夭逝の画家 (近代日本) | れぽれろのブログ

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今でこそ日本は長寿国となっていますが、
20世紀前半までの日本人の平均寿命はまだまだ短いものでした。
若くして亡くなる方も多く、たとえば有名な作家で言えば、
太宰治(38歳)、宮沢賢治(37歳)、芥川龍之介(35歳)、
中原中也(30歳)、新美南吉(29歳)など、
それぞれ40歳に満たない年齢で、若くして亡くなられています。

近代日本の洋画家の中にも、若くして亡くなられた方がたくさんおられます。
今回は有名な夭逝の画家とその作品をいくつか並べてみようと思います。

※( )内は亡くなられたときの年齢です。


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・靉光 (38歳)

眼のある風景

靉光(あいみつ)は主に戦間期に活躍した画家で、38歳で亡くなられています。
シュルレアリスム風の絵画や、濃密な描写の植物画などが有名かもしれません。
靉光の代表作品といえばこの「眼のある風景」。
画面の真ん中にひとつの眼が、鑑賞者を睨むように描かています。
眼の周りには岩が並んでいるような荒涼たる風景が描かれているように
見えますが、これは仰向けになったライオンを描写したとも言われています。
(確かにそう言われてみるとライオンに見える。)
東京国立近代美術館が所蔵している絵で、不思議な感覚がすごく印象に残る
作品です。


・岸田劉生 (38歳)

麗子微笑

岸田劉生も靉光と同様、38歳で亡くなられています。
劉生は主に大正期に活躍した画家で、
時代によって画風がかなり変遷する画家でもあります。
初期のころはポスト印象派やフォービスムに近い絵などを描いていましたが
やがて北方ルネサンス風の細密画を描くようになり、
晩年には日本画も描いていました。
肖像画をやたらと描いていた時期もあります。
面白い静物画や風景画も残しており、「切通之写生」の絵など有名ですね。
しかし、岸田劉生といえばなんといっても麗子像。
この作品「麗子微笑」は、その風貌のインパクトに目が行きがちですが、
実物をみると肩掛けの毛糸の描き方の細密さも非常に面白いです。


・古賀春江 (38歳)

海

この方も38歳組の一人です。
シュルレアリスム風の作品を多く残され、川端康成とも親交があったのだとか。
有名な作品はいくつかありますが、やはりこの「海」が最も有名かつ
面白い作品だと思います。
人間・機械・動物が、秩序的とも無秩序とも取れるように並べられており、
画面を見ているだけで面白いです。
この作品も東京国立近代美術館で鑑賞した作品です。


・中村彝 (37歳)

頭蓋骨を持てる自画像

中村彝(なかむら つね)は主に大正期に活躍した洋画家。
「エロシェンコ氏の肖像」などの肖像画が有名だと思いますが、個人的にこの
大原美術館で見た「頭蓋骨を持てる自画像」が一番好きかもしれません。
やや引き伸ばされたような長めの身体・顔・手、
身体と背景が作り出す画面構成とリズムが心地よい作品です。


・松本俊介 (36歳)

Y市の橋

戦時期から戦後にかけて作品を残した松本俊介は、
戦後すぐに36歳で亡くなられています。
人物画や自画像などもありますが、後期の独特の味わいのある
都市風景を描いた作品が自分は好きです。
この作品「Y市の橋」も後期の風景画、1943年の作品で、戦争画が主流だった
時期に、不安感があるとも、温かみが感じられるとも取れる
素敵な風景画を残されています。
この作品も東京国立近代美術館に所蔵されています。


・佐伯祐三(30歳)

街角の広告

いよいよ若くなってきました。
続いてはパリの街角を描き続けた佐伯祐三からの1枚。
この方は若くして渡仏し、一時的に帰国もしましたが
最終的にはフランスに留まり、そのままフランスで亡くなっています。
大阪出身のため、大阪市立近代美術館(準備室)がたくさん作品を
所蔵しており、この「街角の広告」もその中の一枚。
佐伯祐三はポスターが描かれた作品が多いですが、
この作品も、右奥に向かっていく構図と左手前のポスターが印象的です。


さて、以下のお二人が近代日本の夭逝の画家、2トップです。


・村山槐多(22歳)

尿する裸僧

村山槐多(むらやま かいた)はなんと22歳の若さで亡くなられています。
この方は表現主義的な作品をいくつか残されており、
とりわけこの「尿する裸僧」はその中でも最もインパクトが強い作品だと思います。
拝みながら放尿する僧侶という、どういう状況なのか分かりませんが、
異様に強烈な作品で、一度目にすると忘れられません。
この方は1919年に世界中に蔓延したスペイン風邪により、
若くして亡くなられています。


・関根正二(20歳)

子供

最後は20歳で亡くなられた関根正二の作品から。
自分が知る限り、著名な画家では最も若くして亡くなった方だと思います。
亡くなられたのは村山槐多と同じく1919年ですが、
こちらは直接の死因はスペイン風邪ではなく、結核のようです。
関根正二は村山槐多とは真逆で、落ち着いた雰囲気ながら、
どこか幻視的な作品を残されています。
この方は「信仰の悲しみ」が最も有名な作品だと思いますが、
個人的にこの「子供」が好きなので、こちらを貼っておきます。
なんとなく煩悩のなさそうな表情ですが、
不思議と幻想的な雰囲気も感じられる作品です。


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ということで、夭逝の画家のうち何人かの作品を並べてみました。

この他にも、前田寛治(33歳)、三岸好太郎(31歳)など、
若くして亡くなられた方は他にもおられます。
最近では石田徹也さんが2005年に31歳で亡くなられましたね。
goo辞書で「夭逝」で検索すると、「-した画家」という例文が出てくるくらいなので、
画家というのは、やはり若くして亡くなられるというイメージが
強いのかもしれません。
実際には葛飾北斎のように長寿の方もおられるのですけどね(笑)。