豊田市美術館 (ソフィ・カル-最後のとき/最初のとき) | れぽれろのブログ

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10月23日の金曜日にカツァリスの演奏会を鑑賞した後、
名古屋のホテルで1泊し、翌24日の土曜日に豊田市美術館に
行ってきましたので、その記録をまとめておきます。

23日の夜は栄と呼ばれる地区のビジネスホテルで1泊しました。
この付近の一部は歓楽街のようで、夜でもかなりの人だかりです。
東京で言うと歌舞伎町のようなイメージでしょうか。
翌24日は朝9時半ごろに出発し、栄付近を少しブラブラ、
遅めの朝食兼昼食を取ったあと、栄から南へ。
この日は東海テレビ祭りなるものが開催されるとのことで、
付近の広場では朝から何やらイベントの準備がなされ
屋台なども立ち並び始めています。
朝から賑やかな街を歩いた後、上前津という駅から
名古屋市営地下鉄鶴舞線に乗り、豊田市へ向かいました。

豊田市は東海地方の中核市で、トヨタの企業城下町でもある大きな都市、
名古屋の東側に位置し、豊田市駅は距離的には名古屋からそう離れていません。
なので、名古屋方面から快速電車か何かですぐに到着すると勝手にイメージして
いましたが、確認してみると各駅停車しかなく、上前津から50分近くかかりました。
名古屋市営地下鉄鶴舞線で赤池という駅を経由し、
そのまま直通で名鉄豊田線に繋がりますが、この豊田線がまた各停です。
名古屋から豊田へは、大阪人のイメージで無理やり例えると、
地下鉄御堂筋線と北大阪急行で中百舌鳥から千里中央に行くような感じです。
鈍行しかないのはやはり車重視の街だからなのかな・・・。

名鉄豊田市駅を降り、南に向かって15分ほど歩くと豊田市美術館に到着です。

外観はこんな感じ。

豊田市美術館_01

これは2階部分を撮影した写真です。

1階はこんな感じです。

豊田市美術館_02


豊田市美術館_03


豊田市美術館は20年前に開館し、最近改装されたとのことで、
この10月にリニューアルオープンしたてのようです。
中身は90年代~ゼロ年代の美術館らしく、白を基調とした部屋で
複数のブースに分割しやすいような構造になっています。
金沢21世紀美術館などに近い印象でしょうか・・・。

この日は企画展示としてソフィ・カルの「最後のとき/最初のとき」と題された展示、
及び「わたしたちのすがた、いのちのゆくえ」と題されたコレクション展、
その他いくつかの作家さんが集中的に展示されたブースがありました。

以下、感想などをまとめておきます。


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◎最後のとき/最初のとき(ソフィ・カル)

ソフィ・カルはフランスのコンセプチュアルアートの作家さん。
写真と言葉を組み合わせたインスタレーション作品を展示し、
そこから意味的なものを浮かび上がらせるような作品が印象的な方です。

実はこのソフィ・カルの展示は2年前の春に東京に行った際、
時間があれば原美術館で鑑賞しようとしていた展示なのです。
しかしこのときはフランシス・ベーコンとマリオ・ジャコメッリの鑑賞で
パワーを使い果たし、ソフィ・カルの鑑賞にまで至りませんでした。
この度、いいタイミングで豊田市に巡回。
そういえばベーコン展も豊田市美術館に巡回してたので、
東京まで行かずとも豊田市で2件とも鑑賞できたということになります。

会場では大きく3つの作品が展示されていました。

1つ目は「盲目の人々」。
写真と文章によるインスタレーションです。
23人の生来盲目の人に「美しいものは何か」という質問を投げかけ、
その答えの文章、その答えから連想される写真、
そしてその盲目の人のポートレートが合わせて展示されるという作品です。
美しいものとして、風景、人物、動物など様々な答えが返ってきますが、
中には絵画や彫刻をあげる人もいます。
意外に視覚的な答えをあげる人が多いのが印象的、生来盲目なのに、
彼らの中に視覚的なイメージが出来上がっているのが不思議です。
なお、「海」と答えた人に対し、1点杉本博司の海の写真が使用されていました。
例の空と海を2分割した写真シリーズの1作品ですが、明瞭な水平線が
写されている写真ではなく、ぼんやりとした水平線の写真が採用されており、
これがまた盲目の方が想像するようなイメージと
どことなくリンクするような
雰囲気を感じます。

2つ目は「最後に見たもの」。
これも写真と文章によるインスタレーションです。
今度は生来の盲目の方ではなく、何らかの理由で視力を亡くした人、
計13人が対象です。
彼らが盲目になった理由、そして彼らが最後に見た風景を語ってもらい、
やはりその答えの文章、その答えから連想される写真、
そして語っている盲目の人の様子の写真が展示されているという作品です。
緑内障などの病気、手術の失敗、交通事故、暴力事件、銃による被害、
中には理由がよく分からないケースもあります。
今回の展示全体の「最後のとき」に相当する作品で、
語りの内容は人によってはかなり衝撃的なものもあり、
そしてその語りの際の風貌を捉えた写真も印象的です。

この2点の作品はまず「見ること」についての概念芸術というところが面白いです。
元々美術は概念的なもの(近代以前の宗教美術などが良い例)ですが、
近代以降(とくに印象派以降)、絵画は概念的なものからどんどん
視覚的なものへとシフトし、これが20世紀中盤のモダニズム芸術、
ポロック、ロスコ、ニューマンらの
作品として結実するという歴史があります。
一方で、20世紀前半のデュシャンらダダの作家は、視覚的探求のみを
追求することに疑念を持たせるような作品を発表、
ここから現代のコンセプチュアルアートがスタートしたという歴史があります。
視覚というテーマは、まさにコンセプチュアルアートの本質に関わる主題。
これらの2作品は語りの文章という概念的なものを、
如何に視覚的に写真で表現するかという面白さがありますが、
自分などは写真よりもむしろ盲人の語りの内容の方が端的に面白く感じられ、
36人の体験と記憶とその伝達の方にどうしても関心が向かってしまいました。
写真と文章のどちらに意識が向かうかは人により異なるのかもしれず
「視覚と概念、どちらがお好き?」と問われているようにも感じられ、
そのあたりも含め興味深く鑑賞しました。


3つ目は「海を見る」という作品。
こちらは言葉の提示はなく、純粋な映像作品です。
海を見たことのないトルコ人に初めて海を見てもらい、
そのときの様子を撮影するという映像作品。
今回の展示全体の「最初のとき」に相当する作品です。
登場するのは7人の大人と5人の子供。
大人7人はそれぞれ独立して7枚のスクリーンに登場。
海を見ながら佇んでいる彼らの後姿を映し出し、
そして頃合いを見て振り返ってもらうという映像。
各人、海を見ている時間の長さに差異があります。
そして振り返った後の皆さんの表情が印象的、
とくに「バラ色の女」の太ったおばちゃんの表情が素敵ですね。
子供5人の方も同じ趣旨で映像化されていますが、
こちらは1つのスクリーンに5人セットで登場。
そして振り返った後、海に入って水遊びをするシーンまで撮影されています。
最初は恐る恐る海水に触れる子供たち、
やがて服が濡れるのも気にせずはしゃぐようになります。
「バラ色の女」や「赤い服を着た少女」も途中でちらっと姿を見せるので、
これは同日に撮影されたものらしいことが分かります。
そして彼(彼女)らの中には顔がすごく似ている人もいるので
ひょっとしたら親戚か何かなのかもしれません。

文章や語りが一切ない「海を見る」の方が、上記の言葉ありの2作品より
も視覚作品としての強度があります。
そして、それぞれの登場人物の表情や佇まいから、その人がどいう言う人なのか、
その人の歩んできた人生なども想像してしまいます。

ということで、
言葉を提示され、その言葉を通して背景の非言語的な感覚を想像する面白さ。
映像を提示され、その映像を通して背景の言語的な物語を想像する面白さ。
それぞれの面白を考えることができる、楽しい展示でした。


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◎4人の作家さん

ソフィ・カル以外に4人の作家さんの個別展示のブースがありました。
展示されていたのは牧野義雄、小堀四朗、宮脇晴、宮脇綾子の計4名。
4人とも豊田市近辺にゆかりのある作家さんのようです。

とくに面白いのが牧野義雄です。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ロンドンなどの海外の風景を
たくさん描いた作家さんのようです。
洋画家で水彩画が中心なのですが、描き方がどことなく
日本画風なのが面白いです。
ルノワールやロートレックの絵画に出てくるような服装の人物や街並みなどが
登場しますが、描き方がなんとなく日本画的、まるで小林清親の版画作品を
見ているような感じがします。
「秋」という作品など、ロートレックの絵から出てきたような女の子が
描かれていますが、女の子の佇まいは日本画風、
鈴木春信の錦絵を想像してしまうような佇まいです。

宮脇晴も面白いです。
写実的な肖像画が中心でリアルに描かれていますが、
細密描写といった感じではなく、細部は意外に一筆の勢いを大切にしています。
大胆でありながら写実的という面白い作品になっています。

このお2人はなかなかに面白くて気に入りました。


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◎わたしたちのすがた、いのちのゆくえ

こちらはコレクション展に相当する企画展示です。
といってもただの常設展ではなく、作品を年代順に展示するとともに、
豊田市の郷土資料館などの協力により同時代の写真を合わせて展示し、
豊田市の歴史と美術史をリンクさせるという面白い試みがなされていました。

この試みも面白いですが、所蔵作品が良いです。
印象に残った有名な作家さんをぶわっとを書き並べるだけで
アンソール、エゴン・シーレ、ココシュカ、マグリット、エルンスト、
ブランクーシ、ハンス・アルプ、デ・クーニング、フランシス・ベーコン、
ゲオルグ・バゼリッツ、ヨーゼフ・ボイス、トニー・クラッグ、
岸田劉生、藤田嗣治、高松次郎、荒木経惟、森村泰昌、
などなど、面白い作家さんの作品がたくさん展示されていました。

とくに岸田劉生の「自画像」「麗子洋装之図」、
マグリットの「無謀な企て」、
荒木経惟の「センチメンタルな旅」「冬の旅」など、
個人的にお気に入り度の高い作品も所蔵されていました。
抽象的ではないブランクーシ、逆さまではないバゼリッツ、など
珍しい(?)作品も所蔵。
エルンストの有名な彫刻「王妃とチェスをする王」もあります。
森村泰昌は女優Mのシリーズ、豊田市に来て大阪地下鉄千日前線の
写真に出くわすのも何やら心地よいです(笑)。
トニー・クラッグのサイコロだけで作った抽象彫刻作品は、
大阪の国立国際美術館の所蔵品よりも大規模なもので、見ごたえありです。

一方最近の作家さんの作品も展示されており、
奈良美智、塩田千春、ヤノベケンジ、村瀬恭子、坂本夏子などの作品も
並んでいました。
奈良美智は90年代のどことなくevilなころの作品。
塩田千春の白い服から赤い糸が伸びる作品は、
過去の個展の大規模なインスタレーションを思い出させます。
坂本夏子、視界がゆがむような大画面の不気味な作品は楽しいですね。

何度も書いていることですが、
日本の地方都市の美術館は相当面白いものを所蔵しており、
この豊田市美術館もかなりいいラインナップなのではないかと思います。


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◎屋外彫刻

恒例の屋外彫刻撮影コーナー。
今回は久しぶりに旅行先で雨が降らず、濡れていない作品を撮影。

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豊田市美術館_05

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以下のように、見る角度により見え方が異なる作品も多いです。

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こちらはヘンリー・ムーア。

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豊田市美術館_12

ヘンリー・ムーアは日本のいろんな美術館に設置されていますね。


これは何だろう。

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四角の部屋の外側に鏡が張られており、内側は単色で塗られています。
見る角度によっていろんな見え方ができる面白い作品。

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他にも赤と青があります。
赤・青・黄のモンドリアンカラー。

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ということで、楽しい時間を過ごすことができました。
近畿圏に巡回しない現代美術の展示が豊田市で展示されるケースは
それなりにあるようなので、東京よりは来やすいこの美術館、
きっとまた来ることになると思います。