歌劇「魔笛」 (プラハ国立歌劇場) | れぽれろのブログ

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まずは「魔笛」に関して、思いつくままにあれこれと書きます。

「魔笛」はモーツァルト最晩年のオペラです。
神官ザラストロと夜の女王の対立に、王子タミーノと王女パミーナの
恋愛が絡み合い、さらに鳥刺し男パパゲーノが騒動に巻き込まれる・・・
といったファンタジックなオペラ。
1791年、モーツァルトの死の年に作曲されました。

自分はモーツァルト作曲、ロレンツォ・ダ・ポンテ脚本の
「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」の、
いわゆるダ・ポンテ三部作が好きです。
音楽・脚本などなど、総合的に考えると、
ダ・ポンテ三部作はすごく魅力的なオペラ。
しかし、モーツァルト最晩年の「魔笛」は、これまた「魔笛」ならではの
魅力がある、楽しい作品となっています。

ダ・ポンテ三部作がイタリア語のオペラ・ブッファであるのに対し、
「魔笛」はドイツ語のジングシュピール(歌芝居)、大衆的なお芝居です。
ダ・ポンテの脚本は、人間とくに男女の機微の綾を
アイロニカルに描いたストーリーが魅力的です。
「フィガロの結婚」は、4組のカップルの愛憎劇。
「ドン・ジョヴァンニ」は、貞操と誘惑の間を揺れ動く3人の女の子の
心の綾が主題の中心。
「コジ・ファン・トゥッテ」は、2組のカップルのスワッピングのお話です。
「魔笛」はそうではなく、善男善女4人、2組のカップルが幸せになるお話で、
ダ・ポンテ三部作のようなアイロニックな脚本はありません。

「フィガロの結婚」も「ドン・ジョヴァンニ」も「コジ・ファン・トゥッテ」も、
登場人物には微妙な人間関係と愛と性に関わる試練が待ち受けています。
しかし「魔笛」の場合は・・・?
「魔笛」にも試練はあります。
しかも、「沈黙の行」とか「火の試練」とか「水の試練」とか、
何やら大層な試練です。
しかし笛とか鈴とかの魔法アイテム(しかもこのアイテムは貰ったものです)で
切りぬけるだけ。
パパゲーノに至っては、何もしてません(笑)。
何もしてませんが、何だかよく分らんけど幸せになりました、という感じ(笑)。
いかにも大衆的なお芝居といった感じですね。

「魔笛」をフランス革命(1789年、「魔笛」の2年前です)と
結び付ける考え方もあるようです。
夜の女王=貴族の象徴、ザラストロ=革命勢力の象徴、だとか。
タミーノもパミーナも王族ですが、最後は革命側についてハッピーエンド。
魔笛と魔法の鈴は、夜の女王(貴族側)からもらったアイテムです。
貴族から貰ったアイテムを革命勢力が使用して試練を切り抜ける・・・。
そう考えると、何やらアイロニカルな気もしてきます。

「魔笛」はお話として破綻しているという人もいますが、どうでしょうか?
お芝居としてのプロットにそんなに違和感はないですし、
荒唐無稽でもないように思います。
「魔笛」が荒唐無稽なら、もっと無茶なオペラは他にもたくさんありそうです。

しかし、「魔笛」においては、(さんざん書いておいて言うのも何ですが)
実は上記のような脚本云々はどうでもよく(笑)、とにかく音楽がいいです。
「魔笛」はいろんな音楽の要素が混ざっています。
タミーノやザラストロの何とも真面目な音楽。
夜の女王の激情的な歌唱。
パミーナのロマンティックな歌唱。
パパゲーノ&パパゲーナのコミカルな音楽。
三人の侍女の楽しい重唱。
三人の童子の神々しい響きのする重唱。
個人的に好きなのは、とくにパパゲーノ&パパゲーナ、
そして三人の侍女・三人の童子です。
コミカルさと神聖さが不思議に同居するのは、
晩年のモーツァルトの音楽の一つの魅力です。
ピアノ協奏曲27番、ピアノソナタ16番(K570)、
弦楽四重奏曲22番、クラリネット協奏曲・・・。
こういった音楽と共通した雰囲気を感じます。
そして「魔笛」の魅力は、このあたりにあると個人的に思います。
もちろん、夜の女王の独唱なども楽しくて好きなのですが・・・。


・・・いつものごとく、無駄な前置きが長くなりましたが・・・。

27日の日曜日、プラハ国立歌劇場の「魔笛」を見に
神戸文化ホールに行ってきました。
今年1月のお正月早々に、やはり神戸文化ホールで
「フィガロの結婚」を鑑賞しました。
このときはプラハ国立劇場の舞台でした。
プラハ国立劇場とプラハ国立歌劇場、同じ劇場でいいのでしょうか?
それとも違うのかな・・・?

以下、簡単にこの日の覚え書き。

「魔笛」は一応脚本ではエジプトが舞台のようです。
そのせいなのか、1幕フィナーレで笛の音に乗ってやってくる動物たちは、
何だかエジプトの壁画から出てきたような感じの動物の被り物をしていました。
よく分りませんが、アヌビスとかホルスとか、そんな感じです。
舞台上には巨大な右手と女性の頭部がありますが、
こちらは何だかギリシャ彫刻みたいです。
そして、三人の侍女やパミーナは、普通の西洋のドレスです。
ザラストロはローマ法王が着るような感じの服をきていました。
何だか中東~ヨーロッパのいろんな要素が混じり合う舞台(笑)。
この分裂具合、上記に書いたような「魔笛」の音楽の多様性と
マッチしていて、これはこれで楽しい感じです。

音楽。
いつも思うことですしし、モーツァルトの記事のたびにいつも書いてることですが、
モーツァルトの舞台は、誰が何をやろうが、モーツァルトの音楽がよい。
とにかく音楽がいいですね。
歌唱はパミーナ、ザラストロ、パパゲーノ役の人が気に入りました。
パミーナはやや装飾的で、音を極端に伸ばしたりする少しクセのある歌唱、
オケもパミーナに合わせて演奏しています。いい感じです。
1幕のパパゲーノとパミーナの重唱、いい感じです。
三人の童子も綺麗な重唱で、神秘的な感じがよく出ています。いい感じです。
2幕の三人の童子とパミーナの4重唱、いい感じです。
そしてやっぱりこのオペラのクライマックスは、
2幕終盤、パパゲーノ&パパゲーナの「パパパ二重唱」です。
ここの音楽は、どうしたって泣けます。泣き笑いの音楽です。いい感じです。
この2重唱はパパゲーノ&パパゲーナの子供を暗示させる音楽ですが、
この舞台では、ほんとに子供がたくさんやってきました(笑)。

今回は神戸文化ホールで鑑賞しました。
2幕のパパゲーノがワインを飲むシーン、
なんとパパゲーノが「灘の酒」を飲んでます。
ご当地サービスでしょうか・・・笑。
その他、日本食を食べたいとか言って
「タコヤキ!」などといってます(笑)。
しかし・・・えーっと、たこ焼きは隣の府です(笑)。
今回、プラハ国立歌劇場は日本各地を回っているようですが、
このあたりは他府県だと違う演出になっているのでしょうか・・・?
2幕終盤のパパゲーノが3つ数えるシーン、
ここも日本語で「イチ、ニイ、ニイテンゴ、サン」などと言ってます(笑)。


ということで、楽しく鑑賞しました。
オペラはいいなあ。
自分は「魔笛」の舞台は今回で3度目ですが、何度見ても素敵ですね。