アンドレアス・グルスキー展 | れぽれろのブログ

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15日の土曜日、国立国際美術館にアンドレアス・グルスキーの
展示を見に行きました。

この日の前日(14日)は稀にみる大雪の日。
道路は大渋滞、電車も遅れ気味、交通機関がマヒし、たいへんな一日でした。
15日は雪はやみ、気温は前日よりは少し高かったですが、
小雨がぱらつき風もそれなりに冷たく、寒い一日でした。
そんな中、「友の会」の更新を兼ねて国際美術館へ。
「友の会」の会員証ですが、カードのデザインが変わりましたね。
前の茶色ベースのカードも良かったですが、今回の白ベースもカードも
悪くないです。


アンドレアス・グルスキーはドイツの現代写真家。
20世紀の超有名写真家であるベルント&ヒラ・ベッヒャーに師事したといわれる、
いわゆるベッヒャー派の写真家の中の1人です。
大画面の大判の写真の中に、たくさんの情報を写しこむ作品が有名です。
写真全体の規模・インパクトともに大きく、かつ写真の細部を観察するのが
楽しい作品を作られる作家さんです。

自分は2006年に京都国立近代美術館で開催された「ドイツ写真の現在」という
展示でグルスキーの作品を見ています。
このとき、ヴォルフガング・ティルマンス、ハンス=クリスティアン・シンク、
ロレッタ・ルックスなどの写真家と並んで、グルスキーの作品が展示されており、
すごく面白かったことを記憶しています。
それから時のたつことはや8年。
グルスキーは2006年以降もかなり面白い作品を製作しており、
非常に楽しく鑑賞することができました。

現代美術作品で、しかも現代写真家の展示にも関わらず、
会場にはそれなりに人がたくさんいました。
もっと空いてると思ったけど意外や意外、
現代美術が意外と盛況のようで、何やらうれしいです。

展示作品は全51点。
展示方法としては、年代順や作品のカテゴリごとの分類などではなく、
バラバラに無秩序に作品が並べられているように見えました。
80年代の小規模な作品から、90年代後半以降の大規模な作品まで、
様々な作品が入り乱れて展示されていました。


全体として感じたこと。

グルスキーの作品は、私たちが生きているこの世界を写した写真ですが、
その多くはデジタルで加工されており、このため、
作品全体の印象は、ある種のCGっぽかったり、抽象画のようだったり、
何だかこの世界の風景ではないように見えてくるという面白さがあります。
パッと見、カンディンスキーのようだったり、モンドリアンのようだったり、
ポロックみたいに見えたり、ロスコみたいに見えたり、
いろんな抽象画を思い出したりもします。

それでいて、大判写真の画面に近づくと、細部に人や物が犇きあっており、
それぞれの人や物がそれぞれの個性を主張しています。
なので、グルスキーの面白さは写真集やカタログだけではわからない。
細部の楽しさは、やはり現物の大判写真で鑑賞するのが楽しいですね。
大きな写真なので、写真の上の方の細部を観察しようとすると
必然的に写真を見上げる形になります。
なので、鑑賞中、首が非常に疲れました(笑)。

写真の可能性、写真が現代美術に位置付けられる必然性を感じるとともに、
世界の見え方の面白さを堪能することができる、
強烈に面白い展覧会となっていますので、
写真ファン、現代美術ファンの方は、ぜひお見逃しなく。


ということで、以下とくに面白かった個別の作品についての覚書です。
個人的なメモをごちゃごちゃと書き並べますので、
ご興味のある方だけお読みください。
本当は画像を貼ってコメントした方が良いのですが、
画像では面白さが伝わりにくいのと、あと画像を探すのが面倒なので、
テキストだけとなります。


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・パリ、モンパルナス 1993年
巨大なアパートをそのまま映したものと思われます。
四角の部屋が横長の画面いっぱいに延々並ぶ。
部屋ごとに色とりどりのカーテンが並びます。
部分的にはモンドリアンのある種の絵画のようにも見えます。
窓が開いて部屋の中が見える部屋、住人がいる部屋、
一つ一つの部屋を確認するのが楽しいです。
しかし全体としては、部屋一つ一つの個性が無化され、
ただの色調の並びになるのが面白いです。

・香港、上海銀行 1994年
夜のオフィスビルを側面から写した写真。
各階の事務所の中の様子がよくわかります。
たくさんのテーブル、たくさんの働く人たち。
時々赤いライトの階があります、この階は何なんだろう?
この赤い部屋あるせいで、全体としてなんとなくマーク・ロスコの
絵画のようにも見えてきます。

・無題Ⅵ 1997年
ポロックの作品「ナンバー31」(たぶん)を写真で写した作品。
抽象画のようにも見える作品を製作する作者が、
本当に抽象画を撮影した一枚。

・99セント 1999年
日本の100円ショップに相当する(と思われる)アメリカの99セントショップの
お店の内部を広く写したもの。
色とりどりのお菓子や飲み物や雑貨などがながズラリと並ぶ。
ロスのお店らしいですが、夥しい数のお菓子たちが何やら怖い(笑)。
右側に仮面をつけて買い物をしている人がいますが、この人は何なんだろう?

・ライン川Ⅱ 1999年
この作品は2006年の京都でも展示されていました。
比較的小さい画面ですが、草・水・空が水平線で
きっちり上下に分割されています。
不思議で楽しい作品、個人的に好きな作品です。

・グリーリー 2002年
これも2006年に京都で見た作品です。
広い放牧場が細かく区画され、夥しい数の牛が犇めき合う・・・。
点々と散らばる牛一匹一匹の面白さと、なんとなく居心地悪い
畜産業の実態が混ざり合う、独特の印象の作品です。

・パリ、フランス共産党本部 2003年
表題の建物の内部のようですがが、
写されているものが何なのかよくわからない・・・。
天井でしょうか・・・?
変にモダンで前衛的な感じが、共産党らしい感じもします。

・ニャチャン 2004年
椅子などの家具を手作業で生産している労働者たち。
籐を編んでいるのかな?
写真下側は真上から見た構図、しかし、
写真上側は斜め上から鳥瞰的にみた構図になっています。
不思議な遠近法です。
横線で区画された階層構造の画面の中、
点在するオレンジ色のシャツの人間たちと、生産材である植物のうねりが印象的。

・バーレーンⅠ 2005年
カーレース場か何かでしょうか?
砂漠の中、ぐねぐねと曲がる道路が楽しい作品。
遠目で見ると、コーヒーとミルクのマーブリングのようにもみえます。
本当にこういう道路があるのか、加工したものなのかはよくわかりませんが、
うねうねした道路が楽しい作品です。

・F1ピットストップⅣ 2007年
F1レースの停止中の車の様子を撮影したもの。
左側にはトヨタ、赤いポールと赤いユニフォームの人たち。
右側にはホンダ、黒いポールと黒いユニフォームの人たち。
左右対称です。
それぞれ作業員が車のメンテをしていると思われます。
背後には車を撮影するファン層と思われる人たちが一段高い位置に並ぶ。
中央にはレースクイーンがいますが、これまた左右対称で、
後ろを向いた人と前を向いている人がいます。
仕組んだような画面構成が楽しい作品。

・フランクフルト 2007年
空港の掲示板と思われます。
夥しい数の行き先、時刻、機種。
下側には作業員が並びます。
上記のF1ピットストップもそうですが、上下で分離し、
階層構造を成しています。
掲示板の中に大阪の文字(伊丹空港?)を発見すると、
何やらうれしくなります(笑)。

・ピョンヤンⅠ 2007年
北朝鮮のマスゲームの様子を撮影した作品。
マスゲームはまさにグルスキーが撮影するためにあるようなイベントです(笑)。
同じ姿をした人間たちが、統一的に画面を構成する面白さ。
グルスキーは、人間が無秩序に入り乱れる中、
ある一定の秩序ができてくるように見える作品が多いですが、
この作品は完全なシンメトリーで、完璧な秩序があります。
しかし、完璧な秩序があると、逆に細部の差異が目立ってくるという
逆説的な面白さを感じることができます。

・ツール・ド・フランスⅠ 2007年
上記の「バーレーンⅠ」と似た作品ですが、
こちらは道路の上に車と人がうじゃうじゃ。
たくさんの車と夥しい数の人が、道に沿って一定の秩序をもって
並んでいるのがすごく面白いですね。

・南極 2010年
グルスキー自ら撮影したものではなく、
衛星写真をデジタル加工し、大判でプリントしたものとのことです。
南極大陸をどどーんと大きくとらえる。
雪をかぶった南極、何だか生クリームみたいに見えます。
何やらおいしそうです。

・北京 2010年
北京の近代建築の一部を捉えたものと思われます。
斜め方向に、様々な線が入り乱れた画面。
手すり、階段、柱、梁・・・面白い建物ですね。
全体は白と赤で統一された不思議な建物です。
全然北京らしくない(←偏見)感じがまた面白い。

・オーシャンⅠ 2010年
上記の南極と同じ趣旨で撮影されたもの、
こちらもやはり衛星写真の加工のようです。
一瞬何なのかよくわかりませんでしたが、よく見ると
インド洋を撮影したものであることがと徐々にわかってきます。
上側にインド亜大陸の南端とスリランカ、
右側にスマトラ島とマレー半島、
右下にオーストラリア大陸西部、
左上にアラビア半島とソマリアの一部、
右下にマダガスカル、
地球の一部をトリミングするとこんなに面白くなることに驚きます。

・オーシャンⅡ 2010年
同じく今度は北大西洋です。
上側にグリーンランド南端、
その右側にアイスランド、
左下にアフリカ大陸西端、
右上にカナダの東端、
面白いですねー。

・バンコクⅠ,Ⅱ,Ⅳ 2011年
今回一番面白かったのがこの3作です。
会場入ってすぐに「バンコクⅠ」が展示されており、
いきなりこの作品に釘付けになりました。
単に水面を撮影しただけの作品ですが、水面の模様が抽象的で面白い
形状になり、そこに映り込む白いものがまた心地よい画面を作ります。
水上にはよく見るとたくさんのゴミ類が浮いています。
近づくと日本の風俗系雑誌と思われるものも浮いています。
日本語の雑誌・・・なぜバンコクに?

・V&R 2011年
ファッションショーと思われます。
右から左から歩いてくるモデルさん、
奇抜な衣装を身に付けた彼女たちが、ちょうどすれ違い、
左右それぞれを向いたモデルさんが交互に並ぶ瞬間。


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なお、常設展示では、一部国際美術館所蔵の現代写真も
展示されています。
この中にも1枚グルスキーの作品がありますし、その他
ベッヒャー夫妻、ホックニー、ジャン・マルク・ビュスタモント、
ヴォルフガング・ティルマンス、ディック・ムニーズなども展示されていますので、
お見逃しなきよう。