変化するラス・メニーナス | れぽれろのブログ

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以前も書いたかもしれませんが、西洋美術史の中で自分が好きな画家を
無理やり1人だけ挙げるなら、悩んだ挙句ベラスケスになるのでは
ないかと思います。

ベラスケスは17世紀スペインの宮廷画家。
ベラスケスの特徴は、絵に近づいて見ると曖昧な筆致、
しかし少し離れてみるとしっかりとした物の形に見えるということ。
とくに後期の絵は、こういう傾向が強いですね。
ぐにゃぐにゃうねうねした絵具の塊が、離れてみるとはっきりとした
物の形に見える、これが素敵です。

そんなベラスケスの代表作といえば、ラス・メニーナス(宮廷の侍女たち)です。

・ラス・メニーナス/ベラスケス

ラス・メニーナス


この作品は「絵画のモデルから見た視界を絵画化する」という試みです。
左手の絵筆を持った画家はベラスケス本人、
手前左側にはキャンバス、王と王妃の姿を描いている最中です。
そしてモデルである王と王妃の視線が、
このラス・メニーナスの画面になっています。
奥の鏡にモデルの2人の姿が映っています。
モデルの視界に並ぶのが、宮廷の侍女、矮人、犬、王女マルガリータ、
そしてベラスケス本人。
「描かれる人間が見たものを描く」

無理やり図式化すると、こんな感じ。

・ラス・メニーナスの構造

構造

赤枠が「ラス・メニーナス」に描かれている部分です。
王と王妃を描いているベラスケス。
描かれている王と王妃の視界を描いた「ラス・メニーナス」。
後ろの鏡には、王と王妃の姿。


ラス・メニーナスがこのような不思議な構造の作品だからなのか、
昔から人気があり、多くの著名な作家さんたちに模写、あるいは改変されて
描かれてきました。

ということでようやく本題。
後年の作家によって再制作されたラス・メニーナスのうち、
いくつかを並べてみます。


・ゴヤ

ラス・メニーナス(ゴヤ)

ゴヤの版画による再製作です。
基本的に元絵に忠実に再現されているようですが、
人物の描写など、なんとなくゴヤっぽくなっている気がします。
ゴヤもベラスケスと同じく、スペインの画家です。


・ピカソ

ラス・メニーナス(ピカソ)

続いてはピカソ。
ピカソもスペイン出身の画家です。
こちらはゴヤのような模写ではなく、ピカソならではの解釈になっています。
なにやら構造をあれこれ模索している感じ。
ピカソはこれ以外にもいくつかのラス・メニーナスによる作品を残しています。


・ダリ

ラス・メニーナス(ダリ)

シュルレアリスムの画家ダリ。
この方もスペインの画家。
そして描かれた人物が、皆数字に・・・。
ダリにはラス・メニーナスがこのように見えたのでしょうか(笑)。
しかし、人物造形の構造は、不思議とこの数字の形と一致しているように
みえるのが面白いです。


・ボテロ

王女マルガリータ(ボテロ)

フェルナンド・ボテロはコロンビアの画家。
この方にかかれば、どんなモデルでもコロコロ太った
ぽっちゃりした愛らしい人物に変身します。
ラス・メニーナス中央の王女マルガリータが、こんな感じに変身しました(笑)。


・ウィトキン

ラス・メニーナス(ウィトキン)

続いては写真による再制作。
ジョエル=ピーター・ウィトキンはアメリカの写真家。
死体を扱ったり、障害を持たれている方をモデルにしたりと、
鑑賞者に衝撃を与える挑発的な作品が有名な方です。
(なので、ウィトキンの名前で検索するときはご注意を。)
この作品にもそのようなウィトキンの傾向が表れています。
なお、ベラスケスも矮人や道化師などの肖像をたくさん残していますし、
ラス・メニーナスの元絵にも右の方に宮廷の矮人が描かれていたりします。


・森村泰昌

ラス・メニーナス(森村泰昌)

森村さんは日本の写真家。
自分自身が名画の登場人物にに扮し、写真化するという作品を
たくさん残されています。
この作品も、自分自身が登場人物に変身したセルフポートレートの合成写真。
森村さんの作品の面白さは、元絵との"似てなさ加減"というか、
微妙な(あるいは意図的な)"ずれ"の部分が楽しいのだと思います。
作品によっては、衣装やアイテムをあからさまに別の物に置き換えたりする
ケースもあります。
このラス・メニーナスはその中でも比較的忠実に再現されている作品だと
思いますが、それでも微妙なアンバランスさ、居心地の悪さが楽しいです。


・イヴ・サスマン(アルカサルの89秒)

ラス・メニーナス(イヴ・サスマン)

最後は映像作品から。
これは実は自分は見たことない映像作品なので、
単に自分が見てみたいなという、それだけのための覚書です(笑)。
上記は映像の一部だと思われます。
イヴ・サスマンは「浮上するフェルガス」という作品を見たことがあり、
劇的なポージングの人物たちが、スローでゆっくりと動く姿が印象的でした。
なので、ラス・メニーナスがどのように映像化されているのか、
非常に気になっているのです。


以上、時代により変化・進化を遂げるラス・メニーナスあれこれでした。