日出処/椎名林檎 | れぽれろのブログ

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今月の5日、久しぶりに発売日にCDを購入しました。
購入したのは椎名林檎さんの5枚目のオリジナルアルバム「日出処」です。
長らくポップスのアルバム記事を書いていませんでしたが、
このアルバムがかなり面白かったので、久しぶりにアルバムの記事を書きます。

・日出処/椎名林檎

日出処


椎名林檎さんの前回のアルバムは2009年発売の「三文ゴシップ」。
これ以来5年ぶりのオリジナルアルバムです。
2009年以降もバンド:東京事変(すでに解散)のアルバムや、個人名義での
シングル作品は発売されていましたが、椎名林檎としてのアルバムは5年ぶり。

今回のアルバムは計13曲入り。
うち6曲はこの5年間に既にシングルで発表済み
(ただし1曲は英詞版の別テイク)、
7曲が今回の新曲となっています。

13曲の曲順は、例によって文字数がシンメトリーとなっています。

目次

これは2ndアルバム「勝訴ストリップ」以来のお約束。
中心が1文字、両端各2曲6文字、その他は7文字。
過去5年のシングル曲は、このためにすべて6文字か7文字に
統一していたようです。

アルバムの収録時間も50:05でシンメトリー。
(だと思いますが、我が家のへっぽこ再生機では50:04と
表示されてしまっています。)

アルバムジャケットは従来になく派手派手しいものです。
背後には日章旗、そして葛飾北斎の富嶽三十六景より「凱風快晴」と
「神奈川沖浪裏」。
「NIPPON」というタイトルの楽曲もあり、アルバムのタイトルと合わせて
なんとなく日本テイストを全面に出している
・・・ようにも見えますが、題字は英語で「SUNNY」、林檎さんはなぜか金髪、
過去には和服でのジャケ写やライブもありましたが、今回は洋装。
日本趣味を思わせながらそうでないコードを織り交ぜるギャップ。
林檎さんにお化粧を施すのは、謎の男の手。
日章旗の中心は隠れており、左上にはお月様
(この太陽と月は「赤道を越えたら」の詞を思わせる)、
林檎マークの飛行機(JL005便?)とギターと機材
(この機材の「SRHIT」=「椎名林檎日出処」の頭文字)。
右下には謎の馬・・・。
そして林檎さん、ホクロが「昔あった位置」に付けられています。
何やら意味深ですが、上記の和洋折衷を含め、
単にコードのお遊びのようにも見えます。

今回のアルバムはシンプルなバンドサウンドより
オーケストラアレンジの楽曲が多いです。
全13曲中7曲がオーケストラアレンジ(うち6曲は斎藤ネコさん編曲)、
残り6曲中3曲は木管・金管セクションが入っており、
シンプルな4・5ピースバンドは3曲のみです。
ここのところが、聴く人の好みが分かれそうです。
バンドサウンドはもう東京事変でやりつくしてしまったということなのかも
しれません。

今回のアルバムの一番面白いところは、
全曲を通してなんとなく1つのストーリーがあるように見えてくるところ。
とくにコンセプトアルバムであるということもないようですが、
楽曲のつながりがはかなり意識されているように見えます。
東京に出てきた女の子が希望と挫折を経験し、
男女の綾を学び男を求め、やがて運命の人との出会い、
気が付けば結婚と出産、我が子の命を愛おしみ、
そして生きる喜びと命の温かみを我が子に語りかける・・・。
こんな物語を感じさせる楽曲順になっています。面白い。


ということで、以下全13曲のコメントです。

・静かなる逆襲
いきなりホーンセクションが心地よい曲です。
故郷から東京に出てきた人の少し鬱々とした心境を描いたような歌詞。
インタビューによると18歳のころの作品らしいですが、
スターバックスって97年当時ありましたっけ・・・?
ギターソロの前に「ギター!」と叫ぶのもお約束。

・自由へ道連れ
今回唯一の4ピースバンドの楽曲。
メンバーはPOLYSICSのハヤシ、Dragon Ashの桜井誠、
Going Undergroundの石原聡、
林檎さんを含めみんな同い年なのだとか。
(ちなみにどうでもいいですが自分も78年生まれで同じだったりします。)
この曲はAメロの2フレーズ目、「この現し身は」の部分の半音階進行が好きです。
他は割とシンプルなメロディ。
ライブでは恒例の「拡声器歌唱」が似合いそうな楽曲です。

・走れゎナンバー
前曲と打って変わってネガティブな歌詞です。
過去曲で言えば「警告」「アイデンティティ」「やっつけ仕事」などの
やけっぱち曲のイメージに近いでしょうか。
車も自分自身も借り物。「わ」ナンバーはレンタカー専用ナンバープレート。
冒頭から暴れまわる(?)フルートソロが楽しいです。
旋律への歌詞の当て方も心地よい1曲。

・赤道を越えたら
男女の差異が、赤道を越えた地球の裏表に例えられています。
北半球と南半球、春と秋、朝と夜、太陽と月。
この曲はAメロの出だしの1音(「平和の」の「へ」、「繁栄を」の「は」の部分)が
好きです。
短調の導音から始まって下降するメロディって、あんまりないような気がします。
全体的に歌詞・旋律・演奏のバランスが心地よく、
今回の新しい7曲の中では、この曲が一番好きかもしれません。

・JL005便で
この曲以降、2曲を除きすべてオーケストラアレンジ(弦楽器セクション付)の
曲となります。
弦楽器のアレンジは素敵ですね。
この曲は英詞。
JL005便はJFK空港(ニューヨーク)発→成田(東京)着の飛行機のようです。

・ちちんぷいぷい
変なタイトル(笑)ですが、今回の13曲中でも一番かっこいい曲だと思います。
とくに後半がかっこいいですね。
魔法のように男に色仕掛け、という感じの歌詞。
「林檎!」の掛け声も心地よい。
「⌘251」「⌘+2」はどういう意味なのでしょうか・・・?
「⌘」はアップル社製品(=林檎!)のコマンドキーの記号のようです。
「+2」の部分で変ロ短調→ハ短調で長二度転調していますが
これも何か関係があるのかもしれません。
この曲の最後が、個人的にアルバム前半のクライマックス。

・今
林檎さんの場合、シンメトリーの「ど真ん中」の曲が
アルバムのメイン曲となる場合が多いです。
過去曲「罪と罰」「茎」「旬」に相当する曲。
ですが、今回は時系列の中心といった感じ。
歌詞は運命の人と出会う瞬間の美しさ、過去と未来の間の今この瞬間、
アルバム全体の流れから、前半6曲が過去的で、
この後の後半6曲が未来的な雰囲気。
黒と白の無彩色が赤青黄色になりますが、これは次曲への複線にも見えます。
5年前のアルバム「三文ゴシップ」の「旬」も今の喜びを歌った曲でしたが、
今回の「今」の方がどことなく刹那的に聞こえてきます。
これが5年前(林檎さん30歳)と現在(35歳)の差なのかもしれない、
などと考えてしまいます。
(30歳は旬といえますが、35歳はもう旬を過ぎたのでは、などと考えてしまう・・・。)

・いろはにほへと
後半1曲目は言葉の遊戯性の強いお遊び・息抜きソングというのが
過去アルバムの共通した傾向でしたが、
(「積み木遊び」「ストイシズム」「とりこし苦労」「二人ぼっち時間」)
今回そのパターンは崩れました。
タイトルからして、イロハニホヘト、イ短調の音階遊びを予想しましたが、
そんな曲ではなかった(笑)。
色は匂えど散りぬるを。
前の曲で無彩色から赤青黄色になりましたが、この曲では色が散っていきます。
冒頭のチェンバロはバッハの「トッカータとフーガ」を連想してしまいます。
後半に出てくるメロディ(「気高いあなたも~」の部分)が好きです。

・ありきたりな女
子どものころ、若いころに感じた感覚は、二度と戻ってこない・・・。
歌詞を読む限りは戻らない過去を愛おしく思うような曲に見えますが、
林檎さんのコメントによると、いつのまにか辿り着いた現在を
肯定する要素が強いようです。
最後のgoodbyeは肯定的な決別ということ、
曲調も明るいので確かにそう感じます。
今回の新曲7曲の中で最も感動的なナンバー。
Bメロから少しずつ音が上がってサビにつながる部分も素敵ですね。

・カーネーション
ベタですが、この曲が一番気に入りました。
林檎さんが作る3拍子の曲って、何だか妙に好きなのです・・・。
(「同じ夜」「時が暴走する」「おだいじに」「ポルターガイスト」、等)
命と生を肯定する歌詞、
「かじかむ指ひろげて~」の部分が、個人的に全13曲中最大のクライマックス。
タイトルからやはり母が子の命を慈しむ歌に聴こえますが、
これはドラマのタイトルのようですね。
東京事変のメンバーも参加、ハープもやたら綺麗で感動的。
ちなみにこの歌詞、真四角になっています。字数合わせのこだわり。

カーネーション


・孤独のあかつき
シングル版は日本語詞、アルバム版は英語詞です。
日本語版/英語版を両方作詞するパターン。
(「丸の内サディスティック」「浴室」「茎」「カリソメ乙女」、等)
「同じ夜」と思い出す、斎藤ネコさんのVnソロも聴くことができます(短いですが)。
ボーカルのエフェクトも特徴的。

・NIPPON
サッカーワールドカップのために作られた機会音楽のようですが、
懸命な生を肯定し、生きる喜び歌ったを歌詞が素敵です。
楽曲の印象もポジティブで感動的。
東京事変の「スポーツ」に収録されていても良い感じの楽曲。
この曲は構成が少し珍しい気がします。
メロディはA→B→C→D→B→B→B→Aと移り変わります。
2回目のBのあとに間奏、4回目のBは転調して少しメロディラインが変わります。
最後のAは冒頭のメロディが英語詞に乗せて反復されます。
前半に出てくるCとDの部分のメロディ(「鬨の声が~」と「爽快な気分~」)は、
一度しか登場しません。
こういう構成は珍しい・・・?
個人的に4回目のB「追い風が吹いている~」の部分が、
このアルバム後半のクライマックス。

・ありあまる富
最後の曲。これがまた感動的です。泣けます。
世界の中に生きる君の命を無条件に肯定する。
命はすべての富に勝る、生きてるだけで丸儲け。
楽曲はシンプルなバンドサウンド。
昔からの林檎さんのファンで、最近は林檎さんから離れている人でも、
この曲だけでも聴いてみてほしいです。


ということで楽しいアルバムですので、
ご興味のある方はぜひぜひお買い求めください。