皇帝&田園 (カツァリス&PACオーケストラ) | れぽれろのブログ

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17日の土曜日、西宮の兵庫県立芸術文化センターへ行ってきました。
9月末に大阪市に近い中河内方面に引っ越してから、
西宮もずいぶんと近くなりました。
兵庫県立芸術文化センターの公演を鑑賞する場合、今まで(泉州在住時)で
あれば開演の2時間半前には準備して家を出るようにしていたのですが、
現在は1時間もあれば余裕で阪急西宮北口駅に到着しますので、
1時間半前に家を出ても十分に間に合います。
往復で2時間近い時間の短縮、便利になったものです。

この日の公演はPACオケ(兵庫県立芸術文化センター管弦楽団)の
第33回名曲コンサート。
定期公演とは少し楽曲の選定が異なり、言うなればさほど「敷居の高くない」
楽曲が演奏されるシリーズです。
今回はベートーヴェンのピアノ協奏曲5番「皇帝」と交響曲6番「田園」という
組み合わせの演奏会。
PACの演奏会は例によって座席は完売で満員御礼。
さすが「チケットを売り切る」県立のオケ、すごいですね。

個人的なこの日の目的はソリストのシプリアン・カツァリスの演奏を聴くこと。
何度も書いていることですが自分はカツァリスさんが好きで、
近畿圏に来られる際には基本的にすべて聴きに行くと決めている
演奏家なのです。
今回は2年ぶり、一昨年の秋の宝塚ベガホールでの演奏会(→こちら
以来の鑑賞となります。
本当はカツァ単独のプログラムを聴きたいところなのですが、今年は近畿圏では
単独の公演はなし、鑑賞の機会はこの日のPACオケとの協奏曲のみです。
プログラムの半分のみの登場なので、ちょっと残念。
しかも曲目はベートーヴェンの「皇帝」で、カツァ本人編曲の独奏版を
過去2度に渡って鑑賞したことのある楽曲です。
(しかも一度はこの西宮で聴いている。)
自分は独奏版を鑑賞したときに面白すぎて「もうオケいらんやん」と書きました。
今回は他に行きたい公演もあり、どうしようか迷いましたが、やはりカツァの音を
聴きたいなということで、チケットを取って西宮へ行くことにしました。

カツァの演奏は何度も聴いていますが、協奏曲は2度目です。
2008年に同じ西宮でシューベルトの「さすらい人幻想曲」を
鑑賞して以来となります。
今回の「皇帝」はどうなることやら??
そしてこの日の指揮はロベルト・フォレス・ヴェセスという方で、知らない方です。
PACオケとは初共演なのだそうです。


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前半、ベートーヴェンのピアノ協奏曲5番「皇帝」。
拍手とともにカツァ登場、2年ぶりの対面です。待ってました!

上にも書きましたが、自分は独奏版を過去に2度鑑賞しました。
この独奏版はカツァ自らの編曲で、当然のことながらオケパートも
自らピアノで演奏します。
独奏版はオケと合わせる必要がないので、言うなれば好き勝手に
演奏されていました。
今回の協奏曲も出だしから自分のスピードで開始するカツァ。
唯我独尊に弾くのかな、とも思いましたが、
(当たり前ですが)しっかりオケに合わせています。
というより、オケ部分とピアノパート部分をしっかり確認しながら、
オケを意識しながら間違いのないように演奏している感じがします。
しかし、ピアノ単独のパッセージや、ほぼピアノのみで演奏される部分になると
割と自分のスピードで走るようになります。
ときに乱れたりやや音が抜け気味になるのもいとわず、
自分のペースと音色を重視するカツァの演奏。

全体的に、前回までの独奏版に比べると、ずいぶんゆったりと
リラックスして弾いてる感じがします。
独奏版はオケの音色とピアノ部の音色を使い分けたりするなかなかに凄まじい
演奏で、オケ部分はパワフルに打鍵しますし、全体的に緊張感のある演奏。
独奏版を初めて聞いた際には、曲と取り組む鬼気迫るような姿勢を感じましたが、
今回はそんな要素はあまり感じません。
力強く打鍵する部分は少なく、全体的に軽めのタッチで、
音色の心地よさと指回りの楽しさのみで最後まで演奏されていました。
そして改めて感じるのは、オケ付きはオケ付きでやはりいいなということ。
1楽章の第2主題や2楽章などのピアノの音はとても心地よく響きます。
とくに2楽章の弦の上にピアノが乗っかる、このオケとピアノ音のからみは
カツァの音で聴くとすごく心地よいです。
しかし、独奏版を何度か聴いたせいで、ときに「あれ、ここってオケだけやったっけ」
とか、「ここピアノないとなんか寂しいやん」とか、自分の中で何やら変な聴き癖が
ついていることに気づいたりとか、
そんな楽しみもありました(笑)。

音色を楽しみ、コロコロした打鍵を楽しみ、オケとの絡まりを楽しめる
楽しい演奏でした。
カツァの「皇帝」以外の協奏曲も聴いてみたくなりました。
ロマン派の大掛かりな協奏曲はもうカツァはやりそうにない気がしますが、
モーツァルトあたりならひょっとして演奏してくれるかな・・・?


そしてアンコール。
前回の協奏曲(2008年)のアンコールはショパンの遺作ノクターン、
そしてモーツァルトの「ブレッド&バター」でした。
(遺作ノクターンは最後の和音から拍手まで、
かなり長い静寂があったのが印象的でした。)
今回も短い曲でサラッと閉めるのかなと思っていましたが・・・
アンコールで即興演奏をやってくれました!
おおっ、これは嬉しい!
今回は「皇帝」と「田園」を聴きに来た方のための「名曲コンサート」なのですが、
客層を無視して即興演奏を始めるカツァ(笑)。

今回は山田耕作の「赤とんぼ」(夕焼け小焼けの赤とんぼ♪)の主題を用いての
即興からスタート。
低音の轟音とともに短調の弱音で赤とんぼの主題の断片が登場し、
やがてオリジナルの旋律を装飾音を付けまくりながらドラマティックに演奏、
またやや不協和音風に旋律を変化させたりして主題をいじくりまわします。
このあたりは以前の即興演奏で登場した「さくらさくら」の主題の扱い方にも
似ていますね。
そしてカツァ、皇帝のときより勢いづいている感じです。

以降はアルハンブラの想い出やラフマニノフの協奏曲3番など、
よく登場するお馴染みの旋律を料理しながら楽しい即興演奏が続きました。
独奏演奏会の本編開始前のいつもの即興演奏に比べると演奏時間は
やや短かいものでしたが、それでもこの即興演奏がむしろ本編より
楽しかったかもしれません。
即興演奏中に軽い拍手が起こったり、主題が変化したときに客席から
どよめきが起きたりもし、いつものカツァ単独のプログラム時の即興演奏とは
客席の反応も少し異なっていました。
個人的にはこれを機会にカツァファンが増えてくれると嬉しいです。

ということで今年も楽しく鑑賞することができました。
やっぱカツァはええわ・・・。
できれば来年も近畿圏に来てくれると嬉しいですね。


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後半はベートーヴェンの交響曲6番「田園」です。
本当はこれもカツァの独奏版(録音があります)で聴きたいところなのですが・・・
さすがにそういうわけにもいきませんね(笑)。
今回は残念ながら(?)オケ版となります。
(よく考えると、「皇帝」と「田園」と、2曲ともピアノ独奏でプログラムを
組むことができるのは、世界広しといえどカツァくらいしかいない気もします 笑。)

自分はベートーヴェンの交響曲では9番が一番好きなのですが、
その次に好きなのはと問われた場合、無理やり選ぶならこの6番「田園」を
選ぶことになるかもしれません。
でも実は意外と実演で聴いたことはなく、過去の記録を調べてみても
「田園」は未鑑賞でした。

交響曲6番「田園」はやや描写音楽的な部分があり、
鳥の鳴き声や気候の変化などの描写的性格から交響詩的に捉えられ、
ベートーヴェンの交響曲の中ではあまり好きではないという方もおられるようです。
しかしこの曲の良さは描写音楽的な部分にあるのではなく
同時期の交響曲5番「運命」と同様、主題労作的な展開、そしてしっかりした
ソナタ形式の美学に基づいた楽曲設計にあると自分は理解しています。
「運命」のように戦闘的であったり凱旋的であったりという感じはなく、
音楽そのものの美しさを追求していると感じられる点で、むしろ苦悩-歓喜的な
物語を連想させる「運命」よりも、
各楽章の表題を無視すれば意外と
「田園」の方が絶対音楽的であるとも言って良いかもしれません。
とくに2楽章の弦楽器の上にのっかる木管の美しさなど、個人的に好きです。

実演で聴くとこれがまた心地よいものです。
1,2楽章は美しく、3,4楽章はメリハリのある演奏でかっこよく演奏され、
スマートな仕上がりになっていました。
指揮のヴェセスはときにオーバーアクションで指揮をしておられ、指示出しなども
目立つ感じで、結果としてメリハリのある演奏になっていたように感じます。
うっとりと鑑賞し、後半も終了。


ということで、楽しい名曲コンサートでした。
PACオケの演奏会も久しぶり、調べてみるとアルミンクのマーラーの6番
(→こちら以来、これまたカツァと同じく2年ぶりの鑑賞でした。
PACオケはチケットが取りにくくすぐに売り切れてしまいますが、
週末に安価で気軽に聴きに行けるオケですし、西宮が近くなったということもあり、
また何度も聴きに行きたいですね。