ドイツの美術 (写真編 その2) | れぽれろのブログ

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ドイツの美術作品を並べてみようシリーズ。
前回は20世紀、おもに戦間期の写真家の作品を並べてみました。

写真は「真実を写す」と書きます。
しかし、必ずしも「ありのまま」が転写されるとは限らない。
・・・というより、現実と写真の間には、必ず乖離があるものです。

前回取り上げた写真家のうち、ザンダーやベッヒャー夫妻は、
できる限り主観を交えず、対象を客観的に捉えることを試みようとした
作家さんです。
レンガー=パッチュはこれとは逆に、対象を主観的に美しく捉えようとした方。
そして、ハートフィールドは写真を巧妙に加工した作品を残された方です。

これらの方々の撮影に対する理念を踏まえて(?)、
今回は1990年以降の作家さんの作品を並べてみようと思います。
意外とドイツの過去の作品との関連性が見えてきたりして、
面白いかもしれません・・・。


・渋谷交差点 東京/トーマス・シュトゥルート (1991)

トーマス・シュトゥルートはいわゆる「ベッヒャー派」と言われる作家のうちの一人。
主観を排した客観的な写真作品が多く、ベッヒャーのアプローチに近いです。
美術館で「名画を鑑賞する人たち」を撮影したシリーズなども、有名だと思います。

これはそんなシュトゥルートの、街の風景を写した写真のうちの一枚。
1991年、今から22年前の渋谷の風景です。
とくに何が被写体の中心ということもなく、街そのものをできるだけ客観的に
撮影しようとしているように見えます。
「ホーム・アローン」だとか「レナードの朝」だとか、時代を感じさせる映画の看板。
写っている人たちの服装・髪型も何やら昔懐かしい感じ。
この画像では小さくて見にくいですが、大判で見ると情報量が多く、
細部を観察するのが楽しい作品になっています。
自分は情報量が多いものを好む傾向があるので、
こういう写真は面白くて好きです。


・ルッツ、アレックス、スザンヌ、クリストフ、浜辺にて
  /ヴォルフガング・ティルマンス (1993)

浜辺にて

ティルマンスは様々な種類の写真を残されていますが、
若者の写真(ときに過激な写真)を、複数枚、壁に不規則に並べて展示する
シリーズが比較的有名なのではないかと思います。
その中から個人的に好きなものを1枚。
4人が浜辺に寝転び、お互いの体が渦状になって溶けていくような、
心地よい雰囲気の作品になっています。


・A14号線-ハーレ付近/ハンス=クリスティアン・シンク (1999)

A14号線-ハーレ付近

シンクの「ドイツ統一交通プロジェクト」からの一枚。
シンクは旧東ドイツの生まれ。
東西ドイツ統一後、東ドイツに新たに建設されたこのような建築物を、
たくさん撮影されています。
撮影された巨大な建築物たちは、何だか不思議な美しさを醸し出しています。
この道路の写真も、遠く霧のかなたに消えていくカーブが、
抽象的な造形美と言った感じに見えてきます。
前回取り上げたレンガー=パッチュの一部の作品なども思い出されます。
シンクは最近では311以降の東北地方の写真なども残されています。


・サンパウロ セー駅/アンドレアス・グルスキー (2002)

アンドレアス・グルスキーもトーマス・シュトゥルートと同じく、
いわゆる「ベッヒャー派」と呼ばれる写真家さん。
情報量の多い大判写真作品を残されている方です。
(というか、シュトゥルートよりずっと規模もインパクトも大きい。)
大画面、街や建造物の中に犇めく人や動物の写真。
人物はシュトゥルートよりもっと極端に微小化され、
世界の中に蠢く存在として写されています。
これまた細部を観察するのが楽しい作家さんです。
現在、東京の国立新美術館で特集展示が行われている様子。
この展示は来春には大阪の国立国際美術館にも巡回する予定ですので、
すごく楽しみです。

シュトゥルートもグルスキーも、ベッヒャーの影響下にある作家ですが、
ベッヒャーのようなタイポロジー(同タイプの複数の被写体を撮影し
並列的に展示する)とは異なり、対象は一点ずつ独立した写真になっています。
また、ドイツ国内の建造物を撮影するのでもなく、
撮影対象は世界の様々な国の風景であり、被写体も様々です。
90年代以降のグローバル化社会を反映したかのような作品となっており、
面白いです。


・ドラマー/ロレッタ・ルックス (2004)

ドラマー

玩具の太鼓を敲く女の子。
一見絵画作品のように見えますが、これは写真です。
しかし、写真はデジタル技術を用いて「絵画っぽく」加工されています。
ルックスの被写体は子供が多いですが、どの子も(加工されたことにより)
可愛いような不気味なような、非常に微妙で非現実的な感じに仕上がっています。
個人的に、この得も言われぬ微妙さ加減がすごく好きです。
ポートレートとは、現実とは、虚構とは、可愛さとは、不気味さとは・・・?
ルックスの作品を見ていると、いろんなことを考えてしまいます。

ルックスは元々絵画を学んだ方だったようですが、後に写真に転向したとのこと。
ベラスケスなどの絵画に影響を受けたと言われており、
確かに宮廷の王子様お姫様や道化師や矮人を描いたベラスケスの肖像作品に
雰囲気が似ている気もしてきます。
ルックスは個人的に好きな作家さんです。


以上、ドイツ写真を並べてみました。

次回は19世紀以前のドイツの絵画作品を並べてみようかな・・・
なんて考えています。