貴婦人と一角獣展 | れぽれろのブログ

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15日の日曜日、台風上陸直前の大雨の中、国立国際美術館に行ってきました。
目的は「貴婦人と一角獣」と題された展覧会。
フランス国立クリュニー中世美術館の所蔵品が展示されている展覧会です。
この日は台風だからか、それほど混雑もしていませんでした。

自分は美術史が好きなのですが、西洋美術史の中で比較的よく知っているのは、
ルネサンス以降の絵画史です。
フランスということで言えば、知っているのは17世紀のフランス古典派
(プーサンやル・ナン兄弟など)以降で、フランス古典派以前に
どのような美術作品が制作されていたのかは、あまり詳しくありません。
実は中世美術についてもほとんど知らなかったので、
すごく新鮮で、楽しく鑑賞することができました。


今回の展示のメインは、西暦1500年頃に制作されたと言われる
「貴婦人と一角獣」と題された6点の巨大なタピスリーです。
タピスリーなので、絹と羊毛で織り上げられた工芸品なのですが、
絵画として鑑賞することもできます。
どの作品も、高さ・幅が3メートルから4メートルを超える巨大なもの。
「触角」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」そして「我が唯一の望み」と題された、
6点の連作となっています。
描かれているのは、表題のとおり貴婦人と一角獣、なのですが、
これ以外にも、貴婦人の侍女や獅子、その他動物(兎、猿、犬、鳥、狐など)が
描かれ、合わせて木々や植物なども描かれており、
非常に情報量の多い画面になっています。

そして、各タイトルに合致した物や動作が描かれています。
「触角」・・・一角獣の角に触れる貴婦人
「味覚」・・・鳥に砂糖を与える貴婦人
「嗅覚」・・・花の香りを楽しむ貴婦人
「聴覚」・・・携帯型パイプオルガンを演奏する貴婦人
      (このオルガンのデザインがなんとなく可愛い)
「視覚」・・・一角獣の姿を鏡に写す貴婦人
「我が唯一の望み」・・・侍女が持つ宝箱に触れる貴婦人
その他、触角には柊の木(棘が痛そう)が描かれ、
嗅覚には楢の木(香りが強い)が描かれるなど、
細かい動植物にも主題と関連した意味づけがありそうです。

絵は総じて平面的です。
遠近の概念が非常に薄い感じがします。
動植物は立体的に描かれているわけではなく、
画面上に満遍なく平面的に併置されています。
そして、貴婦人や侍女の服装や植物など、
非常に装飾的で細かい描き込みがなされ、綺麗です。
どの絵も貴婦人が大きく、侍女が妙に小さい、
客観的に見ると身体のバランスに違和感があります。
獅子や一角獣も、絵によってはバランスが不安定なものもあります。

西洋美術といえば、遠近法を駆使して立体的で「リアルな」絵を追求した
イメージがありますが、実はそれはルネサンスやフランス古典派以降の描き方。
中世美術は平面的で装飾的・・・、このような感じを受けました。
この作品は1500年ごろなので、ダ・ヴィンチやミケランジェロやラファエロなど、
盛期イタリアルネサンスの画家は、既に隣国では活躍していた時代です。
同時期のフランスでは、まだこのような中世的な作品、近代美術史的な視点で
見た場合、後進的といえる作品が描かれていたということなのでしょうか。
(このあたりは、この作品が工芸作品だからなのかもしれませんが。)

思い出すのは日本美術です。
日本の近世までの美術は、平面的で装飾的で空間併置的。
このタピスリーは、まさに日本美術の特質と合致している気がします。
西洋美術はこのような描き方から、後に遠近重視・立体・リアルの方向に
進んで行きます。
日本美術はその後17世紀以降も、琳派や浮世絵などのように、
平面性・装飾性を維持したまま、画面配置とバランスを
極めて洗練された形にまで追求していったという歴史があります。
そして西洋美術も、印象派以降は遠近・リアルよりも別な方向にシフトし、
現在に至ります。
思うに、我々がなんとなく「うまい絵」だと感じる、リアルで遠近重視的な
16~19世紀の西洋絵画が、実は歴史的・地理的にはかなり特殊で、
かつ異様な表現方法なのではないか・・・。
装飾性やデフォルメの要素が強く、空間併置的な作品の方が、
歴史上も地理上においても、普遍的なのかも・・・。
当たり前のことかもしれませんが、このようなことを考えながら、
装飾的なタピスリー作品を楽しく鑑賞しました。


さて、会場にはこの6点のタピスリーを大画面の映像で比較鑑賞できる
スポットがありました。
6枚それぞれの作品の一部をズームアップし、貴婦人、侍女、一角獣、獅子、
その他動植物を、それぞれ並べた状態で、比較して鑑賞できる
映像となっていました。
この日は友達と一緒に行ったのですが、6枚を比較して並べた状態になると、
自然と「品評会」が始まります(笑)。
やれこの作品の貴婦人は美人だがこっちの作品のはあまり美人ではないだとか、
この作品の貴婦人は顔は不美人だが服装は意外とお洒落さんだとか、
侍女は揃って全員不細工だとか(←ひどい 笑)、
こっちの一角獣は可愛いがあっちのは首と頭がおかしいだとか、
この作品の一角獣は貴婦人のスカートを捲ろうとしいて下心丸出しだとか、
獅子は全体的に顔が怖くて可愛げがないだとか、
鳥や犬のデザインが可愛らしいのに比べて、兎の描き方が適当すぎるだとか、
拘束具を付けられた猿が描かれている作品の貴婦人はサディストだとか、
二人して言いたい放題・・・(笑)。
まあ、こういうお喋りもまた面白いものです。


会場ではこの他にも、別のタピスリー作品や、ガラス細工などの
中世工芸品なども展示されており、見ごたえのある展示となっています。
近代の美術作品に飽きた方など、改めて中世末期の作品に触れてみても
新たな発見があって面白いかもしれません。

・・・ということで、楽しく鑑賞できました。


常設展示では、国際美術館所蔵の彫刻作品が素材別に展示されていました。
そんな中、個人的に面白かったのが、貴志真生の「スクラップブック1」という作品。
同じ形の色々なカードが並べられており、そこには絵画や漫画など、
様々な情報がコラージュされています。
自分はこういう情報がダラダラと並ぶ作品をむやみに面白がる傾向があり、
情報と情報が重なり合って偶然的に生まれる意味合いの関連性などを
あれこれ考えながら鑑賞するのが好きです。
これ、初めて見る作品です。最近所蔵したのかな・・・?
この日は時間がなくてきっちり鑑賞できませんでしたが、この作品も含め、
常設展示はもう1度鑑賞してみたいです。


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おまけ

この日美術館を出た後、大雨降りしきる中、
エスニックファッションの雑貨屋さんに遊びに行きました。
1件はペルー系の雑貨屋さん、
もう1件はインド風やメキシコ風の雑貨が並ぶお店。
自分は身の回りの物については、割とシンプルなデザインを好むので、
こういう中南米・南アジア系のサイケデリックな(?)感じのデザインは
家にあると苦手なのですが、夥しい数のアイテムが並んでいる
こういう雑貨屋さんを見て回るのは、非常に楽しかったです。

中南米はカトリック布教地なのでマリア信仰が盛んなのか、
マリア様がデザインされたアイテムがたくさんああります。
しかしこのマリア様、ヨーロッパの図像とはまた異なり、
何だか色合いもサイケデリックです。
文化が伝搬されて、デザインや意味合いが変わって行く・・・。
こういうのを嫌う人もいますが、自分は面白くて好きです。

お香がたくさん売られています。
サンプルの袋に穴が開いていて、香りを確認することができます。
甘い香りから、御線香のような匂いから、芳香剤のような匂い(笑)まで、
様々な種類があって、鼻に楽しいです。
「セックス・オン・ザ・ビーチ」というお香もあります・・・どんな匂いやねん(笑)。
友達曰く、こういう香りのする植物などを寝室に捲き、
新婚さんの雰囲気を盛り上げるような風習のある国もあるのだそうです。
(そんなお友達は、ものすごく甘い香りのバニラのお香を買っておりました。)

この手の雑貨屋さんは、ヨーロピアンテイストのお嬢様的な(←?)
ショップに比べて、比較的お値段も手ごろな感じがします。
こういうこともあり、人気スポットとなっているのかもしれません。


ということで、この日も楽しい一日となりました。

・・・が、この日家に帰ってきて、シャワーを浴びてリラックスモードに入ったとたん、
急に気分が悪くなり、貧血かなと思ってお風呂を出て・・・
久しぶりに気を失いました。
体温を測ってみると、微熱があります。
ちょっと疲れているようです。最近無理し過ぎたのかな・・・。

・・・しばらくお休みはゆっくり過ごそうと思います。