弦楽四重奏のフロンティア アルディッティ弦楽四重奏団 | れぽれろのブログ

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6月18日の日曜日、「弦楽四重奏のフロンティア Vol.1 アルディッティ弦楽四重奏団」と題された演奏会を鑑賞しに、大阪城公園傍のいずみホールに行ってきました。
自分は弦楽四重奏を生演奏で鑑賞するのは久しぶりです。
調べてみると、2010年に来日したウィーン弦楽四重奏団の演奏会以来ですので、実に7年ぶりとなります。
こんなに長らくカルテットを聴いてなかったとは何やらびっくり。

アルディッティ弦楽四重奏団は主として20世紀音楽・現代音楽の演奏に定評があるらしく、その中でも前衛的な作品をレパートリーとする楽団とのことです。
このような演奏会はいずみホールにぴったり。
この日はバルトーク、クルターグ、リゲティという3人のハンガリーの作曲家の作品、及び、いずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督でお馴染みの西村朗さんの最新作が演奏されました。
西村さんの作品は世界初演。
全4曲とも非常に素晴らしい演奏で、とりわけ後半の2曲を楽しく鑑賞しました。


以下楽曲ごとの感想など。

前半1曲めはバルトークの弦楽四重奏曲6番。
弦楽四重奏の金字塔と名高いバルトークの全6曲のうち最後の1曲。
1939年の作曲で、これは第2次世界大戦が始まった年。
そのせいもあってか、全体のトーンはやや悲劇的な色彩が強い楽曲です。
1~3楽章は同じ音型(悲しみの表現のようです)で開始され、1楽章から順にそれぞれヴィオラ、チェロ、ヴァイオリンにより演奏されます。
2楽章のややいびつな行進曲、3楽章の舞曲がとりわけ楽しい。
4楽章は死に絶えるように演奏され、この日の演奏もこの4楽章の弱音ががとりわけ美しく感じられ、心地よく鑑賞しました。

続いてはクルターグの「オフィチウム・ブレーヴェ」(小聖務日課)と題された楽曲。
小品が15曲詰まった作品で、1曲1曲がやたら短く(数秒で終わる作品もあります)、どことなくヴェーベルン風の楽曲です。
1977年にポスト・ヴェーベルンの作曲家と言われたセルヴァンスキーなる作曲家の追悼のために作曲された楽曲であるとのこと。
短い断片のような楽曲のためかなり集中力の必要な作品で、ときどき瞬間的に登場する美音を堪能することができました。
以前にヴェーベルンの「管弦楽のための5つの小品」という非常に短い曲が連続する楽曲を実演で聴いたことがありますが、オケの場合は1曲ごとに楽器のセッティングや指揮者の準備に時間がかかり、なんとなく集中力がそがれました。
一方、弦楽四重奏の場合はすぐに次の楽章に移ることができますので、このような断片が連続するような音楽の試みは、室内楽の方がより向いているように感じます。

後半1曲めはリゲティの弦楽四重奏曲2番。
これが非常に楽しい演奏でした。
1968年の作品で、バルトーク弦楽四重奏曲の延長上にあるなどと言われる作品のようですが、演奏の難易度はバルトークよりずっと難しそうです。
高音域を弱音でやたらと細かい動きで演奏したり、とにかく演奏に対し非常に難しい技巧が必要になることが聴いていて分かります。
アルディッティはこの難曲をいとも簡単に、かつ見事に仕上げているようにに聴こえました。
すごいテクニックです。
楽曲の中で突発的に盛り上がる部分が多く、この部分がやたらとかっこいい。
この勃発部分の4人の呼吸の合いようが素晴らしく、非常に楽しく鑑賞しました。


さて、ラストは西村朗の弦楽四重奏曲6番「朱雀」の世界初演です。
西村朗さんの作品は生演奏で鑑賞すると、とりわけ音色が楽しい作曲家であるように思います。
過去に自分が鑑賞した西村作品はいずれもオケ作品でしたが、今回は管楽器も打楽器もなく、音に色を添える特殊楽器もありません。
限られた弦楽器のみでどのように音色を表現するのか・・・。

全体は2楽章で、1楽章が「鬼と星」、2楽章が「火と翼」という副題がついています。
この楽曲は前3曲と比較してかなり趣が異なります。
前3曲がハンガリー人の作品であったのに対し、こちらは日本人の作品。
前3曲はどちらかといえば構成や展開が重視されているように聴こえましたが、こちらは響きと音色がより重視されているようです。
前3曲は静謐なイメージ(リゲティはそうでもないですが)が支配的であったのに対し、こちらは非常に激しく動的な印象でした。

この作品はポルタメントがやたらと多用され、これが朱雀が浮かんだり沈んだり、空中を移動しているような印象を与えます。
どういうスコア上の指示なのか、弦の音色がコロコロ変わります。
文章では表現困難ですが、弦でどうやってこんな音が出せるのか、といった感じ。
とくにチェロの低音部がフォルテで重なる部分で、かなり不思議な音がします。これは楽しい。
2楽章も浮遊的ポルタメントと不思議音色が登場し、1楽章と傾向は似ていますが、どちらかといえば2楽章はリズムが重視される趣向で、様々なリズムパターンが登場し、技巧的にも難しそうです。
とにかく一瞬一瞬の音色が楽しく、生演奏の醍醐味を存分に味わうことができました。


ということで、とくに後半2曲が素晴らしく、楽しく鑑賞しました。
拍手喝采。
西村さんも登場し、舞台に上がって拍手を受けています。
並大抵の技巧では演奏できないように思われるような楽曲、アルディッティ弦楽四重奏団のテクニックの素晴らしさに拍手です。


弦楽四重奏曲はオケ曲に比べると生演奏の迫力がやや弱く、別にCDでもいいかな、などと自分は思ってしまいがちです。
しかし今回感じたことは、現代音楽の場合はやはり生演奏が楽しいということ。
そもそも古典派やロマン派の室内楽の楽曲はホールで演奏されることを想定していませんが、現代音楽の作曲家は現代のコンサートホールで演奏されることを想定して作曲していますので、考えてみれば生演奏で現代曲の方が面白いのは当たり前のことなのかもしれませんね。
機会があればまた現代の室内楽を聴いてみたいです。