シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル (in 宝塚) | れぽれろのブログ

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20日の日曜日、シプリアン・カツァリスの演奏会に行ってきました。
天気は前日からずっと雨、この日も朝からじっとりと雨降り、
そして空気がひんやりします。寒い・・・。
場所は宝塚のベガホールというところ。
初めてのホールです。
というか、実は自分は宝塚自体初めてです(たぶん)。
雨の中、阪急宝塚線(この電車もたぶん初めて)に乗って30分、
清荒神という駅で下車。
駅を降りてすぐ前にホールが見えています。
初めてですが、迷わずにすみました。

ベガホールは小さめのホールでした。
自分の席は前から4番目の左より、かなり舞台の近くです。

実は自分はカツァの演奏会に行くのは今年2回目です。
1月にベートーヴェンのピアノ協奏曲5番「皇帝」のピアノ独奏編曲版の
プログラムを西宮まで聴きに行きました。
そして2回目の今回は前半がショパン、そして後半はまたしても「皇帝」です。
前回聴いた曲をもう一度聴くことができる・・・。
前回より変化があるのかな・・・?
そのあたりも気にしつつ、演奏会に挑みます。

カツァは昨年、腱鞘炎が酷くなり演奏会をキャンセルしました。
そしてその後、脳梗塞で入院、さらに今年に入って心筋梗塞で倒れたとの話で、
何だか大変なこと続きで体調が心配でしたが、
そんなことは忘れてしまうほど、楽しい演奏を聴かせてくれました。


ということで、以下演奏の覚え書き。

カツァはだいたい本プログラムの前に即興演奏をやります。
この日もやってくれました。
色々な曲をちょこちょこ抜粋しつつ、低音をゴロゴロ鳴らしたり
高音をキラキラ鳴らしたりと、やりたい放題。
この日は即興演奏の一番最後にラフマニノフの協奏曲3番の3楽章の
引用がありました。
おおっ、好きな曲なので何やら嬉しい。

前半はショパンのプログラムです。
ショパンのときはいつも休憩や拍手をはさまずに、カツァはぶっ通しで
最初から最後まで引き続けるのですが、この日も同じ趣向でした。
計6曲・・・の予定がなぜか1曲追加され、7曲を連続して演奏。

まずは2曲のワルツ。
15番と17番という遺作ワルツ組み合わせ・・・の予定でしたが、
曲目変更がありました。
17番の代わりに19番を弾きはじめるカツァ。
遺作ワルツはあまりきっちり聴いてませんでしたが、
綺麗なメロディで(とくに15番)いい曲ですね。
そして相変わらず音が綺麗です。

2曲のワルツを軽くこなして、次はお得意の(?)遺作ノクターンです。
カツァはノクターンはだいたい2番(op.9-2)か20番(遺作)のどちらかを弾きます。
そして、この遺作ノクターンの最後、いつも余韻をたっぷり残す
終わらせ方をします。(過去には拍手まで10数秒の間が開いたこともあった。)
この日も余韻たっぷりで心地よいです。

次はポロネーズ4番(op.40-2)・・・のはずなのですが、
なんと3番(op.40-1)を弾き出します。
まさかの軍隊ポロネーズ。
前回(1月)に聴いた曲をもう一度。おお、いい感じ。
4番と3番が入れ替わったのかと思いましたが、4番もちゃんと弾いてくれました。
4番は左手が楽しく動く曲、左手をガンガン鳴らしてます。
この辺りから興が乗ってきたのか、キッと右上を見るいつもの表情(笑)や
手のオーバーアクション(笑)も増えてきます。

続いて幻想即興曲。
コロコロとハイスピードで指が動く。
後半部分、左手から謎のメロディ(笑)が聞こえてきます。
楽しいですねー。

最後はピアノ協奏曲1番2楽章の独奏バージョン。
カツァは協奏曲は2番をよく弾きますが、1番の独奏バージョンは初めて聴きます。
しかもこの曲はショパン自身の編曲とのこと。
この2楽章は個人的にはゆったりとした感じが好きなのですが、
カツァは少し急ぎ気味に弾いてる感じがします。
ポロネーズ~幻想即興曲の流れでテンションが上がってるのでしょうか。
それでも部分によってはフレーズをじっくりと弱音で聴かせる部分もあり、
非常にいい感じです。
この曲のじっくり歌う部分で、きました・・・涙腺弛緩スイッチが入ります。
感激しながらうっとりと鑑賞。
ちなみにこの曲、協奏曲版はバックでのんびりと流れるファゴットの
シンプルな対旋律がすごく好きなので、独奏版でもこのファゴットの旋律が
出てくるといいなと思っていましたが、
残念ながらこのメロディは登場ならず・・・。


休憩をはさみ後半、いよいよ「皇帝」です。

今回はオケの部分とピアノ部分をどのように弾き分けているのか、
少し分析的に聴いてみようと思い、実はこの日に向けて少し皇帝の「予習」を
していったのですが、
いざカツァの演奏が始まると分析的な聴き方は
何だかどうでもよくなり(笑)、ひたすら音に陶酔してしまいました。
前回西宮でこの曲を聴いたときはかなりイケイケな演奏で、
ちょっと音が抜け気味に感じがしましたが、
今回はかなり落ち着いた演奏と言うか、コントローラブルな感じがしました。
気のせいかもしれませんし確定的なことは言えませんが、
前回より音が少なくなっている気がします。
コントローラブルに感じたのは、演奏に慣れてきただけではなく
編曲がこなれてきたということも、ひょっとしたらあるのかもしれません。

カツァはとにかく音色を使い分ける人で、この皇帝も音色の変化がやたらと
楽しいのですが、とくに個人的に好きなのが、弱音でテンポダウンして
美音をじっくりと聴かせる部分。
1楽章提示部の後半や2楽章の一部など、急に美しく歌い出す部分があります。
こういう部分のカツァの音は何だかやたらと綺麗、
強音のテンションもいいですが、この弱音が本当にいい感じで、好きなのです。

ある現代美術作家の言葉、「絵画は何でもできる」という言葉を
聴いたことがあります。
現在、視覚表現は、彫刻・建築・写真・映像・インスタレーションなど、
様々な表現方法がありますが、それらのエッセンスは、
すべて絵画という手段で表現可能、ということなのだそうです。
カツァの演奏を聴いて思うのは「ピアノは何でもできる」のではないかということ。
ピアノという楽器1つで、音楽のエッセンスはすべて表現できる・・・。
カツァの演奏を聴くと、本当にこういう気持ちになってきます。
すごいなあ。


ちなみに、この日の自分の席は前から4番目の左より、
かなり舞台の近くですので、カツァの後頭部と手がよく見えます。
鍵盤の上を動く手の動きが心地よい・・・。
手のオーバーアクションも間近で鑑賞できます(笑)。
左手で指揮マネする、両手をピアノの前で開いて演奏を止める、
両手を水平にしてさっと横に動かし音をかき消すようなしぐさをする、
足でリズムをとる(というか床を蹴る 笑)、
いろんな動作を間近で見れて、これがまたむやみに楽しかったりします。


ということで、この日も楽しく鑑賞することができました。
CDも買いましたし、さらに、この日はアメーバ内でお知り合いになれた
カツァファンの方にもお会いし、お話することができました。
気持ちホクホク。楽しい1日となりました。


さて、次回のピアノ演奏会は来月末。
カツァリスとは正反対の(?)ピアニスト、ツィメルマンの演奏会に行く予定です。