大阪を歌う ポピュラーミュージックいろいろ | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

大阪を歌った歌といえば、一般に「大阪で生まれた女」(BORO、1979年)や、「悲しい色やね」(上田正樹、1982年)あたりが有名でしょうか?
これ以外にも大阪がテーマの歌もそれなりにたくさんあると思いますが、今回はその中から、古いものから最近のものまで、5曲を並べてコメントしてみたいと思います。
大阪の都市や文化と関わりのある、興味深いものをチョイスしてみましたので、ご興味のある方はお読みください。


---

・大大阪地下鉄行進曲/德山璉・小林千代子
  作曲:橋本國彦、作詞:平塚米次郎、1933年

 


大阪市営地下鉄が梅田-心斎橋間で開業したのが1933年(昭和8年)。
前回の記事の「歌う国民」の項目でも少し触れたように、唱歌から派生した日本の音楽において、社歌・校歌・県歌の類がレコード時代の到来と合わせて量産されるようになります。地下鉄開業を記念して作られたこの「大大阪地下鉄行進曲」もその手の音楽の1つ。
作曲はクラシック界で有名な橋本國彦、作詞は平塚米次郎という方。いかにも戦前昭和といった趣きのレトロな曲調が耳に残る音楽です。
谷町四丁目にある大阪歴史博物館では、この曲が延々流れているスポットがあり、自分はこの博物館でこの曲を知りました。

サビの「讃えよ地下鉄 スピード時代」は当時の近畿圏の実情をよく表しており、大阪-神戸、大阪-京都、大阪-和歌山間の鉄道各社によるスピード競争は苛烈なものでした。
50秒あたりからの間奏部分で、当時のポピュラーソング「私の青空」のメロディが堂々とパクられているのが面白く、当時の著作権に対するおおらかさがうかがえます。(「地下やのになんで青空やねん」という小ボケのために挿入された、というのは考えすぎでしょうか 笑。)
この動画では当時の都市風景も確認することができ、多くの風景は現在と変わってしまっていますが、1分42秒あたりの難波高島屋はいまも現存。大阪地下鉄は心斎橋駅や天王寺駅など、天井の照明のデザインが印象的な駅がいくつかありますが、2分25秒あたりからの照明はどこの駅なのだろう?



・雨の御堂筋/欧陽菲菲
  作曲・作詞:ベンチャーズ、1971年

 


時代は下って1971年。
「雨の御堂筋」は元々ベンチャーズの楽曲でしたが、これを台湾出身の歌手、欧陽菲菲がカバーしました。
長い大阪の歴史の中において御堂筋は比較的新しい道路で、上の地下鉄の敷設と合わせて昭和になってから工事に着工し、完成したのは1937年(昭和12年)。この歌は御堂筋完成から34年のころ、大阪市のメインストリートとしてしっかり定着したころの歌です。
この動画は2000年ごろの映像ようです。バックバンドにはベンチャーズご本人が登場。オリジナルのレコードもYouTubeには上がっていましたが、このテイクの方がよい感じなのでこちらを貼り付けます。

歌詞の中に登場するイチョウ並木は御堂筋の名物で、ちょうど今頃は綺麗に黄色く染まっています。
梅田新道から本町を経て心斎橋へ、あなたを探して雨の舗道をミナミへ歩く。
梅田新道の交差点は、国道1号線(東京-大阪の幹線道路)と2号線(大阪-福岡の幹線道路)の結節点で、近畿圏の最重要交差点。この梅田新道交差点から心斎橋まではおよそ2.5km、google mapによると歩いて約33分かかるとのことで、雨の中を傘もささず濡れながら歩くのは実はかなりたいへんだったりします。



・関西キッズ/嘉門達夫
  作曲:工藤隆、作詞:嘉門達夫、1992年

 


大阪人=騒がしい・せっかち・お笑い というイメージはいつから定着したのか?
東京から近畿圏に移り住んだ谷崎潤一郎の小説には「上方の人間は気が長い」旨の描写がよく登場しますし、昭和期の西武鉄道の乗務員は大阪の鉄道を視察した際に整然と乗車する乗客に驚いています。
騒がしい・せっかち・お笑い のような大阪人のイメージは実は時代的には新しいもので、80年代~90年代に関西芸人が全国ネットで頻繁に登場するようになって以降に定着したイメージなのではないかと自分は思っています。
この「関西キッズ」も大阪人の行動と大阪弁を面白おかしく取り上げた楽曲、大阪人の偏ったイメージの定着に関し、嘉門達夫さんはさしずめA級戦犯ともいえる人ですが、面白いので許します(笑)。

曲の前半はパリで騒ぐ大阪人による会話。
少し補足すると、丼池筋(どぶいけすじ)は船場の古くからの道の名称で繊維問屋が集中する場所、現在でもアパレル関係の店舗が見られます。
天王寺は現在ではあべのハルカスもできてかなり小奇麗になっていますが、90年代当時は現在よりも薄汚れたようなイメージが強かった街です。
明治のカルミンも今はもう売ってませんね。

より興味深いのは後半2分30秒あたりから。
近畿圏のイントネーションには中国語の声調に近いようなある種の抑揚があり、「目」「手」「屁」「歯」「毛」はこのように発音するのですが、近畿圏以外の人にはなかなか分かりにくいのではないかと思います。4分あたりからの春夏秋冬の発音も面白く、春の「る」や秋の「き」で最後に音程が一瞬下がるのもたぶんかなり正確。(このように正確に発音する人は自分も含め今は少ないかも。)
4分30秒以降の文例の中には「これ、誰が使うねん 笑」というものも混在しています 笑。5分13秒からの「ほかす」(「捨てる」の意味)や、「なおす」(「収納する」の意味)などは、関西の言葉を考える上で重要。女性アナウンサーのリピートがまた面白くて笑えますね。



・大阪ストラット/ウルフルズ
  作曲・作詞:大瀧詠一、編曲:ウルフルズ、1995年

 


続いては大阪のバンド、ウルフルズによる90年代の楽曲。
大阪の街を歌った部分と、大阪人の会話からなる楽曲ですが、原曲はなんと大瀧詠一。調べると大瀧さんは岩手県出身で、大阪とは関係なく、歌詞などは一部ウルフルズが編曲したもののようです。
前半の歌詞は梅田界隈の描写で、紀伊国屋・三番街・茶屋町・カンテグランデなどはすべてキタの阪急文化圏にある場所なのですが、映像ではミナミの新世界・道頓堀界隈が映っており、歌詞と映像は実はかなり乖離があります。

中間部のラップ(と言っていいのか?)の部分の大阪人による会話は、上記の嘉門達夫さんに比べると、90年代当時の若者言葉としてはそれなりに正確なのではないかと思います。
「ぶわー」「ぐわー」「しゅっ」といった擬音の多さ、うどん、マクド、タイガース、割り込むおばはん、など、大阪人のステレオタイプが95年時点で既に定着していることが分かります。
「よう言わんわ」は笠置シヅ子の「買物ブギ」に遡ることのできる古くからの大阪弁ですが、現在は使う人はほとんどいないように思います。その他、細かいことを言えば、「他に比べりゃ」の「りゃ」は関東方言なので、大阪ではまず使いません。



・三国駅/aiko
  作曲・作詞:aiko、2005年

 


最後は大阪府出身のaikoによる2005年の楽曲。
YouTubeではオリジナルPVも部分的にアップされていますが全曲は聴けず、この動画は鉄道の音が少し邪魔ですが、他に良い動画がないのでこちらを貼り付けます。
三国駅は大阪市淀川区にある駅で、梅田から阪急宝塚線で3駅。aikoさんは大阪府吹田市出身で、大阪音楽短期大学出身とのことですが、この大学は豊中市にあり、最寄り駅は阪急宝塚線の庄内駅で、三国駅からは1駅離れています。庄内駅から三国駅へは神崎川を越えて市を跨がなければならず、それなりに行き来は面倒な場所だと思います。

歌われるのはおそらく学生時代の恋愛とリグレット。
aikoの楽曲はメロディの半音階進行が気持ちよく、この楽曲もAメロがとくに良い感じ。
「変わらない町並み」と歌われていますが、昨今の都心回帰とタワーマンションブームにより、梅田から3駅という好立地にある三国駅周辺も現在は再開発により景観は変わってしまっていることだと思います。
この映像は阪急電車を映したたものですが、三国駅があるのかどうかは不明。2分40秒あたりの映像が阪急梅田のターミナルで、左右両側から乗降可能な線路が9つもある、関西私鉄ならではの巨大なターミナル駅の様子がうかがえると思います。