ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団 | れぽれろのブログ

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22日の土曜日、比較的暖かい一日、京都コンサートホールの演奏会に
行ってきました。
オーケストラはバイエルン放送交響楽団、指揮は有名なマリス・ヤンソンス。
曲目は前半がドヴォルザークの交響曲9番「新世界より」、
そして今年はリヒャルト・シュトラウス生誕150年記念ということで
後半のメインプログラムはシュトラウスの交響詩「ドン・ファン」と
歌劇「薔薇の騎士」組曲です。

マリス・ヤンソンスは言わずと知れた有名指揮者。
CDもたくさん出していますし、テレビにもよく登場されるので、
ご覧になられた方もたくさんおられると思います。
2006年と2012年のお正月のニューイヤーコンサート(ウィーンフィル)の指揮を
務めたことでも有名。
このニューイヤーコンサートでは、指揮中に携帯電話を鳴らしたり、
銃をぶっ放したり、ハンマーを手にして鍛冶屋のように金属を叩きながら
指揮したりと、楽しい演出もたくさんありました。
楽曲ではモーツァルトのオペラの旋律をつなぎ合わせた「モーツァルト党」
(ヨーゼフ・ランナー)、歌劇「カルメン」の旋律をつなぎ合わせた
「カルメン・カドリーユ」(エドゥアルト・シュトラウス)など、
メドレーものを
いくつかチョイスされていたのも印象的です。
今回の演奏会のメイン曲目も歌劇「薔薇の騎士」組曲ということで、
やはりメドレーものとなっています。

自分は過去2度ヤンソンスの実演を聴いています。
2006年のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会、
曲目はドヴォルザークの交響曲9番「新世界より」と
ストラヴィンスキーの「春の祭典」、
2008の同じくロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会、
曲目はドヴォルザークの交響曲8番、メンデルスゾーンの交響曲4番「イタリア」、
そしてとラヴェルの「ラ・ヴァルス」(この演奏が素晴らしかった)という選曲でした。
会場はいずれも京都コンサートホール。
どれも前半がドヴォルザークで、後半のメインプログラムに「春の祭典」や
「ラ・ヴァルス」などの20世紀音楽を持ってきています。
今回も全く同じ構成で、前半がドヴォルザーク、そしてメインプログラムの
「薔薇の騎士」組曲が、20世紀音楽となっています。

ということで各演奏・楽曲の覚書など。


前半はドヴォルザークの「新世界より」、
8年前のコンセルトヘボウとの演奏会と同じプログラムです。
演奏は指揮者もオケも手慣れた感じで進みます。
2楽章、じっくりとしたテンポでコルアングレ含む木管のアンサンブルが
非常に心地よく響きます。
4楽章、第2主題のクラリネットソロでテンポを落とし、
クラリネットにじっくりと吹かせています。
第1主題との対比が心地よい。
8年前の自分のメモを見返してみると、やはり
「第2主題でテンポを落とす」って書いてます。
ヤンソンスの解釈は以前と共通のようです。
自分はこの4楽章の展開部が好きです。
1~4楽章のすべての主題が登場し、展開される部分。
バイエルン響、すごく音が立体的に聞こえるので、こういう部分はとくに楽しい。
楽しく前半戦が終了しました。


後半はリヒャルト・シュトラウスの楽曲から2曲。
自分はリヒャルト・シュトラウスの音楽が好きです。
絶対音楽ではなく、特定のテーマに基づく交響詩や歌劇などの標題音楽が多く、
巨大なオーケストラで演奏される、洗練された音楽。
オーケストラの響きを聴くのがすごく楽しい作曲家です。

まずは交響詩「ドン・ファン」
この曲は1888年の作品、シュトラウス24歳のときの作品です。
ちなみにドヴォルザークの「新世界より」は1893年の作品で、「ドン・ファン」より
後の作品なのですが、「ドン・ファン」の方が現代的な響きがする気がします。
1841年生まれのドヴォルザークと、1864年生まれのシュトラウス、
世代の異なる作曲家の差異なのかもしれません。

「ドン・ファン」はまず始まり方が好きです。
いかにも楽しい交響詩がはじまるよという感じ、
昔の「N響アワー」のオープニングにも使われていましたね。
コンマスの独奏から始まる第2主題、ヤンソンスのコントロールと
バイエルン響の立体的な演奏が気持ちよく、ここで早くもうっとりします。
オーボエの独奏から始まる中盤の主題がまた素敵です。
そして後半、ホルンの強奏が鳴り響く、
「英雄の生涯」の後半の部分でも再現する例のメロディが登場。
オケがかっこよく最高潮に盛りあがたあと、静かに終わるのがまたよいですね。
基本的にシュトラウスの交響詩・交響曲は静かに終わるものが多いです。
これはシュトラウスなりの美学なのかもしれません。
この曲は交響詩なので一応付随する物語があるようですが、
そういったことを気にしなくても楽しい音楽だと思います。


そして最後、いよいよメインプログラム、歌劇「薔薇の騎士」組曲です。
自分は歌劇「薔薇の騎士」がすごく好きです。
モーツァルトのオペラを除くと(モーツァルトは別格です)、
数あるオペラの中で今のところ一番好きな作品が「薔薇の騎士」なのです。
「サロメ」や「エレクトラ」で実験的な音作りを探求したシュトラウスがその後
方針変更し、古い貴族社会を舞台にした復古的かつ官能的な音楽を作曲。
若い男と不倫する30代の人妻が登場しますが、偶然が重なり若い男の前に
別の若い女が現れ、人妻は若い男女のために自ら引くというのが主要プロット。
そこに新興ブルジョワジーの勃興と崩れゆく貴族社会を象徴するような
コミカルな役回りの男爵が登場し、物語に色を添える。
全編に至りウィーン風の舞曲を20世紀的に解釈したような音楽が続き、
諧謔的な要素を含みつつ陶酔的であるという、すごく面白い音楽になっています。

自分は「薔薇の騎士」の組曲版はかつてテレビ演奏を聴いたことがあったと
思いますが、あまりきっちりと聴きこんだはありません。
組曲にはいくつかのパターンがあるようですが、
今回の演目はシュトラウス自身のオリジナルの編曲のようです。
この組曲は、序奏のあと、主に2幕前半、2幕後半、3幕後半の
3つの部分をつなぎ合わせた音楽となっていました。
抜粋されている部分がどれも音楽的に素晴らしい部分で、
薔薇の騎士のエッセンスが十分に楽しめる編曲です。
ヤンソンス&バイエルンの演奏も素晴らしく、感極まる音楽となりました。

まずは序奏。
いきなり音楽が盛り上がり、ホルンの連打で「絶頂」に達するのは
セックスそのものを描写しています。
(と、過去記事でも「性愛の描写音楽」というくくりで書いたこともあります。)
ヤンソンスはわりとねっとりと描写しているような気がしましたが、
ひょっとしたらこういうのが好きなのかもしれません(←何の話か?)。

序奏のあと、音楽はいきなり2幕前半の「銀の薔薇贈呈シーン」まで
一気に飛びます。
オクタヴィアンとゾフィーの出会いの二重唱が、
おもに木管楽器で再現されています。
おおっ、いきなり滅茶苦茶気持ちいい!
脳内でオペラのシーンが流れます。
この部分、フルートやハープで演奏される一風変わった下降音型
(文章で書くのが難しいですがお分かりでしょうか?)が
音楽に色を添える部分が好きです。

続いてオクタヴィアンとゾフィーのイチャイチャが
ヴァルザッキとアンニーナに発見される部分を瞬間的に挟み、
音楽はに2幕後半、オックスのワルツまで飛びます。
このワルツも少しメロディに癖がありますが、すごく好きな音楽です。
アンニーナが手紙を朗読する部分、少ない楽器数で綺麗に弱音を響かせます。
やがてワルツの主題が盛り上がっていきますが、
この部分、オックスのバスの低音はどの楽器でも再現されていません。
低い低い音が何だか恋しくなってきます。

そして音楽は3幕後半に飛びます。
マルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱。
「薔薇の騎士」全幕のクライマックス、感極まる涙腺崩壊音楽。
ヤンソンスはじっくりオケをドライブし、「薔薇の騎士」の美しさを
存分に再現しています。
やがてマルシャリンが抜け、若い二人の二重唱に。
このまま原曲どおり静かに終わっても良かったと思いますが、
音楽は時系列を遡り、3幕中盤の「オックス強制退場シーン」に逆戻りします。
この部分は何だか不思議な編曲です(笑)。
最後はオクタヴィアンの主題(序奏の冒頭のメロディ)が現れて、〆。
これはこれで盛り上がる終わり方で面白いですが、
自分は静かに終わる方が好きかもしれません。
拍手喝采、ブラボーが飛び交います。

ということで、半ばヤンソンスとバイエルン響のことも忘れ(笑)
ひたすら「薔薇の騎士」の世界に入り浸ってしまいました。
「薔薇の騎士」は好きなオペラなのですがなかなか演奏機会がなく、
実演ではまだ未鑑賞なのです。
数年前にびわ湖ホールで演奏されていましたが、行けませんでした。
新国立劇場で来年春に「薔薇の騎士」をやるようですが、
何だかわざわざ東京にまで行こうかなという気になってきました。


そして、アンコールはリゲティの「コンチェルト・ロマネスク」という曲でした。
知らない曲でしたが、やたらと高速で動くコンマスや木管楽器の独奏が
楽しい音楽でした。
最後の終わり方、弦楽器が弱音で高音域のキーンとした音を出し続け、
その後強烈な強音で終わるという、面白い曲。
バイエルン、すごく演奏がうまいという印象が残りました。


ということで楽しい演奏会でした。
ありがとう、ヤンソンス&バイエルン。