藤田嗣治展 東と西を結ぶ絵画 | れぽれろのブログ

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先月急に悪化した腰痛ですが、おかげさまですっかり良くなりました。
7月上旬は本当に酷くて、ボルタレンなしでは何もできないほどでしたが、
7月最終週にはかなり改善され、薬は不要になりました。
前屈したり無理な体勢を取ったり、椅子に座る角度によってはまだ痛みますが、
普段はときどきしびれを感じる程度でほとんど気にならなくなりました。
腰痛経験者の話によると、椎間板ヘルニアは体重が軽いと改善しやすいらしく、
今回ばかりは小柄で良かったなと思っております(笑)。

痛みが消えると調子に乗って(?)すぐにウロウロしたくなってくるもの。
ということで8月6日の土曜日、兵庫県立美術館に行ってきました。
目的は「藤田嗣治展 東と西を結ぶ絵画」と題された展覧会です。
藤田嗣治は個人的に好きな画家。
関西では2006年に京都国立近代美術館で大規模な回顧展が開かれ、
自分もこの展覧会も鑑賞しました。
この2006年の展示はフジタの全貌を振り返ることのできる充実した展示でした。
今回は10年ぶりの特集展示、10年前と重複している部分も多かったですが、
初公開の作品もあり、楽しめる内容でした。
10年前の京都は割と混雑していたように記憶していますが、
今回の神戸は割と空いており、ゆっくりと鑑賞することができました。

藤田嗣治の作風の変遷については、過去に記事化したことがあります。
[藤田嗣治 その1]
[藤田嗣治 その2]

上の記事でも書きましたが、フジタの作品はだいたい10年ごとに
作風が変わります。
10年代はキュビスム風やアフリカ風など同時代のフランスの潮流を模索した時代、
20年代は独特の乳白色を主体とした作品を次々と制作し、
エコール・ド・パリの寵児となった時代、
30年代は作風を変え、中南米・中国・沖縄と各国を転々とした時代、
40年代前半は日本で大規模な戦争画を描いた時代、
50年代以降は再びフランスに戻り、子供の絵や宗教画を描き続けた時代。
このうちフジタといえば20年代の作品が有名で、
最近では「アッツ島玉砕」に代表される40年代の戦争画も注目されていますが、
30年代や50年代の作品にも素敵なものはたくさんあり、
個人的にはこれらの時代の作品の中に好きなものが多いです。

30年代の作品では、まず「家族の肖像」(1932)の人物描写と画面構成が
お気に入り度高し。
メキシコ時代の作品では「ラマと四人の人物」(1933)や
「メキシコの少年」(1933)などが素敵で、
20年代の乳白色ではなく褐色を主とした描き方が良い感じです。
中国時代の作品はまた作風が異なり、「力士と病児」(1934)などは
フジタ全時代の作品の中でもかなり独特ですが、
画面上の人物配置が心地よい作品。
本展覧会は8月23日以降は後期展示となり、一部作品が入れ替わります。
日本の少年を描いた個人的に好きな作品「魚河岸」(1934)は
後期の展示となっています。(残念ながら自分は見られませんでした。)
楽器を演奏する男女を描いた「田園での奏楽」(1935)は、
うって変わってヴァトーのような世界。
あと30年代ではありませんが、猫が集団で躍動する「猫」(1940)もまた
見逃してはならない作品です。

50年代以降は「小さな主婦」(1956)に代表される
一連の子供の絵がやはり印象深いです。
このころにはフジタは子供と女性と動物ばかりを描くようになり、
そして子供の絵は皆眉毛がなく、無垢なようであり悪意があるようでもある、
不思議な表情をしているのが魅力的。
そして晩年の宗教画、今回は「黙示録」(1959)のシリーズが展示されており、
ある種の北方ルネサンス絵画のような細部の描写が楽しめる作品でした。

もちろん20年代の白を基調とした作品の素敵な色合いも楽しむことができ、
有名な「五人の裸婦」(1923)なども展示されています。
「アッツ島玉砕」(1943)年に代表される、
夥しい人物が入り乱れる混沌とした戦争画も圧巻。
「自画像」(1929)をはじめ、猫ちゃんが絵がれた作品も多数。
時代ごとに作品が並べられ、画家の絵の変遷を辿ることのできる
興味深い展覧会になっています。

個人的には30年代と50年代以降の知られざる(?)フジタ作品に
注目して頂きたいです。
魅力的な作品が多数展示されていますので、
お時間のある美術ファンはぜひ兵庫県立美術館へ。