ジャン・フォートリエ展 | れぽれろのブログ

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15日の土曜日、国立国際美術館に行ってきました。
目的はフォートリエの展覧会。
先月国立国際美術館でジョナス・メカスの映像作品を鑑賞しましたが、
絵画作品の展覧会はバルテュス展以来3か月ぶりの鑑賞となりました。

ジャン・フォートリエは20世紀前半のフランス人で、
いわゆるアンフォルメルの画家としてカテゴライズされる方です。
不定形な形態を表現主義的に描き、とりわけマチエールを重視する作風で、
戦後すぐの美術史に登場する作家さん。
フォートリエは1964年に亡くなられているので、今年は没後50周年になります。
今回の展示では作品はほぼ年代順に展示されており、
フォートリエの20年代の珍しい作品から晩年の作品まで、
ずらりと並んだ構成になっていました。
以下展覧会の覚書など。


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まずは初期作品の展示。
20年代前半の作品は写実的な人物画が多いです。
後の作品からは想像しにくい作風で、人物の特徴を過度に強調するような
過剰な写実というか、「濃い写実」とでも言えるような作品たちが並びます。
「管理人の肖像」など、リアリズム絵画ですが顔が緑色で彩色されており、
異様な存在感をもった人物として描かれています。
一方で「玉葱とナイフ」など、一筆の勢いを重視した作品もあるのが面白いです。

20年代後半になると、突然写実性から遠ざかります。
形態は曖昧になり、輪郭線もぼんやり。
一応人物が立っているとか、裸体であるとか、そういうことは分かります。
全体的にうすぼんやりとした作品が多く、
後のいわゆるアンフォルメルと言われる作品の濃密さとは少し異なります。
女性の裸体画が多いですが、静物画もあります。
お魚を描いた作品「鯛」など、良い雰囲気です。

その後、フォートリエは一時期絵画から遠ざかっていたようですが、
30年代末になると再び製作するようになります。
この時期になるとかなり形態は曖昧になり、作品タイトルがないと
何が描かれているかわからないというような、
そしてフォートリエと言われて
思い出すような、如何にもアンフォルメルという感じの作品が続きます。

そしてフォートリエの代表作「人質」のシリーズの展示。
人間の頭部と思われる塊が、ものすごい厚塗りの絵具で描かれています。
フォートリエは40年代初頭にのドイツ占領下のフランスにて
ゲシュタポによる暴力を目の当たりにしてきたという経験を持っています。
知人が暴力にさらされる瞬間、そのときの暴力を受けた身体、
目鼻が崩れた顔面を連想させるような作品が続く・・・。
この時期の絵画の物質性はものすごく、マチエールとしての顔料の存在感が
すごいです。
この「人質」シリーズだけは、特別に黒色で覆われたブースに展示されており
今回の展覧会の目玉になっています。

戦後以降の作品も基本的に「人質」の流れにあるように見えます。
「人質」と同じような製作方法で描かれたと思われる作品たち。
静物などが描かれていますが、「人質」シリーズを見た後では「果物」であれ
「コーヒー挽き」であれ、何を見ても人間の頭部に見えてきます(笑)。

晩年の作品、50年代末から60年代になると、作風はより抽象性を増してきます。
「雨」「草」「植物」など、一応具象的な事物を描いているようですが、
画面に厚塗りの絵具が盛られ、その上に色彩が置かれ、さらにナイフで
削られたりした独特の形状となっており、
抽象度は非常に高いです。
「無題(四辺画)」「干渉」などは、抽象画そのもの。
絵画の物質性、形態の面白さ、色合いの楽しさなど、
晩年のこの時期の作品が最も面白いと個人的に思います。


展示場の最後には、生前のフォートリエの姿を映した映像が流されていました。
この映像内での作品の制作方法を見ていると、フォートリエはイーゼルなどに
カンバスを立てかけて描くのではなく、
テーブルの上にカンバスを水平に
置いたまま、上から絵具を置いていくようなかたちで
製作されていました。
思い出したのがジャクソン・ポロックのオールオーバー作品の製作方法です。
これもやはり床に水平に置かれた画布にインクを落としていくという
製作方法でした。
ポロックとフォートリエは作品の質はかなり異なるように思いますが、
絵具の物質性を感じさせる作風と、製作方法のある種の近似性に、
なんとなく同時代性を感じます。

インタビューによると、フォートリエは非常に製作するのが速く、
1作品を1時間で製作するのだとか。
手慰みで描こうと思えば3分で描けるとか言ってます。
しかし構想にはかなり時間をかけるらしく、
描くまでに頭の中で延々作品について考えるのだそうです。

フォートリエの作品は、明らかにその後の日本の50~60年代の作品に
影響を与えています。
日本社会も第二次世界大戦においてこっぴどい暴力にさらされた社会で
あるため、「人質」に代表されるような暴力を感じさせる作品も多いです。
また抽象的な作風、絵画の物質性・マチエールについても
アンフォルメル絵画から大きな影響を与えているように思います。

その後時代は移り変わり、美術界の作品の潮流も移り変わっていきます。
フォートリエ的・アンフォルメル的な濃密さは現在では忌避されるのか
こういう作風は現在では少なくなってきているように思います。
今回の常設の関連展示では、フォートリエの「人質」と同様に頭部を描いた
作品など、リュック・タイマンスのいくつかの作品が展示されていましたが、
タイマンスに代表されるある種の「薄さ」は、そのまま半世紀前と現代の時代の
差異を表しているように感じられます。


ということで面白い展示でした。
アンフォルメルの作家さんの特集展示など、めったに見られないと思いますので、
戦後前衛美術に興味のある方はぜひご覧頂きたい展覧会です。


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常設展も合わせて鑑賞してきましたので、以下いくつかの覚書です。

2年前の「リアル・ジャパネスク」で物凄いインパクトだった
あの泉太郎のウサギの作品が展示されていました。
会場の床にひたすら書き込み続けられたウサギに関する観察記録。
この写真をミニチュア化してガラスケース内に収納し、
映像とともに展示されていまいた。
2年前の鑑賞を追体験。
その他同じく「リアル・ジャパネスク」の竹川宣彰の作品をはじめ
過去数年の特集展示の作家さんの作品がちらほら見られます。

写真作品の展示スペースに、なんと細江英公の「鎌鼬」がある!
「鎌鼬」なんて所蔵してましたっけ・・・。
最近所蔵したのでしょうか。
3年前の特集展示された森山大道、
そして個人的に好きな東松照明の地面のシリーズといっしょに並んでいます。

その他、ホックニーの版画集「青いギター」の連作が面白いです。
(これも最近の所蔵?)
ピカソの青の時代を代表する「老いたるギター弾き」(個人的に好きな作品です)に
始まり、ピカソへのオマージュがちりばめられた作品で、楽しいですね。