読書記録 -2013年7,8月- | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

読んだ本の感想を残していく・・・ということがこのブログの
目的の一つだったのですが、他の記事を書いてる方が楽しいということもあり、
最近はサボっております(笑)。
本の内容・要約を文章化して残すということは、意外と手間がかかるのです・・・。
しかし、面白かった本については、やはり考えたことなどを文章化しておきたい
気持ちもありますので、とりあえずこの夏に読んで面白かった本について、
ちょこちょこっと覚え書きだけでも残しておくことにします。


・バチカン近現代史/松本佐保 (中公新書)

今年4月、東京で「フランシス・ベーコン展」を鑑賞しました。
ベーコンは、四角い枠の中で絶叫するような教皇の姿をたくさん描いています。
このときの展示のキャプションによると、第2バチカン公会議以降、
教皇の作品は描かれなくなったのだとか。
・・・第2バチカン公会議ってなんだっけ・・・?
高校世界史において、教皇は基本的に中世史にしか登場しません。
近代以降、バチカンは何をしていたのか、自分はよく知りません。
こういった興味から、この本を読んでみました。

この本では、18世紀末(フランス革命の時代)から現在までの、
バチカンと教皇の歴史が描かれています。
様々なタイプの教皇が登場します。
本当に世間に背を向け、ベーコンの絵のように(?)内に籠っていた
ピウス9世のような教皇もいれば、
ヨハネ・パウロ2世のように積極的に世界に向かっていく教皇もいます。
そして、バチカンは(当たり前といえば当たり前ですが)ずっと保守の立場、
反フランス革命、反共和制、そして反ロシア革命、反共産主義、反ソ連です。
神より理性に重きを置くような国家とは、非常に相性が悪い。
しかし、この辺りも時代により変化していったようです。
現在では、必ずしも共和政は否定していないようですし、
他宗派(プロテスタント、東方正教)や他宗教にも寛容になりました。
しかし、反共産主義の立場は一貫しており、
現在でも中国とは国交がないそうです。
ちなみにバチカンは、君主国である(共和制ではない)日本とは、
相性がいいようです。


・政令指定都市/北村亘 (中公新書)

「政令指定都市」というタイトルの本なので、当然政令指定都市が歴史的に
どのように制定されて来たのか等が記載された本ということになりますが、
そもそも都市とはどのようなものなのかについての関心をベースに
読み進めても
面白い本でした。

この本で面白かったのは、大阪市の事例です。
大阪市は、周辺都市との都市間格差が顕著な都市です。
大阪市の周辺都市に住む都市民は、大阪市の恩恵を受けています。
周辺都市民は、昼間に大阪に仕事に行ったり、遊びに行ったりしています。
大阪市の地下鉄に乗り、大阪市の公共施設を利用する周辺都市民。
しかし、彼らが納税するのは大阪市ではなく、
自分が住む自治体に納税する形になります。
自分も大阪市の周辺都市に住んでおり、大阪市内の図書館には
よく行きますし、大阪市が運営している美術館も好きでよく行きます。

この本には詳細は書かれていませんが、大阪市内には釜ヶ崎(あいりん地区)
という、日雇労働者と路上生活者が集まる地区があります。
この地域も、単に大阪市としての都市問題であるというより、
明らかに近隣都市との都市間格差の問題であると思います。
これを大阪市のみの行財政サービスで解決しようとするのは、やはり問題です。
都市間格差というものは、もう少し大きな枠組みで解決する必要がある、
場合によっては、補完性原理に基づき、より広域な自治体への権限移譲が
必要なのではないか・・・。
この本によると、大阪都構想というのも、このような格差解消の手段の一つとして
捉えることができのだそうです。


・北一輝/渡辺京二 (ちくま学芸文庫)

「日本改造法案大綱」を著し、二二六事件で刑死した人、北一輝の評伝です。
佐渡に生まれた北一輝は、「国体論及び純正社会主義」を
弱冠23歳で発表します。
その後、中国に渡り、革命運動(辛亥革命)に身を投じることになります。
昭和に入ると、陸軍皇道派の青年将校たちと交流し、
「日本改造法案大綱」は彼らに大きな影響を与ることになります。
そして二二六事件の勃発。
北一輝は事件に積極的に関わったわけではないですが、
青年将校らに影響を与えたとして、死刑となります。

北一輝はいわゆる「天皇主義者」ではありません。
あくまで天皇を道具的にしか考えていない人です。
実は維新政府以降の大日本帝国政府の中枢も、
同じく天皇を道具的に考えています。
そして、天皇を掲げる皇道派青年将校も、おそらく同じだったのだと思います。
天皇は常に「維新」の象徴として利用されてきました。
明治維新然り、二二六事件然り。
だからこそ、戦後アメリカは天皇制を存続させたのだと思います。
アメリカも、天皇の権威を道具的に利用しました。
天皇制は現在でも、場合によっては道具的に有効利用できる
大きなリソースだと思います。
いわゆる左派の人こそ、北一輝を見直してみる必要があるように思います。

この本は北陸旅行中に読んだ本で、サンダーバードの中で読み、ホテルで読み、
立山の室堂まで持って行った(笑)本なのです。
なので、何やら旅行と記憶がリンクしてしまっています。
富山県から佐渡はそういえば近いな、などと思いながら読みました。


・真夏の死/三島由紀夫 (新潮文庫)

三島由紀夫の自薦短篇集です。
今年になってから、岩波文庫の「日本近代短篇小説選」シリーズを
読み続けており、このシリーズで面白かった作家について、
今年はあれこれ読んでいるところなのです。
この作業の中で感じていること。
やっぱり三島由紀夫や芥川龍之介など、名が通った作家はすごいです。
この三島由紀夫の短篇集、どの作品も面白いです。
「日本近代短篇小説選」に収録されていた横光利一の「機械」は
ものすごく面白い小説でしたが、横光利一の短篇集を買って読んでみると、
意外と「機械」以外は今一つ楽しくなかったりします。
その点、三島由紀夫はすごいです。

この短篇集に収録されている作品、どの作品にも、
物凄くしっかりとした物語構造があります。
物語のパターン・構築のパターンを考え、設計し、文章化していく。
どの作品も構造が面白いです。場合によっては実験的な構造もあります。
そして、その物語構造が、ものすごく美しい文章によって補完されて行く・・・。
このあたりが読んでいて心地よく、楽しいです。

エロティシズムと少女趣味が同居した雰囲気の作品
(おもにこの作品集の前半の作品)も良いですが、
どちらかといえば、作品集後半の作品の方が気に入りました。

「真夏の死」(表題作)
クラマックスを冒頭に置き、「ドラマのその後」が叙述される構造を持つ作品です。
面白い構造です。

「貴顕」
お金持ちの飄々とした人間が、だんだん体が弱り、財産がなくなるに従って、
次第に悪辣な人間になって行く・・・。
この作品、絵画がたくさん出てくるので、美術好きとしては楽しいです。

「雨のなかの噴水」
一番気に入った作品です。
これも構造だけのお話なのですが、妙に気に入りました。
噴水の得も言われぬ美しさの描写のあと、
自分に陶酔的に酔う少年を一瞬にして逆転する少女。
可愛い話です。個人的に最後はガッツポーズです(笑)。

三島由紀夫には、「花ざかりの森・憂国」という自薦短篇集もあるようですので、
こちらも読んでみようと思います。