倍音のはなし | れぽれろのブログ

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「倍音」についてリクエストを頂きましたので、
ちょっとあれこれと調べて書いてみることにします。
自分は倍音のことについてはそんなに詳しくなかったのですが、
調べてみるとなかなか面白い内容でしたので、
記事としてまとめておきます。

 

以下、「超意訳」で倍音について調べたことをまとめてみます。
意訳ですので、原理的に厳密なことは専門書を参照してください。
コンパクトにまとめたため、説明不足で分かりにくいところもあるかもしれません。
どちらかというと分かりやすさより簡潔さを重視していますので、

そのあたりはご了承ください。
(「分からん!」という方がおられたら、申し訳ありません 笑。)


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まず、音は波の形で表すことができます。
何かが振動したとき、その衝撃が空気を震わせ、
空気中を振動が伝わって我々の耳の奥の鼓膜を震わせ、
我々はそれを音として認識します。

 

基本的な波の形は正弦波(サインカーブ)で表すことができます。
正弦波で表される音を純音と言います。
純音のサンプルがYouTubeにありましたので、リンクを張っておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=7RrmBoPXdPA

 

エクセルのグラフ機能を利用して正弦波をプロットしてみました。

 

・グラフ①

倍音_01

音の場合、縦軸が音圧、横軸が時間として表されます。
音圧はざっくり音の大きさと考えてもらって問題ないと思います。
ある地点で音を観測したとき、時間とともに音圧が大きくなったり

小さくなったりします。
このような形で音は空気を媒質としながら伝わっていきます。

 

このグラフの時間0から1までが波の周期(波のひとかたまり)です。
音が鳴っている間、この周期が何度も繰り返されるわけです。
1秒間にこの周期が何回繰り返されるかが周波数です。
1秒間に1回この周期が繰り返される場合、周波数1Hz(ヘルツ)。
1秒間に1000回この周期が繰り返される場合、

周波数は1000Hz=1kHzとして表されます。
周期が短くなる(=周波数が大きくなる)と、音は高く感じられ、
周気が長くなる(=周波数が小さくなる)と、音は低く感じられます。

 

以下はグラフ①に対して周期を半分にしてプロットしたグラフです。

 

・グラフ②

倍音_02

時間0から1の間に、同じ波の形が2回繰り返されていることが

分かると思います。
これがグラフ①の音に対する「倍音」になります。(厳密にいうと2倍音)
周期が半分になる(=周波数が倍になる)と、音は1オクターブ高くなります。
標準のラの音(1点イ音)は440Hzです。
純音の場合、正弦波の一つの周期が、1秒間に440回繰り返されます。
それより1オクターブ高いラは880Hz、これが元のラの倍音、
1つの周期が1秒間に880回繰り返されるわけです。

 

自然界では上記のような純音がそのまま聴こえることはありません。
様々な音圧・周期(周波数)の純音が重なり合って、

自然界の音を形作っています。
このような純音の組み合わせを複合音と言います。
自然界のあらゆる音は、複合音です。

 

試しに正弦波(純音)を重ね合わせてみます。
エクセルで上記のグラフ①とグラフ②のデータを重ねてプロットしてみます。

 

・グラフ③

倍音_03

こんな波の形になりました。
グラフ①とグラフ②は同じ音色で、音の高さだけが異なりました。
グラフ③は周期(周波数)はグラフ1と同じ、つまり音の高さはグラフ1と同じです。
しかし、グラフ③はグラフ①とは違った音色に聴こえます。
複合音の波の形の違いが、音色の違いになるわけです。
そして、周期が半分(周波数が倍)の波が重ねられていることを、
「倍音が含まれている」と言い表したりするようです。

 

試しに、エクセルを使って周波数3倍、周波数4倍のグラフを重ね合わせてみます。

 

・グラフ④

倍音_04

純音に対して2倍音、3倍音、4倍音が含まれた複合音のグラフです。
だいぶ形が複雑になってきました。
このグラフ④は、グラフ③とはまた異なった音色になります。

※このグラフ④は縦軸(音圧)のスケールはグラフ①~③とは合っていません。

 

世の中の様々な楽器は、この倍音の組み合わせにより、

様々な音色を作り出しています。
弦や管などの音を出す構造により、

様々な形で倍音が構成されるようになるのだそうです。

 

一般にエアリードの楽器は構造上純音に近い(倍音が少ない)のだそうです。
フルートやリコーダーがエアリードの楽器です。
上に純音(正弦波音)のYouTubeのリンクを張りましたが、
この音はどことなくフルートやリコーダーの音色に近いような気がしますね。

 

クラリネットは円筒形の閉管構造であるため、

奇数倍の倍音でのみ共鳴するのだとか。
なのでクラリネットは倍音成分が少なく、シンプルな音色になります。
サックスは管が円錐形であるため、偶数倍の倍音でも共鳴するのだそうです。
このため、サックスはフルートやクラリネットより倍音成分が複雑で、

音色も複雑になります。
オーボエやファゴットのダブルリードの楽器はさらに倍音が含まれやすく、
複雑で特徴的な音色になりますが、ダブルリード楽器は倍音構造を

コントロールすることが難しく、音色は一定的なものになります。
それに比べるとトランペット・ホルン・トロンボーンなどの金管楽器は
マウスピースの吹き方のコントロールにより様々に倍音をコントロール

できるとのことで、奏法によって音色が多様に変化する楽器です。
ヴァイオリンなどの弦楽器も、弓の当て方によって倍音をコントロールでき、
様々な音色を作り出すことができます。

 

音程のある一般的な楽器の音は、偶数倍だとか奇数倍だとか、
整数の倍音での組み合わせで構成されています。
整数倍の倍音の組み合わせということは、ある音程の音を出したときの

音の周期(周波数)に変化はないということです。
なので、整数倍の倍音の組み合わせの場合、倍音の含まれ方によって

音色は多用に変化しますが、音程は変わらず、音は規則的です。

 

しかし、当然ながら世の中には整数倍でない倍音の組み合わせもあります。
このような倍音を非整数次倍音と呼んだりするようです。
非整数次倍音が優位に含まれると、周期(周波数)が乱れるため
綺麗な音程のある音には聞こえず、ノイズになります。
自然界の多くの音は非整数次倍音の構造であるため、

音程があるように聴こえにくいのです。
厳密にいうと実際の楽器においても非整数次倍音は含まれていますが、
整数次倍音が優位なため、きっちりとした音程として聴こえます。
打楽器の例で言うと、ティンパニなどは整数次倍音がやや優位なため、

音程を取ることができます。
スネアドラムやシンバルなどは非整数次倍音が優位なため、

音程感のある楽器ではありません。
しかし、非整数次倍音と言っても波の形の違いによる音色の違いは

あるわけで、スネアにはスネアの、シンバルにはシンバルの

固有の音色があります。

 

ピアノは太い弦(弦と言っても棒に近い)をハンマーで打弦する

楽器ですので打楽器的な側面があり、音は一気に立ち上がった後、

長い余韻を伴う音となります。
弦を叩くとその振動が響板・側板・フレーム・支柱などに伝わり、

複雑な振動となります。
これらの特徴から、ピアノの音は倍音の周波数からずれた成分音と

なるらしく、振動周波数は倍音関係にはならないのだそうです。
このことがピアノの独特の音色と関わっているのだとか。

 

パイプオルガンはたくさんのパイプを並べた構造になっており、
それぞれのパイプを同時に組み合わせて鳴らすことによって倍音を

コントロールし、様々な音色を作り出す楽器です。
このように倍音を組み合わせて再構築し、音色を模索するような楽器は

非常に珍しく、他に例がありません。
原理的・理論的に倍音を組み合わせて音色を作り出す楽器は、

パイプオルガンを除いては、20世紀のシンセサイザーの登場で

初めて可能となります。

 

人間の声も同じ、歌唱法により倍音を様々にコントロールすることができます。
一般にクラシック曲の歌唱法は倍音成分が少なく、

透明感のある発声になります。
なので、ソプラノ歌手などの歌声は、どの歌手も似通った性質になります。
ファルセット(裏声)も倍音成分は少なく、

カウンターテナーの声も倍音の少ない声です。
西洋では古くからグレゴリオ聖歌など合唱を重視した音楽が優位でしたので、
各人の特徴的な声質を抑制し、純音に近くなるような歌唱法が

重視されたのかもしれません。

 

逆にポップスの歌手の歌唱方は倍音成分を多く含むのだそうです。

倍音の構成のされ方は歌手により様々、

ポップス歌手は歌い手の声質による響きの差異が

クラシック歌手に比べて大きくなるのはこのためです。
邦楽の歌唱も倍音成分を重視する歌唱法で、
そういわれてみると平曲や長唄などの声は西洋クラシックの歌唱より
複雑で多様な声質であるように思います。
そして、このように倍音により心地よい音色をうまく作り出せている状態のことを、
「倍音が上手く当たっている」などと言い表したりするのだと思います。

 

「倍音-音・ことば・身体の文化史」(中村明一、春秋社)という本によると、

整数次倍音を多く含む声はギラギラした印象を与え、
非整数次倍音を多く含む声はカサカサした印象を与える、

そして整数次倍音はカリスマ性や荘厳さを醸し出す効果があり、
非整数次倍音は重要性や親密性を醸し出す効果があるのだとか。
この本によると、ジョン・レノン、ボブ・ディラン、美空ひばり、

浜崎あゆみの声は整数次倍音が多く含まれ、
ロッド・スチュワート、ブルース・スプリングスティーン、森進一、

宇多田ヒカルの声は非整数次倍音が多く含まれているのだそうです。
声明やお経・祝詞の発声方法は整数次倍音が優位、
ハスキーボイス・ウィスパーボイスの発声方法は非整数次倍音が優位。
歌だけでなく会話においても倍音の効果はあるらしく、
タモリや黒柳徹子の会話には整数次倍音が多く含まれ、
堺正章やビートたけしの会話には非整数次倍音が多く含まれているそうです。
周波数解析の結果、このような傾向がみられるのだとか。
このような声の傾向の違いが倍音によりもたらされているというのも、

何とも面白いですね。

 


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ということで、倍音についてあれこれ書いてみました。
図書館でババッと調べた内容ですので、不備・不足はあるかもしれず、
原理的に正確なことは専門書を参照願います。


他にも解説や調査などのご依頼などありましたら、
ヒマがあるときにやりますので、お申し付けください(笑)。