ドイツの美術 (写真編 その1) | れぽれろのブログ

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ドイツの美術作品を並べてみようシリーズ。
先月、主に絵画を中心とした20世紀~現代のドイツの美術作品を並べました。
今回はドイツの写真家さんたちの作品を並べてみます。

第1次世界大戦後のドイツ、ワイマール共和国の時代。
この時期のドイツでは、様々な写真家たちによって、面白い試みが行われました。


・下働きの人夫/ザンダー (1928)

下働きの人夫

アウグスト・ザンダーは肖像写真家です。
ドイツの様々な階層の多種多様な人々の姿を撮影した方。
ザンダーは撮影対象を美化したような演出的な写真ではなく、
撮影対象を真正面から捉え、一定の距離を置いて均質的に撮影、
できる限り「ありのままに」撮影しようと試みているように見えます。
ザンダー以前のポートレートといえば、もっぱら「絵画的」「芸術的」な写真作品が
制作されていましたが、ザンダーの場合はそれらのアプローチとは真逆です。

ザンダーの面白さは、多種多様な人物の肖像を連続して鑑賞できる点、
物語的な連続写真ではなく、同一価値の写真が連続して並ぶ点に
あると思います。
様々な姿の人物が次々と登場するのは、クラクラするくらい面白い。
なので、ザンダーの写真から1枚だけ選ぶというのは難しい
(というより、1枚だけ選ぶ意味がない)のですが、
個人的にこのレンガ職人の佇まいが、なんとなく好きです。

ザンダーの試みは、その後ナチスの台頭により、中止を余儀なくされます。
様々な階層を網羅的に撮影するという手法は、
「偉大なるドイツは一つ」のナチスとは、実は相性がよくない。
しかし、ザンダーの試みは、その後のいろんな写真家に影響を与えたようです。
現在でもザンダーに似たアプローチで撮影される方もおられます。


・カボチャの蔓/ブロースフェルト (1928)

カボチャの蔓

何だか抽象彫刻のようにも、バネのような工業製品のようにも見えますが、
撮影対象は植物です。
カール・ブロースフェルトは、植物を極端にクローズアップした写真を
たくさん撮影しました。
自然の造形の不思議さと面白さが感じられる、楽しい作品になっています。
この写真は、いわゆる新即物主義の作品。
現実をそのまま捉えようとした作品なのですが、
不思議と強烈な印象を残す結果となる・・・。
前回登場したベックマンやオットー・ディクスと同系列の作品と
いえるかもしれません。


・写真集「世界は美しい」より/レンガー=パッチュ (1928)

世界は美しい

アルベルト・レンガー=パッチュも新即物主義の写真家。
現実をそのまま写した写真なのですが、撮影する位置や角度などを
調整することにより、ものすごく誇張された写真になっています。
この写真も、単なる工場か何かの写真なのだと思いますが、
対象が大胆に誇張されているため、
何だかものすごく壮大で美しい建造物の写真のように見えてきます。
レンガー=パッチュの作品を見ていると、確かに「世界は美しく」見えてくる・・・。
アプローチは上にあげたザンダー(対象をそのまま捉えようと試みる)とは
真逆です。
どちらが好みに合うかは、きっと人それぞれ。
(ちなみに、自分はどちらも好きです。)

レンガー=パッチュの「対象を美しく誇張する」という性質は、
実はナチスとは親和性が良いようです。
ナチスは広報などでこのような手法を巧みに使用しました。
この辺りもザンダーとは正反対です。


・超人アドルフ/ハートフィールド (1932)

超人アドルフ

ナチス批判といえばこの人。
ジョン・ハートフィールドはドイツ人ですが、ナチス時代には国外に亡命します。
本名はヘルツフェルトというのだそうですが、
英語風の名前を名乗っていたようです。
よっぽどナチスドイツがイヤだったのかな・・・。
この人の手法は、いわゆるフォトモンタージュ。
写真を巧みに合成することにより、楽しい作品に仕上がっています。
レントゲンを撮ると背骨がコインになっているヒトラーさん。
何だかインパクトのある写真ですね。


・給水塔/ベッヒャー夫妻 (1980-89)

給水塔

一気に時代が下ります。
ベルント&ヒラ・ベッヒャーは、このような「今は使われていない
古い工業用建築物」の写真をたくさん撮影しされた方々です。
撮影手法は、ザンダーに似ています。
おそらくはザンダーの影響化にある写真家だと思います。
光の加減がちょうど良い曇りの日に、対象を真正面から捉えた写真を撮影。
誇張も美化もせず、ありのままを撮影しようとしており、
いろんな給水塔のありのままの面白い形が確認できます。
そして写真が展示されるときは、だいたい上記のように
3枚×3枚とか4枚×4枚だとか、複数の対象物を同時に比較して
確認できるような展示方法が取られています。
給水塔以外にも様々な建築物を撮影していて、
これまたあれこれと見続けるのが非常に楽しいです。
ベッヒャー夫妻もその後のたくさんの写真家に影響を与えました。


ということで、次回は90年代以降の作家さんの作品を並べてみようと思います。