ターナー展 | れぽれろのブログ

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18日の土曜日、神戸市立博物館に、
「ターナー展 英国最高の風景画家」と題された展示を見に行きました。
この日は夕方から雪が降るかも・・・という寒い日。
天気予報も雪だるまマーク。
雪が降る前に行ってこよう、ということで朝から出かけ、
お昼ごろに神戸三宮に着きました。

ウィリアム・ターナーは18世紀末~19世紀中盤にかけて活躍した
イギリスの風景画家。
ロマン派の画家ですが、一部後年の印象派を先取りしたような
先駆的な作品が特徴といわれる画家です。
「雨・蒸気・スピード」など有名な作品ですね。
この展覧会は、ロンドンのテート・ギャラリーに所蔵されている
ターナーの作品を俯瞰するという企画。
展示はほぼ全点ターナーの作品でした。
こういう展覧会の場合、同時代の他の作家の作品も並べて展示される
ケースも多いですが、今回は最初から最後までたっぷりとターナーです。

作品はほぼほぼ年代順に展示され、
風景画家としての変遷が分かる展示となっています。
油彩画もあれば水彩画もあります。
のんびりした風景もあれば、大自然の荒々しい風景もあり、崇高な自然風景あり、
様々な建築物あり、群衆が描かれた絵あり、海と船と荒波あり・・・。
歴史を題材にしたものや人物が登場する絵もありますが、
ターナーの場合、あくまでもメインは風景です。
ターナーはイギリス各地を転々と旅し、大陸にも旅に出ます。
とくにイタリアでの作品が印象的です。
そして、晩年になるにしたがって、風景全体の形態が曖昧模糊となってきます。
このあたりはかなりターナー独自の世界。
そして、ターナーは光の描き方が非常に心地よいです。


全体通しての感想。

やはりというか、印象に残るのはターナーの先駆性です。
廃墟を描いた18世紀末の崇高な雰囲気の作品など、
その後のフリードリヒのようなドイツロマン派の作品のよう。
難破船や荒波を描いた絵は、
ジェリコーやドラクロワなどのフランスロマン派の作品のよう。
落ち着いたのんびりした風景は、
その後のコローなどのフランスバルビゾン派なども思い出します。
そして後期作品の光の表現の仕方や、形態が曖昧模糊とした風景画は、
その後のモネなどの印象派に近いものを感じます。

さらに無理やり考えると・・・。
この展覧会では習作もたくさん展示されています。
「三つの海景」と題された習作、縦に並んだ三つの風景、
上下に分割された海と空の四角の繰り返しが、
なんだかマーク・ロスコの作品のように見えてきます。
晩年のターナーの形態が不明確な作品は、
「ラッパ銃で絵具を飛散させたような作品」であると揶揄されたとのことですが、
本当にこの通りやったのなら、ジャクソン・ポロックの世界です(笑)。
・・・などと無理やり考えてしまうくらい、表現の多様性が面白いです。

一方で、やはりベースには古典的な描き方があるように見えます。
会場のキャプションによると、クロード・ロランなどの影響が大きいのだとか。
ターナーは一部歴史画なども描いていますが、
このあたりはニコラ・プーサンの影響下にあるとのことです。
イタリアで描かれた作品
「ヴァチカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って
回廊装飾の絵を準備するラファエロ」」(長いタイトル・・・)には
ラファエロも登場し、「小椅子の聖母」の絵画が中心に見えています。
このあたりも、先人ラファエロを思う気持ちがあるのだと思います。

ターナーは先駆的な画家であったと同時に、
古典的な画家であったという見方もできそうです。
思うに、画家に対する後世からの評価というのは、後世の批評する側が、
批評対象の画家の中に、自分の見たいものを見てしまう、
ということがありそうです。
ターナーは、先駆性と古典性のどちらもを兼ね備えており、
どちらを評価するかはきっと人それぞれ、ということなのだと思います。
つまり、ターナーはそれだけ幅の広い画家である、と言えそうです。

その他、ターナーの良さは上にも少し書きましたがやはり光の描き方の印象深さ、
「レグルス」「平和-水葬」この辺の光の描写が素敵ですね。
キャプションによると、ターナーはクリームイエローが好きだったとか。
そう言われてみると、確かに黄色が印象的に見えてきます。


その他何点か。

「スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」
1808年、ナポレオン戦争を描いた作品です。
1808年というと、同じくナポレオン戦争を描いたゴヤの作品
「1808年5月3日」を思い出します。
しかし、ターナーの作品はゴヤのような陰惨さはなく、
イギリスの勝利を描いています。
ゴヤはスペインの画家です。
ナポレオン(仏軍)の攻撃に対し、
攻め入られた国(スペイン)と守り通した国(イギリス)の差異を感じます。
ゴヤはターナーより少し世代が上の作家ですが、ゴヤもターナーと同じく、
先駆性と古典性を兼ね備えた、歴史上稀有な画家です。
あれこれと2人の差なども考えたりするのも面白いです。

「チャイルド・ハロルドの巡礼-イタリア」
これはベルリオーズの音楽「イタリアのハロルド」のあのハロルドなのでしょうか?
後で調べてみると、どちらもイギリスの詩人バイロンの作品が
元になっているのだとか。
のんびりした風景は「イタリアのハロルド」2楽章のイメージです。
鑑賞時に2楽章が脳内を流れます。
中央にある特徴的な形の木も印象的です。


ということで楽しく鑑賞しました。

雪が降る前に帰らんとあかんな・・・などと言いつつ、
三宮駅前商店街のジュンク堂とナガサワ文具センターで
ダラダラと過ごします(笑)。

この日は幸いにも雪は降らず、雪はこの翌日、日曜日にパラパラと降りました。
・・・土曜日に行っておいてよかった。(寒いのは苦手なのです・・・笑)