快慶 日本人を魅了した仏のかたち | れぽれろのブログ

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9日の日曜日、「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」と題された展示を鑑賞しに、奈良国立博物館に行ってきました。
この日はちょうど桜満開の日。
前日からこの日の朝方まで雨降りでしたが、お昼前には雨は上がり、
桜が見ごろの奈良公園は観光客(とくに外国の方)で混雑していました。
鹿と桜の楽しい組み合わせを横目に、国立博物館に向かいました。


快慶は鎌倉初期に活躍した仏師、いわゆる慶派の仏師の1人です。
この時代の仏像彫刻分野において、最大の重要作家は言うまでもなく運慶ですが、快慶仏も運慶仏にはない魅力があり、自分は快慶の作品が好きです。
本展は快慶の総力特集。
会場には快慶の作品がずらりと並んでいました。
一部同時代の快慶の影響下にあると思しき模倣作の類や、同時代の歴史資料なども展示されていましたが、メインの展示は快慶仏でその比率は高く、魅力的な展示になっていました。

 


仏像の種類ごとの感想など。


まずは如来像。
快慶は阿弥陀如来立像を数多く制作しており、本展でも阿弥陀如来立像が最も多く展示されていました。
それぞれの阿弥陀様の表情や形態などは、細かい部分の差異こそあれ、大きな変化はなく、快慶の一貫した様式を楽しむことができます。
代表はやはり東大寺の阿弥陀如来立像でしょうか。
地蔵菩薩立像とセットで展示されており、この阿弥陀様とお地蔵様は本展の大きな見どころの1つです。
これらの阿弥陀様のシンプルな如来としての造形、表情、穏やかな仏様の佇まい、完成された魅力的な調和、バランスの良さは、仏像を鑑賞する醍醐味に満ちています。
阿弥陀如来立像の数々は、それぞれの衣服の表現の差異など、マニアックな特徴の違いも解説されており、このあたりは仏像マニアの方も楽しめる部分だと思います。


如来像に比べて、快慶の菩薩像の展示は少ないです。
まずは会場入口にボストン美術館の弥勒菩薩立像が展示されていました。
この作品は5年前に東京国立博物館で開催されたボストン美術館展で鑑賞した記憶があります。
体躯が描く曲線が心地よく、服装の細部の装飾が素晴らしい作品。
如来像とは異なり菩薩像には様々な装飾が施されており、細部を観察するのが楽しいです。
ベストはやはり上にも書いた東大寺の地蔵菩薩立像でしょうか。
服装の彩色も心地よい作品。
メトロポリタン美術館の地蔵菩薩立像も東大寺の作品と同様式で、素敵な作品でした。
菩薩像では醍醐寺の弥勒菩薩坐像が最も重要な展示だと思いますが、こちらは残念ながら4月下旬以降の展示とのことで、この日の展示はありませんでした。


天部像も装飾部分が目立ちます。
ゴテゴテした鎧や武器の類の表現が楽しい。
京都金剛院の深沙大将立像は、膝に象の装飾が施されており、高野山は金剛峰寺の深沙大将立像は髪の毛が逆立ち、骸骨の首飾りを付けています。
これらの装飾過多でバロックな雰囲気の彫刻はいかにも鎌倉彫刻といった感じで、鑑賞するのが非常に楽しいです。
金剛峰寺の孔雀明王坐像も派手な作品で、孔雀とその羽の装飾も含め、目を楽しませてくれる作品です。

 


運慶との比較について。
自分は過去に運慶の作品も何度か鑑賞したことがありますが。
全体的な印象として、運慶は写実性に優れ迫真的な作品が多いのに対し、快慶はどちらかと言えば様式的で調和のとれたものが多いように思います。
こと写実性・迫真性という点では、快慶は運慶にはかないません。
本展示では、有名な快慶の東大寺僧形八幡神坐像(国宝)も展示されており、これは写実性を追求したと思しき作品ですが、運慶の無著・世親立像や八大童子立像などと比較すると、やはり運慶の方が迫真性に満ちているように思います。
金剛力士立像も快慶の場合は身体や筋肉の在り様もどことなく様式的な感じがします。


一方で快慶の如来像の端正さ、菩薩像の細部の華麗さは、運慶にはない魅力があるように思います。
より柔和で繊細な表情の快慶の阿弥陀様、如何にも衆生を救済してくれる感じに溢れる如来たち、髪や指などの細部の造形の心地よさ、これらの特徴を持つ快慶仏もやはりまた魅力溢れるものです。
自分は快慶の作品により愛着を感じますが、今回の展示でも改めてそれを感じました。

 


その他、西国三十三所との関連。
過去に訪れたことのあるお寺に快慶仏があると何やら嬉しい気がします。
上記の醍醐寺の弥勒菩薩坐像は鑑賞できませんでしたが、松尾寺の阿弥陀如来坐像は鑑賞できました。
快慶作ではありませんが、清水寺の千手観音坐像も展示されており、これも快慶風の作品で、細部の造形が素晴らしく、千本ある(と思われる)手の表情の違いを観察するのも楽しい。
長谷寺の巨大な十一面観音像(お参りして足に触れて来ました)のミニチュア版(?)の十一面観音立像(長慶作)も展示されており、それぞれのお寺の在り様を思い出しながら、楽しく鑑賞しました。

 


ということで、楽しい展示でした。
全体的に後期の展示の方が充実しているように思いますので、5月中旬以降の鑑賞の方が良いかもしれません。
(ただし金剛峰寺の孔雀明王坐像が鑑賞できるのは前期です。)
快慶仏がずらりと並ぶ得難い展示ですので、ご興味のある方はぜひこの機会に奈良国立博物館へ。