シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル (名古屋しらかわホール) | れぽれろのブログ

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何度か書いたことですが、自分は最近転職し、
この10月より新たな企業で働いています。
この再就職先の企業ですが、10月後半のとある日が創立記念日となっており、
これにより慣例的に10月の第4金曜日が毎年お休みになるという規定が
あるとのことで、今年は10月23日の金曜日がお休みになりました。
このため、23日が予定外の休日となりました。

先週17日、ピアニスト:カツァリスが登場する兵庫県立芸術文化センターの
名曲コンサート(感想はこちら)に行きました。
自分はカツァリスが好きなのですが、このときの演目は協奏曲で
カツァの登場はプログラムの前半のみ。
カツァ単独の演奏会ではありません。
この感想をアップしたあと、他の地域の演奏会の予定やら
カツァ単独の演奏会の演目やらをあれこれ調べていると・・・。
今年は名古屋で単独の演奏会があることはだいぶ以前から知っていましたが、
平日公演なので行くことは諦めていました。
しかし、改めて名古屋の日程を確認してみると、
なんと23日の金曜日となっています。
製造業の管理業務だと、基本的に平日は工場が稼働していますので、
お休みは取れません。
この秋のチケットを取ったころは、まさか秋になって自分が10月23日が
お休みになる企業に勤めることになるとは思ってもいませんでした。
23日、行けるやん・・・。
チケットを調べてみると・・・まだ空席がある模様。
これは・・・行けということやな!
音楽の神様が「行きなさい」と仰っていると勝手に解釈(笑)し、
公演の数日前に衝動的にチケットを手配、
2階席、舞台右側のバルコニー席の前の方、ピアノの天板より後ろ側という、
音響的にはあまりよくない席でしたが、突発的に23日に行くことに決めたのでした。


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ということで、急遽2週連続でカツァの演奏を聴くことになりました。
23日の金曜日、新大阪から新幹線に乗ってふらりと名古屋へ。
会場は三井住友海上しらかわホールという場所。始めて訪れるホールです。
夜7時前の開演なので、会場周辺で早めの夕食を取り、
万全の態勢で(?)ホールへ向かいました。

この演奏会、カツァの来日に対し気合が入っているのか(?)
いくつかの面白い小企画がありました。

まず、会場にはカツァの想い出を振り替えるような小展示のコーナーが
設置されていました。
1972年の若かりしカツァのレコードジャケット
 :モーツァルトのピアノソナタ13番とリストのロ短調ピアノソナタ。
 (カツァは眼鏡を掛けています。デビュー作でしょうか?)
80年代のオーマンディーとの協奏曲のレコードジャケット
 :リストのハンガリー幻想曲・他
 (このCD版は自分も持っています。)
NHKで昔放送されていた「ショパンを弾く」のテキストの展示。
90年代以降のカツァを紹介した雑誌の切り抜きの展示。
そして過去の演奏会のカタログなどを展示し振り返るスペース。
 (自分の鑑賞した演目もあり懐かしく鑑賞しました。)
などなど、なかなかマニア心をくすぐるような展示で面白いです。

そして、数量限定の特製マロンクレープなるものが販売されていました。
案内のアナウンスによると、カツァは栗が大好物なのだとか。
なので、カツァ来日を記念してこのお菓子を本会場のみ、
100個限定で販売するとのこと。
見るからに美味しそうなお菓子です。
(でも自分は買いませんでしたが 笑。)


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以下にこの日の感想などをまとめておきます。
上にも書きましたがピアノの天板より後側のバルコニー席、
前の柵が高くて舞台がよく見えず、天板に隠れて手の動きも見えず、
柵の隙間から辛うじてカツァの額を斜め上から見下ろす形での鑑賞となりました。
今一つな席ですが、カツァの表情の動き(顔芸)はやや見やすかったと言っても
いいかもしれません。


◎即興演奏

ここ数年のカツァ単独の演奏会と同様、即興演奏からスタート。
今回はラフマニノフの協奏曲2番やスメタナの交響詩「モルダウ」のメロディが
登場、「モルダウ」ではお馴染みの有名なメロディを変奏的に扱っています。
西宮のアンコールでも登場した「赤とんぼ」の旋律やラフマニノフの協奏曲3番も
再登場。
「赤とんぼ」のメロディの変奏の仕方は西宮に似ていますし、
ラフマニノフの協奏曲3番も、3楽章の第2主題の後で2楽章の中間部に飛ぶという
パターンも西宮と同じ。
即興演奏の旋律の選定は即興的なのかもしれませんが、
各旋律の演奏方法には一定のパターンがあるようです。
ラフマニノフ3番ではカツァは「ええ曲やなー」という表情で弾いていました。


◎モーツァルト

プログラム前半の1曲目はモーツァルトから。
ピアノソナタK331(11番)、例の有名な「トルコ行進曲」付きのソナタです。
この曲はとくに1楽章の演奏が面白かったです。
この1楽章は主題とその変奏が繰り返される形式で、
各主題・変奏はそれぞれ2回ずつ繰り返されるのですが、
カツァは毎回この2回目を味付けを変えて演奏しています。
弱音で開始したり、左手を妙に強調したり、
そして内声を浮かび上がらせたりして遊んでいます。
カツァのレッスンでのセリフ
「古典派のソナタの繰り返しは必ず弾き、繰り返す際には表現を変えること」。
冗長な繰り返しは省略する演奏家もいますが、
カツァはこの「繰り返し時の変化」を実践されています。
というか表情を変えすぎな気もしますが・・・。
3楽章の有名なトルコ行進曲も、内声で謎のメロディを浮かび上がらせたり、
1曲目から早くも楽しい演奏でした。


◎ブラームス

続いてはブラームス、3つの間奏曲(op.117)。
ブラームス晩年の落ち着いた作品、やや地味な渋めの作品です。
自分は別の演奏家で同じくブラームス晩年の4つの小品(op.119)の生演奏を
鑑賞したことがありますが、舞台で聴くとこれが心に染みるのです。
今回もカツァの音色にうっとりします。
プログラムの解説によると、カツァは
「日本の聴衆はブラームスのピアノ曲が嫌いだと思っていた」
のだそうで、今まで取り上げてこなかったらしいです。
決してそんなことはない(笑)と思いますので、
またブラームスも取り上げてほしいですね。
このブラームスでプログラム前半が終了です。


◎ショパン

プログラム後半、いよいよショパンの登場。
今回は
・マズルカ48番 ヘ長調
・マズルカ40番 ヘ短調
・ノクターン4番 ヘ長調
・ワルツ12番 ヘ短調
・バラード2番 ヘ長調
の5曲、「ヘ調縛り」という面白いプログラム、
ヘ長調-ヘ短調-ヘ長調-ヘ短調-ヘ長調という5曲の繰り返しという
構成です。

この選曲はなかなか面白くて、
ノクターン4番は弱-強-弱という繰り返しが印象的で、
バラード2番の弱-強-弱-強という繰り返しの構成に繋がる、
ワルツ12番は短調-長調-短調-長調、
「短調の曲だが長調で終わる」という構成で、
バラード2番の長調-短調-長調-短調、
「長調の曲だが短調で終わる」という構成に繋がる、
・・・ように見えるような選曲です。
カツァはこれを連続して弾きますので、何だか5楽章制のソナタのようで、
スパイラル状にフィナーレのバラード2番になだれ込んでいくような
面白さがありました。
楽しい選曲ですね。

カツァのショパンはやっぱり素敵です。
ああやっぱこの音色はええな・・・という感じ。
ノクターン4番の弱音部、ワルツ12番(好きな曲です)の長調部分など、
うっとりします。

そしてバラード2番、個人的に思い入れのある曲です。
思い入れがありすぎて、カツァ本人の80年代の録音の印象が強すぎ、
それと比較して聴いてしまうと、短調の激情的な部分を早めにさらりと弾いている
今の演奏は、どうしても若干の物足りなさを感じてしまいますね。
激しいコーダも走り気味ですが、以前別の方の記事で紹介されていた
海外の最近の演奏に比べるとこの日はややコントローラブルな感じがします。
コーダ終盤の休止部分の少し前、キリッと斜め上を睨むカツァ、
そして休止の後、両手を鍵盤から放して「沈まれ」のポーズ。
インテンポに戻り静かに曲が終わる・・・。
おおー、いいね!、と思う瞬間。

ということで素敵なショパンでした。
次は「変イ調縛り」、プレリュード17番-ワルツ5番
 -エオリアンハープ-バラード3番-英雄ポロネーズ、
なんてやってくれたら泣きますが・・・難しいでしょうね 笑。


◎ワーグナー

最後はワーグナーです。
曲目は
・歌劇「ローエングリン」より「エルザの結婚の行進 客人の入場曲」
・歌劇「ローエングリン」より「エルザの夢とローエングリンの非難」
・楽劇「ワルキューレ」より「ワルキューレの騎行」
の3曲。
前2曲はリスト編曲版で、最後のはブラッサン&カツァリス編曲となっています。

これが素晴らしかった!
とくに最初の2曲の美しいこと・・・。
1曲目は、弱音の和音の断片からゆっくりゆっくり盛り上がって
官能的になっていくのが素敵な音楽。
カツァの音も非常に綺麗です。
2曲目、これまた異様に美しい音楽&演奏で、泣けることこの上ない・・・。
カツァも感極まっているのか、空いた手を何度も上に上げて動かしたりし、
顔の表情も陶酔的になっていきます。
カツァは手で目のあたりをぬぐっているように見えましたが、
泣いてたのでしょうか・・・。
この2曲だけでも、わざわざ大阪から来たかいがあったというものです。

3曲目は有名な「ワルキューレ」のメロディ、
これは前2曲と打って変わって、強めの打鍵と激しい装飾音が乱れ飛ぶような
かっこいい編曲、というか音が多すぎます、なんやこの編曲は(笑)。
例の「ホヨトホー ホヨトホー♪ ハイアハー ハイアハー♪」の部分なども
もんのすごい装飾で、ブリュンヒルデも発作を起こしそうな勢い(笑)。
プログラム最後の曲らしく、かっこよくしめて拍手喝采となりました。
いや、よかったよかった。


◎アンコール

3曲が演奏されました。

いきなりピンクパンサーのテーマ。
何この選曲・・・笑
最初のメロディが流れたとき、会場から笑いが起きました。
何やら意外な選曲ですね。

2曲目はもはやお馴染み、チャイコフスキーの四季より「秋の歌」。
カツァは10~11月ごろに来日することが多いからか、
この曲はアンコールの定番曲、何度聴いたか分かりません。
カツァの生演奏では一番多く聴いた曲かもしれません。
美しすぎる演奏を今回もうっとりと鑑賞。

3曲目はブラームスの子守唄。
ブラームス解禁記念?ということでこの曲なのでしょうか。
といってもこれはオリジナル編曲らしく、
即興演奏風に主題を変奏的に繰り返していくパターンの演奏でした。
最後は短調風の和音の断片のような主題の変奏を美しく響かせた後、
カツァは「おやすみなさーい」と発声し、演奏会はおしまい。

ああ、楽しかったー。


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ということで、急遽発作的に名古屋までやってきましたが、
非常に楽しい演奏会でした。
ありがとう、カツァ。
また近畿圏でも単独の演奏会をやってほしいですね。

サイン会ではカツァは嬉々としてサインをし、
例によって女の子の手にキスしたりしてます。
楽しそうなカツァと一団を見送りながら会場を後にし、夜の名古屋の街へ。
実はせっかく名古屋に来たからにはもう1か所ぜひ訪れたいところがありました。
なので、1泊して翌24日は別の場所に行ってきたのですが、
これはまた次回に。