ワルキューレ (びわ湖ホール プロデュースオペラ) | れぽれろのブログ

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21日の土曜日、滋賀県のびわ湖ホールにオペラを見に行きました。
この前の週に少し体調を崩したので、週末は家で過ごす・・・
予定だったのですが、よくスケジュールを確認すると21日のチケットを取っており
(忘れかけてた)、急遽鑑賞に行ってきました。
睡眠と水分と食事に注意し、万全の体制でGO!

「ワルキューレ」はワーグナーが作曲したオペラ。
19世紀後半、いわゆる後期ロマン派の時代です。
「ワルキューレ」はワーグナーの連作オペラ「ニーベルングの指輪」4部作の
第2作目に当たります。
お話の舞台は神々と人間が共存する世界。
双子の兄妹だが、突発的に出会い惹かれあうジークムントとジークリンデ。
ジークリンデの夫フンディングとジークムントの争いに、
神々の長ヴォータンの壮大な計略とヴォータンの妻フリッカの諍いが絡み、
さらに戦いの乙女ワルキューレの一人であるブリュンヒルデの
突発的な翻心と決意、そしてそれに対するヴォータンの怒りが絡み合う。
主要登場人物(ジークムント、ジークリンデ、ブリュンヒルデ、
その他8人のワルキューレ)が全員ヴォータンの子供であるという、
壮大な不倫家族オペラでもあります(笑)。

音楽は終始心地よく、次々に現れる動機(ライトモティーフ)が絡まり合い、
ドラマと登場人物内面の心理を描写します。
19世紀後半以降の西洋音楽の性格を変えた半音階進行と無限旋律。
ワーグナー特有の陶酔的でゆったりとした、そして余りにも美しい音楽が続く・・・。
上演時間約4時間、休憩を含めると約5時間の間、終始陶酔的で
心地よい音楽を体感、この日も楽しく鑑賞することができました。

指揮は沼尻竜典さん。
演奏は日本センチュリー交響楽団と神奈川フィルハーモニー管弦楽団との
合同演奏とのこと。
大阪センチュリーは日本センチュリー変わってたんですね・・・。
大阪府民の癖に全然知りませんでした。
ジークムント役の福井敬さんは、去年の西宮の「トスカ」、
いずみホールでの「大地の歌」に続き、またお会いすることになりました。
この方はいつもよく通る声ですね。

演出は独特でした。
頻繁にカーテンが下りて舞台設定が変わります。
どんどん背景が変わって行く贅沢仕様。
合間合間で「小タイトル」とも言える字幕が表示され、
物語の概要と流れを掴むことのできる演出になっています。
要所要所で子供が登場するシーンが出てきます。
各登場人物の幼いころの回想シーンのような扱いで子供が登場するケースが
多いですが、中には子供が現在の登場人物と直接触れ合うなど、
現実と回想と登場人物の内面が交錯した表現となっている場面もあります。

実は自分は「ワルキューレ」の舞台を通して鑑賞したことがありません。
あらすじは覚えてますし、CDは持っていて通勤時など車の中で(陶酔的に)
聴いています。
舞台映像は昔一度だけNHKで放送されているのを見たことがありますが、
このときはノーカットではなく抜粋でした。
なので、字幕付きでストーリーをきっちり追いながら鑑賞するのは
実は初めて、感激もひとしおです。

このオペラ、1幕と3幕は時間にして1時間強、
物語は推進力を以て進み、聴きどころも多いです。
真ん中の2幕は1時間半以上かかり、モノローグが大部分を占めるため、
やや冗長ですが、物語的には2幕が重要であるように思います。
2幕では、登場人物2人の2つの心理的転回が描かれます。
2幕前半、ヴォータンの「ニーベルングの指輪」全体を貫く計画が転換されます。
2幕後半では、ブリュンヒルデが翻心し、父ヴォータンの指示に背き、
ジークムントを支援する行動を取るようになります。
この2人の心変わりの差異が面白い。
ヴォータンの計画変更は、妻フリッカによる非難が原因。
ジークムントとジークリンデの不純(不倫かつ近親相姦)さが道義的に非難される。
神様ともあろうものが、非常に世俗的な理由(しかも奥さんに詰られる・・・笑)で
行為を変えるというのが、冷静に見ると何やらマヌケな感じです(笑)。
一方でブリュンヒルデの翻心は、目前のジークムントとジークリンデの
ある種の強度溢れる関係性に心を動かされ、我が身を捨てても
2人を助けようとするという行為です。
後者の方が何やら感動的ですね。

しかしヴォータンも3幕では、ブリュンヒルデの佇まいに心を動かされ、
罰を緩和するという措置を取ります。
そして、それが後々神々の意思から自由な自立的人間
ジークフリートの誕生へとつながるというアイロニー・・・。
ヴォータンは神々の長のくせに全然全能でなく、世俗的道義心や
我が子の佇まいに突き動かされ心を変えるという人間臭さ。
ユダヤ-キリスト教的一神教の神と違い、
古ドイツ(北欧起源?)の多神教の神々は人間的で面白いですね。

オペラの解説書(ブックレット)解説によると、「ニーベルングの指輪」の脚本は
1848年(欧州革命)以降の歴史とも無関係ではないのだそうです。
神々は王権・君主制国家、ヴォータンは18世紀的啓蒙専制君主のアレゴリー。
王権・君主国家は終焉(=黄昏)を迎えるであろう、ということの寓意なのだとか。
面白い解説です。
そして現実に君主制ドイツが終焉を迎えるのは第1次世界大戦後、
その後ワイマール体制を経て登場したのがナチスで、
かの総統がことさらワーグナーの称揚したというのも、
現在から見ると何やらアイロニカルです。
歴史は面白いですね。

音楽は、1幕後半のジークムントとジークリンデの愛のシーンが好きです。
2幕後半、ジークムントとジークリンデにブリュンヒルデが絡む部分も良いですね。
3幕は全体的に楽しいですが、やはり前半の有名な部分(ワルキューレの騎行)が
かっこいい。
ホヨトホー♪と歌いそうになりますね。
そして舞台を見て気付くこと、8人のワルキューレ、ソプラノが8人も揃うと、
何だか舞台がやたらとやかましいです(笑)。

ということでオペラは面白い。
この日も楽しく鑑賞することができました。


さて、今年は奮発して(?)10月に3つも演奏会のチケットをとってしまいました。
来月は(楽しい意味で)忙しくなりそうです。