読書記録 -2013年10月- | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

最近読んで面白かった本についてのメモ。
例によって好き勝手な覚え書きです。


・シュルレアリスムとは何か/巖谷國士 (ちくま学芸文庫)

フランス文学研究者・批評家である著者の3回の講演をまとめたものです。
章立ては大きく3つに分れ、それぞれテーマはシュルレアリスム、
メルヘン、ユートピアとなっています。
講演の文字起こしですので、話がそれたり拡散したりしますが、
それも含めて面白いです。

表題がシュルレアリスムですので、メインはやはり1つめの章。
この本では、シュルレアリスムの特徴として、オートマティムとデペイズマンが
重視されています。
書く内容を規定せずに、無意識に任せてスピーディに言葉を紡いでいくのが
オートマティスム(自動書記)。
本来あるべき場所から別の場所にものやイメージを移すと、
そこに驚異が生まれるというのがデペイズマン。
これらの例として、アンドレ・ブルトンの自動書記や、
マックス・エルンストのコラージュ「百頭女」などが取り上げられています。
自分は美術が好きなので、絵画に引き付けると、
オートマティスムといえばジョアン・ミロなど有名ですね。
デペイズマンはエルンストもそうですが、
この手法で有名なのは何と言ってもマグリットです。
現在でもこれらの手法で制作される作家さんは多いですね。

ちなみに自分は、シュルレアリスムというのは近代主義に対する
アンチだと理解しています。
世界の中に人間がいて、人間個々人は自己の意思・感情を持っており、
個々人が主知主義的・作家主義的に作品を制作するというのが近代的な考え方。
しかし実際は個々人が作品を完全に主知主義的に制御することは不可能で、
作品は常に偶然や無意識に左右されます。
で、むしろこの偶然や無意識を拡張した方が、
人間個々人を越えた「世界」を表現することができるのではないか。
一作家の「私の主張」なんてものよりも、「世界の驚き」の方が
超越的で面白いのではないか。
シュルレアリスムをざっくりとこんな風に理解していましたが、
この本を読んでおよそ間違ってないなと(勝手に)理解しました。

この他、例えば楽器の演奏などはほぼオートマティスムなのではないか、
日本の水墨画などの「天才的な筆さばき」もオートマティスムと
無関係ではないのではないか、など、あれこれと考えてしまいます。

中盤以降はメルヘンとユートピアに関する考察に移って行きます。
とくに現代日本はある種のユートピアの完成形であるとして、
著者により批判的に捉えられています。
この本の元になった講演は1993~1994年、ほぼ20年前です。
しかし約20年経った現在は、かつてあった(ように見えた)ユートピア的社会は
既になくなっているのではないかという気になってきます。


・田園の憂鬱/佐藤春夫 (新潮文庫)

今年はじめ、佐藤春夫の「西班牙犬の家」という短篇作品を読みました。
これが幻想的で可愛らしい作品で気に入ったので、他の作品も読んでみたくなり、
手に取って見たのがこの「田園の憂鬱」です。
こちらの「田園の憂鬱」、幻想的な雰囲気もありますが、
幻想といううよりやや神経症的な感じ、病的な感じが強いです。

田舎の一軒家に引っ越してきた夫婦。
植物が生い茂る家、田園の自然、周りの住民、
気候(なぜか雨がダラダラと降り続ける)、飼い犬の行動などの一つ一つに対し、
主人公は神経症的な意味を見出してしまい、心をむしばまれて行く・・・・。
心を病んだ主人公に、やがて幻覚や幻聴が襲いかかります。
だんだん狂気に陥って行く・・・。

自分は幻覚や幻聴など経験したことはないのですが、
神経症というのはこのように発生して来るのだということが客観的に分かる、
すごく面白い描写になっています。
主人公の精神状態(おそらくは作者自身の経験)を、
このように文章化していく能力と言うのはすごいです。
驚くべき作品です。作家はすごいなあ。
なお、現在ならこれは鬱病ということで、
おそらく向精神薬で改善する状態なのだと思います。


・風土/和辻哲郎 (岩波文庫)

日本に観光に来る欧米人は年中Tシャツと短パンでウロウロしているのはなぜか。
欧米人は日本を熱帯くらいに思ってるのではないか。
欧米人が仕事で日本に滞在する場合、「熱帯手当」が付く?
こんな話をしていて思い出したのがこの本です。(どんな流れや・・・)

この本は1931年(昭和6年、満州事変の年です)に刊行された本、
世界の各土地の風土と文化についての考察がまとめられた本、
ということになります。
インドより東のアジア地域はモンスーンの湿潤地域、
自然の猛威と恵みが同居する地域で、文化は受動的。
西アジアや北アフリカ地域は沙漠の乾燥地域、
欠乏が支配的で、文化は戦闘的。
ヨーロッパはモンスーンと砂漠の中間といえる牧場地域、
穏やかな自然で程よい温暖と寒冷が同居し、文化は思索的。
こういった特徴を軸に、それぞれの地域の風土と文明の関連が叙述されます。
かなり面白いです。
文化の特質を人種や民族ではなく風土に見るというのは、
DNAの解析技術が発達して全人類の人種的・遺伝子的差異がほぼないと
いうことが分かった今から見ると、非常に現代的な考え方だと思います。
そして読み進めるにつれ、牧場文明のヨーロッパから見れば、
モンスーンの湿潤はやはり熱帯なのだという気がしてきます(笑)。

この本は日本についても分析しており、「家」を重視する文化や天皇制が
特徴であるとして分析されていますが、この日本の家・天皇と風土の関係が
今一つ論証的ではないように思います。
そして、家と天皇が日本の特徴だというのは、昭和6年の時点での日本の
ある種の階級の人たちにとっての認識で、現在から見ると普遍性は
ないように思います。
しかしこの辺りを差し置いても、グローバル化以降、近代化は世界中の
どの地域においても起こりうることであることが明確になった現在、
風土を軸に文化を見るという視点自体は現代的なので、
現在でも広範に読まれているのも納得的です。


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おまけ

最近、アメーバなうでの会話の流れから、紅茶風味の豆乳を購入しました。
豆乳飲料はだいたい200ml入り、程よく飲み切れるサイズで売られていますが、
この紅茶味の豆乳、自分の近所ではなぜか1リットル入りしか売っておらず、
なんともサイズが大きい・・・。
一人ですぐに飲みきれるサイズではないので、飲むのに時間がかかりました。

文庫本と比較すると、以下のようなサイズになります。

紅茶(サイズ比較)


大きい・・・笑。
一人暮らしの家に本来あるべきサイズではありません。
この豆乳の異様な大きさこそがデペイズマン。
シュルレアリスムとは何か。
・・・この写真が一つの答えになっています・・・笑。