶然性の問題/九鬼周造 (岩波文庫)
・時間の比較社会学/見田宗介(真木悠介) (岩波現代文庫)
・暇と退屈の倫理学/國分功一郎 (太田出版)
・職業欄はエスパー/森達也 (角川文庫)

・忘れられた日本人/宮本常一 (岩波文庫)
・逝きし世の面影/渡辺京二 (平凡社ライブラリー)
・人口から読む日本の歴史/鬼頭宏 (講談社学術文庫)
・細雪/谷崎潤一郎 (中公文庫)
・「民都」大阪 対 「帝都」東京/原武史 (講談社選書メチエ)

・日本文学史序説(上・下)/加藤周一 (ちくま学芸文庫)
・近代絵画史(上・下)/高階秀爾 (中公新書)
・西洋音楽史/岡田暁生 (中公新書)
・聴衆の誕生/渡辺裕 (中公文庫)
・音盤考現学/片山杜秀 (アルテスパブリッシング)


それぞれカテゴリごとに5タイトルずつ選びました(カテゴリについては後で触れます)。著者はできるだけ重複しないように選びましたが、2名の方は2タイトル選んでいます。これらを読みつつ42年間生き続けると、れぽれろという人間が出来上がります 笑。
なお、これらは今現在の気持ちで選びましたので、来年になるとたぶんまた違う25冊になることだと思います。本は読んだ時点ではそうでもなくても、後で振り返って「この本は実は重要だった」と感じることもよくありますので、時間が経つと重要度が変わる、読書経験というのは時を経て熟成していくような面もあります。


以下、カテゴリごとにコメントします。


最初の5冊は、歴史・思想・社会・宗教・文学それぞれについて、自分が強い関心を持つようになったきっかけの本です。
世界史への扉」(樺山紘一)は80年代末に刊行された雑誌「週刊朝百科 世界の歴史」の連載を1冊にした本で、自分は父が買っていたこの雑誌と樺山さんの文章がきっかけで歴史が好きになりました。(この本は近年講談社学術文庫に入り、入手しやすくなりました。)
文学部唯野教授」(筒井康隆)は大学教授が主人公で、物語パートと講義パートに分かれる構造を持った小説。この講義パートが20世紀現代思想を俯瞰するような内容で、フッサール、ハイデガー、ソシュール、構造主義などが著者なりの視点で解説されており、自分はこの講義パートを繰り返し読み、思想や哲学に関心を持つようになりました。(現在は岩波現代文庫に入っています。)
痛快 憲法学」「日本人のための宗教原論」(小室直樹)は、いずれもゼロ年代初頭に出版された小室直樹さん晩年の著作で、憲法や宗教の要点がまとめられており、当ブログの社会や宗教についての記事の多くはこの本を読んだ記憶をベースにして書いています。(「痛快 憲法学」は絶版、現在は「日本人のための憲法原論」として再版されています。)
百年の孤独」(ガルシア=マルケス)はコロンビアの作家による叙事的な歴史文学で、現実モデルにした虚構の歴史であり、虚構であるが故に描けるリアリティある歴史、という構造を持った作品、大学生のときに読んで文学の面白さを発見した一冊です。

次の5冊は、社会を生きる苦しみを考える5冊です。
異邦人」(カミュ)は言わずと知れた文学史上の重要作品、コミュニティから切り離された主体がコミュニティから断罪される様子と、近代の仮面をかぶったプレ近代社会の様子から、近代という時代の苦しみを考えることのできる作品で、孤独な現代の若者ならおそらくこの主人公の境遇に感情移入して読めることだと思います。
自由な新世紀・不自由なあなた」(宮台真司)は雑誌「ダ・ヴィンチ」に90年代末に連載されていた人生相談を一冊にまとめた本で、苦しみは社会からもたらされる、「私としての私」が苦しんでいるのではなく「社会の中の私」が苦しんでいるのだという視座を持つことの重要性がとくに印象的。
世界はそもそもデタラメである」(宮台真司)も同じく「ダ・ヴィンチ」のゼロ年代の連載で、映画を題材に「社会を生きる苦しみ」と「社会の外(≒世界)を生きる苦しみ」をどう超克するかというのが主たるテーマ、著者のモノローグのような文章は苦しみの社会を生きる知恵を与えてくれます。
宗教学入門」(脇本平也)は宗教の構造と機能をまとめた初学者向けの宗教の入門書ですが、苦しみでしかない生に意味を与えるのが宗教の機能であると読める本書は、生きる意味を考える上でも重要な一冊。
生きるチカラ」(植島啓司)は宗教学者による人生指南のような本ですが、幸福・不幸・偶然などについて分かりやすく書かれた本書は、生きる苦しみを考えるヒントを提供してくれます。

続いての5冊は、世界の捉え方を変えるための5冊です。
風土」(和辻哲郎)は、人種や民族ではなく気候風土に文明の差を見るという趣旨の著作で、人ではなく空間が社会を規定するという昨今の学問上の潮流を早くから予見していたような一冊。
偶然性の問題」(九鬼周造)は非常に難解な著作ですが、偶然を肯定的に見る(本来この世界もわたしも存在しなかったし、わたしはあなたとは出会わなかった、にも関わらず、たまたま世界は存在したまたまわたしとあなたは出会った)ような視点から、存在や邂逅を無条件に肯定できるように読める一冊です。
時間の比較社会学」(見田宗介)は、現代人の時間と死の感じ方を相対化する一冊で、社会による死の捉え方の相違(死者はその辺にいる、死ねば生まれ変わる、死後復活する、etc)から、死ねば終わりという現代人の考え方の特異性と無根拠性を考えることのできる一冊です。
暇と退屈の倫理学」(國分功一郎)は、現代の経済社会(過剰な労働と消費のスパイラルで回る社会)を相対化する一冊で、「バラを愛でる」が如きスローな浪費への方向転換に救いを見るという視点は重要。
職業欄はエスパー」(森達也)は同名のテレビドキュメンタリーの詳細を描いた著作で、3人の超能力者と著者との関わりと体験から、超常現象のある/ない論争の不毛性や、超常現象の存在と体験を分けて考える構えを理解することができると同時に、90年代の超常現象番組の裏側を知るメディア論としての面白さもある一冊です。

その次の5冊は、日本について考えるための5冊です。
忘れられた日本人」(宮本常一)、「逝きし世の面影」(渡辺京二)は、いずれも近代以前の日本社会の在り様を知るための重要な著作です。我々は近代以降の社会感覚を身に付けていますが、数世代前の我々は全く違う世界感覚を生きていた、このことを宮本常一はフィールドワークによって、渡辺京二は外国人の文献によって、それぞれ示してくれています。
日本社会の歴史を一冊の通史で平易に読むのに適切だと思うのが、「人口から読む日本の歴史」(鬼頭宏)で、人口の増減をベースに古代から現代までの日本社会の様子をコンパクトにまとめた本書は、家族や結婚や出産の考え方を相対化するためにも有用な本。
日本の地方都市を考える本として、自分は大阪府出身ですので、身近な阪神地区の戦間期の社会を描いた「細雪」(谷崎潤一郎)と「「民都」大阪 対 「帝都」東京」(原武史)はいずれも自分にとって重要な本。どちらも阪神地区という地方都市が近代史上に一瞬浮上した時代の在り様とその後の没落を、東京出身のそれぞれの著者なりに描いたこの二冊は、近代日本の地方の没落と集権化の加速を考える上でも興味深い本です。

最後の5冊は、文化・芸術を味わうための5冊です。
日本文学史序説」(加藤周一)、「近代絵画史」(高階秀爾)、「西洋音楽史」(岡田暁生)は、それぞれ日本文学・西洋近代絵画・西洋近代音楽の歴史をコンパクトに知ることのできる本です。
「日本文学史序説」は全体より細部に優れるという日本文化一般の特性についての指摘が特に重要。
輝かしい歴史を持つ西洋絵画が必然的に表現主義・無意識・抽象に向かう様子が分かる「近代絵画史」や、輝かしい歴史を持つ西洋音楽が必然的に現代音楽と再現音楽とポピュラー音楽に分岐する様子が分かる「西洋音楽史」は、当ブログの美術・音楽の記事の基調ともなっている本です。
聴衆の誕生」(渡辺裕)は、文化の受容論の重要性を考えるために有用な本で、
作者(作り手)と鑑賞者(受け手)と社会との相互関係の中で文化が変容していく様子から、作者や作品だけを取り出して好悪を判断することの無意味性も理解することができます。
音盤考現学」(片山杜秀)は、音楽について非常に自由に論じた本で、社会や文化と様々に絡めながら著述されている本書は、その音源を知らなくてもむやみに面白く、文化はどう受容してもいいのだという作品鑑賞の自由さを考えさせてくれる一冊です。(現在は「音楽放浪記」というタイトルでちくま文庫に入っています。)


以上、簡単にコメントしてみましたが、書き出すとそれぞれの本について1回の記事が書けるくらいの内容を持った本たちですので、コンパクトにまとめるのには骨が折れました 笑。
小難しい本やマニアックな本もあるので、お勧めするのは難しいですが、ピンときた本があれば手に取ってみても面白いかもしれません。