日ペンの美子ちゃん-現代世相史を辿る | れぽれろのブログ

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自分の実家は朝日新聞を取っており、実家に帰ったときにたまに朝日新聞を読むと、昔の「サザエさん」の漫画の紹介とともに、当時の世相について解説された記事を目にすることがあります。
漫画などのサブカルチャーには世相が表れるもの。とくに現代を舞台にした漫画では、積極的に世相を取り上げる漫画などもあることだと思います。

現在、世相を面白おかしく取り入れている漫画として、「日ペンの美子ちゃん」の広告漫画をあげることができます。
日ペンの美子ちゃんはボールペン習字講座の広告漫画で、昔からいろんな雑誌によく広告が載っていました。調べてみると美子ちゃんの漫画は1972年から続いており、なんと48年の伝統がある、これにはアダ・マウロ(西沢学園)もびっくり。
時を経た現在、広告漫画はTwitterでアップされる時代になり、美子ちゃんも2017年の年初からTwitter上で活躍、毎週のように世相が取り入れられ、ネタにされているこのTwitter版美子ちゃんが結構面白く、自分は毎週水曜日に更新されるこの広告を3年以上に渡り愛読(広告を愛読というのも変ですが)しています。
このTwitter効果もあり、日ペンは近年も加入者が増えているのだとか。かつて「字が下手で悩んているやつの何パーセントが、日ペンの美子ちゃんのペン習字を習うのだろう?」(日常/嘉門達夫)と歌われた美子ちゃん漫画ですが、インターネット時代において再び日ペンは盛り返しているようです。


ということで、現代版美子ちゃんの広告漫画を一部引用させて頂き、2017年以降約3年半の世相を振り返ってコメントしてみたいと思います。
広告漫画から読む現代世相史、というのもまた面白いものだと思います。



・世界進出の予感…! (2017年1月)


多くの人が覚えているのかどうかよく分かりませんが、2016年はPPAPなる歌が流行した年でした。どういうわけか海外で大流行し、当時の外国特派員協会でのピコ太郎の記者会見は超満員だったと言われています。
ペン習字で世界進出を目論む美子ちゃん、ふと気づくといつの間にかアップルにペンが刺さりアポーペンとなり、美子ちゃんは世界進出を確信する。
これはTwitter版美子ちゃん最初期の広告で、「この漫画は時事ネタでいくぞ」という作者の意気込み(?)が感じられるような1コマになっています。



・君も少しは忖度をだね… (2017年4月)


2017年初頭は森友学園問題・加計学園問題がメディアを賑わせた時期で、忖度なる言葉が流行しました。
同時期の2017年4月ごろ、道徳の教科書検定でパン屋が和菓子屋に書き換えを指示されるなど、教科書検定の問題が報道されました。
時流に乗って美子ちゃんも教科書検定にチャレンジしますが、ボールペンが日本的ではないと否定され、忖度を強要される(本来強要であれば忖度ではないのですが)というネタ。



・これが我々「美文字ファーストの会」! (2017年7月)


2017年7月の東京都議会選は都民ファーストの会が大躍進した選挙でした。
勢いに乗った小池百合子都知事はこの年の秋に希望の党を結成、民進党の取り込みを図った結果この秋の衆院選は2010年代最大の政局となり、首相近辺は一時は下野を覚悟したと言われていますが、民進党左派の取り込みに失敗、結果として野党を分裂させただけに終わり、これ以降自民党の盤石さはほぼ揺らぐことがなくなりました。
時流に乗った美子ちゃんも「美文字ファーストの会」を立ち上げ出馬を目論みますが、美子ちゃんは17歳のため立候補不可とのオチが付いています。



・エーッ!?業者が夜逃げ!? (2018年1月)

2018年1月、着物の販売店:はれのひ株式会社が成人の日に突然休業、多くの新成人が成人式の振袖を着ることができなくなるというトラブルが発生しました。
美子ちゃんは夜逃げした業者に出くわし、捕まえるため追いかけるというびっくりの展開に。



・女が土俵に上がっちゃいかん! (2018年4月)


2018年4月の大相撲の巡業において舞鶴市長が土俵上での挨拶中に突然倒れ、救命のため駆け付けた女性に対し「女性の方は土俵から降りてください」と行司がアナウンスしたという事件が発生。この21世紀の現代にまさかの女人禁制のアナウンス、多くの人が「そんなしきたりがまだあるのか」驚いたことだと思います。
町内相撲の土俵に足を踏み入れて怒られた美子ちゃんですが、日頃のペン習字によるの右腕の鍛錬の結果、注意した力士を逆に投げ飛ばすという快挙をやってのけています。



・時計を2時間早める議論がされてるんだよ (2018年9月)


東京オリンピックまであと2年となった2018年夏ごろは、サマータイムの導入が議論された時期でした。涼しい時間に競技を行うために夏の時計を2時間早める政策は支持されず、結局は導入されず仕舞い。
ちなみにサマータイムという制度は、経度というものを全く考慮していない政策であると近畿圏に住む自分などは思います。大阪では冬の1月初旬は朝7時でもまだ暗い、九州方面まで行くとたぶん1月の朝7時はまだ真っ暗、逆に冬を1時間でも遅くしてくれと言いたくなります。
美子ちゃんもサマータイムに驚愕、ちなみに「来たる2020年の大イベント」はこの後の美子ちゃん漫画でも数多くネタにされています。



・トミー・ジョン手術を受けるしか!! (2018年10月)


トミー・ジョン手術とは、連続投球を行った野球投手に発症する肘の靱帯断裂症状に対する修復手術。過去多くの投手がこの修復術を受けています。
2018年夏は、甲子園において金足農業高校の投手が1人で何試合も登板し、投手生命が心配されるとともに、海外では一般的である投球回数制限が議論された時期でした。
ペン習字を繰り返す美子ちゃんに突如発症する右腕の激痛、トミー・ジョン手術を覚悟する美子ちゃんですが、病院では湿布の処方で済まされるというオチが付きます。ペン習字と靭帯修復手術という組み合わせが馬鹿馬鹿しく、漫画として個人的にお気に入りの回です。



・森羅万象を担当する私に不可能はないわ! (2019年2月)


安倍首相の数々の迷言(?)の中で個人的に一番好きなのが、2019年2月6日の参院予算委員会の中での「総理大臣でございますから、森羅万象すべてを担当しておりますので」という発言です。
森羅万象というものすごく壮大なものを安倍首相という一人間が司っているという状態を想像するとデペイズマン的に面白く、どうしても笑ってしまいます。
美子ちゃんもこの時期に漫画の中で早速同じ発言を取り入れています。



・すごい新元号だよね 2文字目が意外よね! (2019年4月)


2019年4月1日、改元に伴う新元号が「令和」に決定したと発表されました。漢籍ではなく万葉集から取られたとされる新元号については当時様々な議論がなされました。
この漫画は3月31日に描かれたとのことで、これは新元号の発表の前日。ふたを開けてみると「2文字目が意外」という予言は的中しており、昭和に続いてまたしても登場する「和」に対し、自分も「まさか昭和とかぶるとは」と感じた記憶があります。



・タピオカの容器は統一されますし、江戸城も再建されます (2019年7月)


2019年7月は参院選の時期。
丸川珠代議員はタピオカ容器の不統一を問題にし、松沢成文議員は江戸城天守閣の復元を訴える。様々な問題を抱える国内政治において、これらは政策の優先順位が果たしてこれでいいのかと、話題になった発言でした。
これらの政策が実現された仮想未来、タピオカミルクティーを楽しむ美子ちゃんが突如公安に声をかけられ、条例違反のタピオカ容器を没収され唖然とするという、楽しい作品がこの時期に発表されています。



・都知事が作った例のアレよ! (2019年8月)


定期的に登場する「某国家的大型スポーツイベント」ネタ。
夏の暑い日差しを避けるための、頭にかぶる折りたたみ傘帽子がこの時期話題になりました。

美子ちゃんも早速身に着けて街に出ますが、冷たい目で見られるという結果に終わっています。



・このままだと悪に身を落としてしまいそうで… (2019年11月)


2019年秋に公開されたトッド・フィリップス監督の映画「ジョーカー」は、主演のホアキン・フェニックスの圧倒的な演技と相まって大きな話題になりました。
「ジョーカー」はピエロのバイトをする主人公が様々なトラブルをきっかけに悪に身を落とすという作品。それを受けてこの回は、美子ちゃんが失職したピエロに町中で出くわし、勇気づけるという作品になっています。
美子ちゃん漫画ではたびたび格差社会における労働者の実情がネタにされ、美子ちゃんはストになると心が燃える(笑)という設定もあったりします。



・要請しているのに自粛なの? (2020年3月)


2020年2月以降は美子ちゃん漫画でも当然の如くコロナネタが連続、マスクの転売、トイレットペーパー不足、商店の倒産などが次々ネタとして登場。
お花見をしながらペン習字をするという奇妙な習慣(笑)を持つ美子ちゃんは監視員に注意され、自粛要請なる言葉に不満を述べています。



・うがい 手洗い マスクは2枚 (2020年4月)


最後はまだ騒動の渦中にあるアベノマスク政策から。
「うがい 手洗い マスクは2枚」、なかなか語呂の良い標語ですね(笑)。
ちなみにこのコマの美子ちゃんとニャンコの距離はソーシャルディスタンスを表しています。



ということで14回分の1コマを引用し、ここ3年半の世相をふり返ってみました。
世相が表れる漫画はおそらく時代考証的に後々の世代の歴史家や批評家にとっても重要になります。
世相をゆるいネタとして昇華する現代の美子ちゃん広告漫画は面白いので、個人的には今後もウォッチしていきたいなと思っています。