近江を歩く -観音正寺- | れぽれろのブログ

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西国三十三所探訪シリーズ。
5/26日の土曜日、滋賀県は琵琶湖の東側、近江八幡市の東の端にある観音正寺に行ってきましたので、覚書などを残しておきます。

観音正寺は西国三十三所の第三十二番札所。
琵琶湖の東側の平野部には小さな山がぽこぽこといくつか存在しており、観音正寺はその山のうちの1つである繖山(きぬがさざん)の山の上にあります。
これがまた訪れるのが厄介な場所で、路線バスは通じておらず、お参りするには車で訪れるか、もしくは歩いて山登りをする必要があります。
最寄りのバス停(近江鉄道バス神崎線の観音寺口)は山のふもとにあり、お寺のホームページによるとこのバス停から歩いて40分とのことですが、google mapを見る限りまともな道は表示されません。
とんでもない山道を登ることになりそうですので、今回はタクシーを利用することにしました。
西国三十三所、初のタクシー利用です。

観音正寺は近江八幡市の東端にありますが、繖山は近江八幡市と東近江市にまたがっており、東近江市側から登る方が距離が短いようです。
ということで、JR大阪駅から新快速に乗り、1時間10分ほどで東近江市のJR能登川駅に到着。
駅前からタクシーに乗り、お寺までの道のりをショートカット。
タクシーの運転手さんのお話によると、観音正寺のお参りルートとしては南側の表参道と東側の裏参道があり、どちらのルートも整備された階段などではなく険しい石段で、琵琶湖畔の長命寺(三十一番札所)などに比べるとはるかに登りにくいのだそうです。
タクシーにしてよかった・・・。

観音正寺までの車用道路(林道観音寺線)は五箇荘料金ゲートを越えると有料になるので、ゲートの手前で降車し残りは歩いてみては、とタクシーの運転手さんに提案頂きました。
JR能登川駅から五箇荘料金ゲートまでのタクシー代は2千円弱。
残りの道は歩くと無料ですので、お財布にも優しい選択。
料金ゲートからお寺までは1.7kmほどありますが、なだらかな舗装された上り坂で歩きやすく、山林の中を心地よく歩くことができました。
鶯が鳴いている(うるさいくらいに鳴いていました 笑)山道をのんびりと歩き、お寺の入口に到着。


入口はこんな感じ。



山道を進みます。



こちらが入口。

山門はありません。

 

2体の仁王像がお出迎え。




山門がなく仁王像のみであるのは、前回訪れた岩間寺と同じ趣向です。


観音正寺は敷地はあまり広くはないですが、あれこれと見どころはあり、面白いお寺でした。
キーワードは、聖徳太子、石、そして謎の説教臭さです。

観音正寺は西国三十三所の第三十二番札所。
ご本尊は千手観音像で、宗派は天台宗系単立。
開基は605年、同じ琵琶湖東岸の長命寺と同じく聖徳太子に由来するお寺のようです。
繖山は中世以降、六角氏により観音寺城が築かれ、観音正寺と共に中世全般に渡り栄えた地であったようですが、織豊期に織田信長との戦いに敗れて以降衰退、現在は近世に復興されたお寺のみが残っています。
その本堂もつい最近、1993年に焼失し、現在は再建されたものです。
常に戦乱・火災・地震・風水害の危機にさらされるのが日本のお寺。
山門がないのも、単に復興されていないだけということなのかもしれません。


「ようおまいり」の看板。

この文言は三室戸寺でも見た記憶あり。


こちらが開基と伝えられる(ほんまかいな)聖徳太子の像。


 

大きな釈迦如来像もあり、


 

白蛇を祀る洞もあります。

白蛇が登場するのも前回訪れた岩間寺(正法寺)と共通。


恒例の水子供養。


 

こちらが本堂。

1993年の再建です。
お参りしてきました。
千手観音は顔が大きく巨大なもので、独特の趣がありました。


お寺の敷地から見える風景。




繖山は標高433メートルとのことで、いい景色が見えます。
琵琶湖畔にぽこぽことそびえる山々が小さく見える。
田んぼや畑の矩形とカラーリング、山と平地の組み合わせが、かなりいい雰囲気です。


観音正寺は石や岩が目立つお寺です。

本堂の右側には石の山が。


 

小さな仏様。これも良い雰囲気です。


 

石山の前の池。


 

真っ赤なお魚。


 

奥の院にも岩が祀られており、



ねずみ岩と呼ばれる巨大な岩もあります。


石や岩が祀られるのも、石山寺や長命寺と共通です。
琵琶湖周辺には太古の巨岩信仰が残っており、6~7世紀の仏教伝来の際にその信仰の地がお寺に変わった、ということなのかもしれません。


竹生島クルーズの案内。

これも長命寺付近にもありました。
次回こそ宝厳寺に行こうかな。



さて、観音正寺のもう1つの特徴が、謎の説教臭さです。

入り口付近の表示。

いきなり「感謝する心」という有難いお言葉が。


さらに、裏参道への山道には、西国三十三所に合わせてということなのか、三十三の格言が表示されていました。

こんな感じで1番から33番まで、格言が並べられています。

参拝者はこの格言を読みながらお参りする形になります。


なるほど、ええこと書いとるな、という言葉もあれば、


 

いや、世界は絶対にそうなっていない! と、思わず反発したくなる言葉まで。



いまいち文意が伝わりにくいものもあります。



薄れて読めないものや、



看板自体折れてなくなっているものも。



ということで、以下全文を書き起こしてみます。
※「×」としているのは判別困難な文字、看板がないものはその旨記載。

1.人の一生に厄年はない 躍進の「やく」と考えよ
2.今日一日を大切に 感謝の気持ちで最善をつくそう
3.祖先は自分の中に生きている 祖先の徳に感謝しよう
4.人生には真の失敗はない 前進する一過程である
5.安易な生活からは人生の貴重な体験は生まれない
6.楽なことを幸福と思っていては人生の深い喜びは味わえない
7.姿かたちを真似るより その人柄の良さを学ぼう
8.人知らずとも良心これを知る
9.子供は両親の言う通り行動しないでする通り行動する
10.夫婦の円満は互の働きを感謝し合うことから生れる
11.×しい人生の中には×ず苦しい時代の経験が生きている
12.(看板見当たらず)
13.友情とは二つの身体に宿る一つの魂である
14.明日は何を為すべきかを知らない人は不幸××
15.(看板見当たらず)
16.積善の家には必ず余慶あり
17.行き詰りは環境のせいではない 自分の心の行き詰りである
18.失敗を恐れるな 成功は失敗のつみ重ねである
19.わが子は深い愛情で育てられながら親を養うことは忘れ勝ちである
20.その人を知らんとすればその友を見よ
21.(看板見当たらず)
22.金を貸せば友と金とを共に失う
23.食物に対して文句の多い人程健康を害している
24.最も幸福な人はいつも行動している人である
25.友情は喜びを二倍にし 悲しみを半分にする
26.××××迷惑よりかけている××××(判別困難)
27.責任を負ってこそ自由がある 責任のない自由は許されない
28.相手だけを責めるから争いになる ××××××(判別困難)
29.真心から出た言葉は相手の心をも動かせる
30.人間は逆境にきたえられて自信と確信が生れる
31.一歩一歩の尊さ
32.人はあるもの粗末にし ないものを欲しがる
33.昨日より今日 今日より明日


全体を通して、かなり因果律と修養主義によって規定されている格言です。
悪いことは書いていないですが、自己責任論に収斂しやすく、社会改善への契機には繋がりにくい格言、とうことは言えるかもしれません。
有体に言うと慈悲が欠けている。
(格言に慈悲を期待する方が間違っているのかもしれませんが 笑。)

調べてみると、この山道は「ことわざの道」と言われるようです。
「観音正寺」「ことわざの道」で検索すると正確なものを確認できますので、ご興味のある方は調べてみても面白いかも。

この格言がいつできたのかはなかなか興味が湧くところ。
言葉使いからしてそんなに古いものではないと思いますが、立身出世主義的な昭和中~後期の言葉なのかな。


ということで、面白いお寺でした。


帰りはどのルートで帰ろうかな。

結神社まで1100m。
下りならそんなに厳しくはないだろうと思い、裏参道の山道を利用してみることにしました。


げ、この道をいくのか。


 

こんな感じの丸太や石段が続く道。

写真で見るよりもずっと厳しい山道です。
ときに段差が激しく、転ばないように注意して降りる必要があります。
草が生い茂り虫も多く、足に非常に負担がかかり、登山愛好者向けルートと言ってよいと思います。

この道をヒーヒー言いながら下山。
下りなら楽だと思ったのが甘かった・・・。
やはりこのルート(裏参道)は、下りであれ足腰に自信がある人以外にはお勧めできません。


途中に忠霊塔がありました。

突然現れるのでびっくり。
この塔が見えると、結神社まではあと少し。


山道の入口に到着。


 

山のふもとにある結神社。

割と大きな神社でした。
ここまで来れば、観音寺口のバス停まではあと少しです。

疲労しましたが、繖山の雰囲気はよく、興味深いお寺でした。
東近江市や近江八幡市にも面白い観光スポットがありそうですので、街もいずれ歩いてみたいなと思っています。


西国三十三所、残り2所。