交流分析③ 対話分析 | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

交流分析について自分の考えや経験などをまとめてみようシリーズ、第3回。
今回は対話分析について書いてみます。

シリーズ全体のメニューは以下のとおり。
 (1)構造分析(エゴグラム)
 (2)交流(ストローク)
 (3)対話分析
 (4)ゲーム分析
 (5)時間の構造化
 (6)脚本分析(ストーリー)

今回は(3)について書いてみます。

※この記事は交流分析を学問的にまとめたものではなく、
  自分なりの交流分析の理解と実践を書き留めたものです。
  学問的な厳密さからすると誤りを含む可能性もありますので、
  正しく理解されたい方は専門書を当たってください。


---

◎おさらい

第1回目の記事に書いた、3つの自我状態についてのおさらいです。
交流分析では、誰でも心の中に大きく3つの自我状態があると規定され、
「P」「A」「C」に分けられます。

 P・・・親の自我状態(Parent)、批判的・養護的
 A・・・大人の自我状態(Adult)、客観的・冷静
 C・・・子供の自我状態(Child)、自由奔放・順応

詳細は第1回目の記事を参照ください。


◎相補交流と交差交流

我々が他者と対話するとき、「自分の特定の自我状態から、相手の特定の
自我状態にメッセージを送っている」と捉えて、対話を分析するのが、
交流分析の考え方です。
例えば、あるメッセージは、自己の「P」から相手の「C」にメッセージを送っている、
という具合です。
どの自我状態からどの自我状態にメッセージを送っているかによって、
相手の受け取り方が変わってきますし、対話の方向性も変わってきます。

我々が様々な会話をするとき、話が弾んで楽しい会話になることもあれば、
ぎくしゃくして楽しくない会話になることもあります。
前回登場したのストロークという言葉を使えば、
陽性のストローク交換ができている会話もあれば、
陰性のストローク交換になってしまう会話もあるのです。

交流分析では、一般に前者の「うまく言っている会話」を相補交流、
「うまくいっていない会話」を、交差交流と言います。
相補交流は、自我状態同士の会話のベクトルが平行である状態、
交差交流は、自我状態の会話のベクトルが交差している状態です。
以下に例を挙げて説明してみます。


◎相補交流の例

上手くいっている交流の例です。
以下、自我状態と交流の模式図を元に例を挙げてみます。
左側の人が右側の人に話しかけ、右側の人がそれに答えていると
考えてください。
上手くいく相補交流は、以下の例のようにすべてベクトルが平行になっていて、
同じ自我状態から発せられていることが分かります。


・A-Aの相補交流

交流分析02

<例1>
①今日は何曜日でしたっけ?
②日曜日です。

<例2>
①品目××について御社に注文書を発行させて頂きました。
  5月29日までに納品頂くようお願い致します。
②了解致しました。
  品目××について、5月28日発送、5月29日に御社に到着するよう
  手配致しました。

<例1>は日常会話の例、<例2>は仕事での会話の例です。
A-Aの交流は、感情があまり働いていない事務的な会話です。
こういった会話では、波風が立つことは少ないです。
そして、あまり親密な関わり合いではないですが、
こういった交流でも陽性のストローク交換は成立しています。


・C-Cの相補交流

交流分析03

<例3>
①昨日、東京の根津美術館に行ってきたよ!
②わあ、いいなあ。
  琳派の面白そうな展覧会がやっているよね。どうだった?

これはお友達同士の会話の例です。
C-Cの相補交流は、親密な陽性ストローク交換に発展しやすいです。


・P-Pの相補交流

交流分析01

<例4>
①最近の若者は積極性がなくていかんな。
②きっと学校教育が悪いんだろう。教育方針を見直さんといかん。

<例5>
①19世紀のクラシック音楽こそが至高の芸術だ。
  現代の音楽など聴く気にならん。
②本当にそうですね。
  あの時代の巨匠の精神の在り様は現代には求められませんね。

批判的な視点からの「上から目線」での交流です。
目下の者に対する文句から政治談議まで、
この手の交流は非常によく見られます。
このパターンにおいても、お互いの意見が合う場合は、
波風は立たず、スムーズに会話が進むことになります。
ちなみに、自分は個人的にこの交流パターンはあまり好きではないので、
こういう会話を持ちかけられたときは、意図的に話をずらしてしまうことが
多いです。


・P-Cの相補交流

交流分析04

<例6>
①ちゃんと勉強しないと成績が上がらないぞ。
②ごめんなさい。明日からは宿題は忘れないようにします。

これは目上の人間と目下の人間の会話の例です。
お互いの自我状態は異なっていますが、交流のベクトルは一致しており、
対立は生じません。
教師と生徒、上司と部下、師匠と弟子、医者と患者などは、
基本的にこの交流の組み合わせでうまく話が進むことが多いです。
しかしこのパターンは、前回の記事で登場した条件付きストロークの状態を
取ることが多いので、関係性は対等ではなく、平衡状態は長くは続かない、
問題を秘めているパターンと言えるかもしれません。


◎交差交流の例

続いて、会話がうまくいかない場合のパターンの例をいくつか並べてみます。
これらの交流パターンは、相手と自分が異なる自我状態に向けてメッセージが
発せられており、交流がうまく継続できない状態にあります。


・P-Cの交差交流

交流分析06

<例7>
①ちゃんと勉強しないと成績が上がらないぞ。
②うるさい!こんな量の宿題を出されたら、逆にやる気がなくなる!

この<例7>は、<例6>のパターンが破綻した例です。
P-Cの交差交流は、要するに喧嘩です。
この例に関わらず、すべての喧嘩はP-Cの交差交流、
またはP-Aの交差交流の形を取ります。
この状態からまた相手がPからCにメッセージを送り、そしてまたその相手が
PからCに・・・、という状態が続けば、喧嘩が延々続くことになります。
喧嘩の回避方法は、P-Cの組み合わせに気づいた時点で、
Aからのメッセージに切り替え、A-Aの交流に何とか持っていくように
試みることです。
(例は後で書きます。)


・A-Aに対するP-Cの交差交流

交流分析05

<例8>
①今日は何曜日でしたっけ?
②うるさい。それぐらい自分で調べろ。

<例9>
①品目××について御社に注文書を発行させて頂きました。
  5月29日までに納品頂くようお願い致します。
②この品目は生産に最低1ヶ月かかる製品ですよ!
  なぜ御社はいつも短納期なんですか?
  いつも納期を詰めるこちらの身にもなってください!

それぞれ<例1><例2>の事務的な会話に対し、
批判的な感情で応対している例です。
これ以外にもいろんなケースが考えられますが、
対話がうまくいっていないことはお分かりかと思います。

<例8>は右側の人がA→Aに返せば済むのに、
右側の人が批判的な感情で応対してしまっている例です。
これに対し左側の人が「そんな言い方するなよ!せっかく話しかけてるのに!」
などと言い返したりしようものなら、P-Cの喧嘩パターンに陥ってしまいます。

<例9>は明らかに左側の発話者に非がありそうです。
こういった場合、「申し訳ございません。次回からは注意致しますので、
今回は何卒調整をお願い致します。」のように、C→Pに対して回答し、
P-Cの相補交流(<例6>のようなパターン)に持っていくのが妥当です。
一般にA→Aに対してP→Cで返された場合、こちらに非がある場合は
C→Pで返す、そうでない場合はP→Cで返したくなるのをこらえて、
粘り強くA→Aを繰り返すことが妥当です。

ちょっと余談かもしれませんが、<例8>はインターネットの質問サイトなどでも
よく見られる交流パターンです。
質問サイトなどで、検索すればすぐわかることをわざわざ質問する人がいますね。
人は交流を求める生き物で、前回も書いたとおり、ストロークがないより
事務的な会話でもストロークのある状態を望むものです。
なので、こういう場合は、ちゃんとA→Aに返してあげるのが妥当です。
質問者に対し「質問するな」と回答するのは、何のために質問系SNSを
やってるんだろう?と、自分なんかは不思議に思ったりします。

なお、世の中にはP→Cの交差交流の泥仕合を好む人もいます。
喧嘩は実は次回で書く予定の「時間の構造化」と「構えの証明」とも関わっており、
濃密な陰性のストローク交換の状態でもあります。
上に挙げた質問系サイトの「質問するな」の人も、このような泥仕合が
好きなのかもしれませんね。
自分も含め多くの人は喧嘩は嫌いななので、こういうパターンに陥りそうな
場合は、これから書くような相補交流のパターンに持っていくようにすることを
心がけるようにする必要があります。


◎不快なコミュニケーションに対する対策

不快なコミュニケーションが成立しそうになったら、
交差交流を避けるようにすることです。
具体的にはA→Aに話しかけるようにし、
A-Aの相補交流に持っていくようにします。


・P-Cの交差交流を避ける

交流分析08

<例10>
①ちゃんと勉強しないと成績が上がらないぞ。
②宿題の量が少し今の自分の程度に合っていない気がします。
  もう少し進度を緩めてくれた方が結果的に私のためになる気がしますが、
  どうでしょうか?

これは家庭教師と生徒の例を想定していますが、
こんなきっちり応答できる生徒なら家庭教師は要らないような気もしますので、
ちょっと良い例ではないかもしれません。
これに対し、「では少し目標を見直しましょうか」のような応答が得られれば、
しめたものです。


<例11>
①部屋の隅が汚れているぞ。毎日ちゃんと掃除してるのか。
②毎日同じパターンで掃除していると意外と細かいことに気づかなくなるので、
 今後は隔日でもう少し丁寧に掃除しようと思いますが、どうでしょうか?

P→Cに対し、こちらも「うるさいな。毎日掃除する身にもなってよ。」のように
P→Cに返すと確実に喧嘩になります。
こういう場合、具体的で妥当な提案をして相手のAの反応を待つようにするのが
ベストな対処方法です。
しかし現実的にはすぐにこのように応答するのは難しいですよね。
なので、「どうしたらいいかちょっと考えてみますね。」のように
判断を留保するのが妥当な方法だと思います。

その他、波風を立てないように「ごめんなさい。次からは気を付けます。」
のようにC→Pに返し、P-Cの相補交流に持っていたふりをし、
次回からは同じことをする(笑)という、面従腹背パターンも有効です。
これは自分も日常でよく使うパターンです。

ちなみにこれは夫婦の例を想定していますが、
女性が従属的な家庭の場合、結局何を提案しても
「夫にキレられたら負け」というパターンになりそうです。
世帯主である男性が経済的な主体になり、閉鎖的で従属的な関係性が
永続しがちな日本の核家族は実は問題が多いのです。
これは夫婦関係だけでなく、親子関係でおいてもそうですね。
交流分析はカナダで生まれた理論ですが、日本の場合それ以前の社会条件の
整備が必要であることが、交流分析を通しても見えてくるように思います。


・P-Pの相補交流を避ける

交流分析07

<例12>
①19世紀のクラシック音楽こそが至高の芸術だ。
  現代の音楽など聴く気にならん。
②20世紀以降の音楽も、即興性であったり、音そのものの面白さの
  追求であったり、面白い面が多々あるので、私は現代の音楽も好きですね。

自分は音楽や美術が好きなのですが、このような趣味の世界においては
「自分の好きなものを持ち上げるために、別のものを貶める」というパターンを
よく見かけますが、これ、実は自分はあまり好きではないのです。
なので、趣味人同士でこういう交流パターンを持ちかけられると、
自分は結構同意しないことが多いですね。
しかしこれって意外と友達をなくす要素にもなったり、
交流の輪に入れないようになったりするのですが(笑)。
「ポップスや現代音楽の面白さも分からないなんてどこが音楽ファンなのか。」
のようにP→Cに返すと波風が立つので、
少なくとも、A→Aで冷静に返答するのが妥当です。


・その他

例えば悪質な訪問販売・キャッチセールス・勧誘など、こちらに何とかして
YESと言わせるように、あの手この手でコミュニケーションを迫ってきます。
 詳細に説明をする。(A→A)
 「同意する(買う)まで帰らないぞ」(P→C)
 「お願いだから同意して(買って)ください」(C→P)
このような交流パターンを組み合わせてこちらを混乱させ、
YESと言わせるようにしてきます。
こういう業者や勧誘者は意外と精神分析などを悪用した手法を
取っていることも多いです。
これに対し、質問したり怒ったり困ったりすると相手の思うつぼ、
Aの自我状態で「分かりません」を押し通すことが最も有効だと思います。
「分かりません」を繰り返していると、そのうち相手は嫌になって諦めます。


まとめると、不快なコミュニケーションになりそうなときは、
・A→Aに返す。
 妥当な回答ができないときは、
 「ちょっと考えてみます。」「難しいです。」「分かりません。」
・C→Pに返す。謝るふりをしてその場をやり過ごし、逃げる。
 (面従腹背、逃避により不快なコミュニケーションを避ける。)
こんな方法でコミュニケーションを何とかして終わらすことが妥当だと思います。

この方法ですべてがうまくいく訳ではありませんが、頭の片隅にでも
置いておくと、普段のコミュニケーションが変わってくることだと思います。

※これは自分なりの考え方です。
 交流分析を熟知した優秀なカウンセラーなら
 ひょっとしたらもっと良い対処方法を提案して頂けるかもしれません。


◎まとめ

・交流は3つの自我状態をモデルにして解析することができる。
・交流には相補交流と交差交流があり、
 相補交流は快、交差交流は不快な印象をもたらす。
・交差交流を避けるにはP→Cの自我状態へのメッセージに対し、
 同じようにP→Cの自我状態にメッセージを送ることは避ける。
・交差交流を避けるにはAの自我状態で対話をするよう心掛ける。


なお、交流分析では「裏面交流」という交流パターンもあるとされます。
表面上のメッセージと本音が異なるというパターンで、
例えば
発話「わあ、あの服、素敵だね!」(C→C)
本音「(来月誕生日だから、プレゼントしてよね!)」(P→C)
のようなパターンです。
これについては自分はすごく難しいと思うので、触れるだけにしておきます。
(個人的にこういう裏面交流を読むのがすごく苦手なのです 笑。)


次回は「ゲーム分析」について少し触れ、
その後「時間の構造化」についてまとめてみます。