実験工房展 (富山県立近代美術館) | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

8月17日の土曜日、富山県立近代美術館の
「実験工房展 戦後芸術を切り拓く」と題された企画展に行ってきました。

この日は3日間の北陸旅行の最終日、朝から外気温36℃という猛暑です。
そんな中、JR富山駅から南に向かって歩きます。汗ダラダラ・・・。
2日前の金沢21世紀美術館のそれなりの混雑ぶりと比較すると、
富山県立近代美術館の館内は人は少なく、落ちついて鑑賞することができました。

実験工房とは、1950年代に様々な前衛芸術家たちが集まってできた
グループとのこと。
ジャンルとしては、絵画、造形作品、写真、映像作品、音楽、演劇、舞踏など、
多岐に渡ります。
メンバーは、大辻清司、北代省三、駒井哲郎、福島秀子、山口勝弘、
佐藤慶次郎、鈴木博義、武満徹、福島和夫、湯浅穣二、園田高弘、秋山邦晴、
今井直次、山崎英夫。

駒井哲郎の版画作品は見たことがあります。
北代省三のモビール作品も見たことがある気がします。
武満徹は有名な作曲家で、CDも少し持っています。
ピアニストの園田高弘も知っていました。
残りの方は知らない方でした。
上記のメンバー以外にも、その周辺の方々、
池田龍男や阿部展也など、知った名前も登場します。

会場では、絵画、写真、映像作品、造形作品の展示と合わせて、
当時の企画展や演奏会の案内や、実験工房に対する批評、当時の雑誌の紹介、
音楽のスコアなど、作品だけではなく様々な物が展示されていました。
音楽のコーナーでは、実験工房のメンバーが作曲した音楽が
うっすらとかかっています。
ヘッドホンで音楽を聴けるブースもありました。


全体の印象。

この時代はシンプルな造形が多いように思います。
どちらかというと非意味的で、造形としての構造、純粋に見ることの面白さ、
視覚表現の可能性を追求したような、そんな作品が多いです。
音楽もどちらかというと音数が少なく、音と構成のみを追求したような作品が
多いように思いました。

この2日前に金沢21世紀美術館で鑑賞した「内臓感覚」の展示とは真逆です。
「内臓感覚」が身体性を感じさせる作品、あるいは情報量の多さから結果的に
意味性にシフトしていく作品が多いのに対し、実験工房の方は、情報量が少なく
純粋な視覚表現や音をとことん追求するような、正反対の印象を受けます。
もちろん、個別の作品では意味性や身体性を見出すことはできる作品も
あると思いますが、どちらかというと傾向的に純粋性・非意味性が勝るような
印象を受けました。
「内臓感覚」の方が、どちらかというと眩暈的な作品が目立つのに対し、
こちらの方は、何というか「古き良き前衛」、安心して(?)鑑賞できるような
作品たちです。

さらに、同時期のアメリカの抽象表現主義、ポロックやデ・クーニングらの
作品に比べると、ずっと静的な印象の作品が多いように思いました。
自分はどちらかというと情報量が多いようなものを面白がる傾向にありますが、
この静的な感じもこれはこれで好きです。
そして50年代の具象美術が(数年前の戦争の影響もあるのか)なんとなく
暗い作品が多いのに対し、実験工房の方はあまり暗さという感じはしません。

個別の作品は静的な印象ですが、展示全体としては
かなり情報量の多い展示になっています。
当時の社会や歴史のことなどをあれこれ考えながら鑑賞すると面白く、
あっという間に時間が経ちます。
自分は実験工房のことはほとんど知らなかったので、楽しく鑑賞できました。
戦後の芸術史、50年代を考える、歴史的意義のある展示だと思います。

図録をパラパラっと見ると、情報量が多くて面白そうです。
買おうかどうかさんざん迷いましたが、結局
「持って帰るのが重い」という理由で(笑)、購入は諦めました。
図録って重たいのです・・・。
旅行中ですし、荷物が増えるのはつらいし・・・。


その他、いくつか印象にの持ったもの。

ひとつは音楽に関する展示が面白かったです。
武満徹や湯浅穣二、当時の演奏会の案内や、スコアの展示、
音楽関係の雑誌などの展示が楽しい。
音楽雑誌の表紙にショスタコーヴィチの顔。
よく考えると同時代の作曲家ですね。
ジョン・ケージやフルクサスに関する展示もあります。
オボーリンやギーゼキングなど、歴史上のピアニストの演奏会の案内。
そして、実験工房の関係者により開かれた演奏会の案内。
メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」、個人的に好きな曲です。
シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」、シュプレッヒシュティンメが楽しい曲。
この辺りはひょっとしたら日本初演なのかな・・・?
面白そうなプログラムで、何やらタイムスリップして
演奏会に行きたくなってきます。

もうひとつ、実験工房関連の紹介記事が載っている
1953年の雑誌「アサヒグラフ」が多数展示されていました。
実験工房と関係ない記事も見ることができ、展示の趣旨とは全く関係ないですが、
この記事が面白い。
政治批判、逆コース批判、池田勇人(当時は首相になる前)に対する悪口(笑)、
天皇・皇族に対する(半ばゴシップ的な)記事も、
現在よりもかなり自由に書いている感じです。
サンフランシスコ講和条約の発行が52年、その翌年の雑誌ですので、
まだまだ占領時代の「アメリカ的表現の自由」の空気が
残っているのかもしれません。
そして、戦争はもうイヤだという空気が濃厚な記事になっています。
識者が読者に問いかけるコーナーもあります。
渡辺一夫、平林たい子、中里恒子、なんだか自分のブログの過去記事に
登場したことのある(笑)方々もおられ、むやみに面白いです。
昨年、堀野正雄の展示を見に行った際も、関係ない雑誌の切り抜きが
面白かったですし、こういう昔の雑誌なんかを図書館であれこれ調べてみるのも
面白いかもしれませんね。

この展示は富山以外にも巡回するようですが、自分の住む関西への巡回はなし。
なので、富山まで来た甲斐がありました。


---

地方の美術館に行った時に楽しいのが、常設展示の鑑賞です。
富山県立近代美術館も、20世紀の主要作家の作品をかなり広範に所蔵しており、
近代美術史を俯瞰できる、かなり充実した展示内容になっていました。
これだけの作品を所蔵しているのはなかなかすごいです。

シュルレアリスム絵画がかなり充実しています。
シュルレアリスム四天王(と自分が勝手に決めている)、
ダリ、マグリット、エルンスト、ミロの作品が揃っています。これはすごい!
エルンストは「森と太陽」、大阪の国立国際美術館に所蔵されている作品と
同シリーズ。
マグリットの「真実の井戸」は靴の絵、
有名な「赤いモデル」に雰囲気が似ています。
ダリは残念ながら貸出中でした。
そしてデルヴォーがあります。「夜の汽車」、夜の闇、裸体・・・いい雰囲気です。

ピカソが4点。
ポロックは40年代のオールオーバー初期の小さい作品が展示されていました。
フランシス・ベーコンもありますが、こちらはただいま各地巡回中の
フランシス・ベーコン展(自分も見に行きました)に貸し出し中とのことです。

岡本太郎の「明日の神話」があります。
渋谷駅にある例の有名な壁画の元絵なのかな・・・?
核爆発、被曝する第五福竜丸、
Chim↑Pomが福島原発をこっそり書きこんだ、あの絵です。
こんなところで見ることができるとは、何だかびっくりです。


ということで、企画展も常設展も楽しく鑑賞できました。
ひとしきり鑑賞後、のんびり喫茶店でトーストとコーヒーを頂きます。
ふと見ると、美術館の横に科学館があります。
お隣に科学館があるのも、なんとなく国立国際美術館に似ています。

この美術館、また機会があれば訪れてみたいです。


---

最後に妙に気に入った写真を1枚ペタっと・・・。
(大辻清司の作品です。)

・美術家の肖像・福島秀子(1950)

美術家の肖像・福島秀子