ドイツの美術 (20世紀前半) | れぽれろのブログ

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20世紀のドイツといえば、他のヨーロッパ諸国と比較しても、
かなり複雑な歴史を歩んだ国です。
19世紀後半、ビスマルク体制の元で近代国家とての統一がなされた
ドイツ帝国は、他の帝国主義国家と比肩する大国になりました。
そんなドイツ帝国が、ヨーロッパ中を敵に回して戦ったのが第一次世界大戦。
すぐに終わるとの予測に反し、この戦争は戦線が膠着して遅々として進まない
塹壕戦となり、戦争が長期化・総力戦化した結果、ドイツは敗北。
帝政ドイツは敗れ、ワイマール憲法を頂く共和国が誕生します。
かと思うと、ワイマール体制の中からヒトラーが登場し、ナチスが政権を掌握、
再びヨーロッパの大国に戦争を仕掛けますが、またしても敗北、
第三帝国は崩壊します。
連合国側に占領されたドイツは、冷戦体制の激化に伴い、
東西に引き裂かれます。
国家が分断された上、多大な戦後補償が発生しますが、
それでも西ドイツは工業国として経済成長を達成し、
西ヨーロッパ諸国の中で大きな影響力を持つ存在となります。
そして80年代後半、冷戦体制の崩壊を象徴するかのようにベルリンの壁が崩れ、
東西ドイツは再び再統一を果たします。

美術史と言えばフランスが中心、とくに20世紀の前半はパリの時代と
言っていいほど、各国の芸術家が皆パリを目指し、
フォービスムやキュビスムなどの様々な表現手法が誕生しました。
同じ時代のドイツの美術は歴史的に見てやや地味な感じもしますが、
それでもすごく面白い作品もたくさんあります。
とくに、フランス美術ではなかなか見られないような表現手法や、
ある種の恐怖感や暗さを感じさせる作品も多く、
個人的に好きな作品もたくさんあります。
そんな20世紀前半のドイツの画家の作品の中から、好きなもの、
面白いと思うものをいくつか並べてみます。


まず20世紀初頭、ドイツは表現主義の画家がたくさん登場します。
表現主義とは、現実に見たものをどう捉えるかというような視覚的な探求ではなく、
人間の感情や内面を投影したような作品のことを指します。
20世紀初頭のドイツでは、「ブリュッケ」「青騎士」といったグループが結成され、
様々な作品が制作されました。
そんなドイツ表現主義の作家を何人か並べてみます。


・虎/マルク (1912年)

虎

フランツ・マルクは動物の絵をたくさん描いた画家。
赤・青・黄・緑などの原色で描かれた動物たち。
マルク自身動物好きで、自らの心象が作品に投影されている、
などと評されることもあるようです。
この作品は、2年前のレンバッハハウス美術館の展覧会
(「カンディンスキーと青騎士」展)で日本に来ていた絵です。
黄色で描かれたカクカクした虎、デフォルメされた形態と、
画面の中の色配置が何とも言えずよい感じ。
マルクは第一次世界大戦で出征し、亡くなっています。


・遊歩道/マッケ (1913)

散歩

アウグスト・マッケもドイツ表現主義に分類される画家です。
個人的にこの「遊歩道」がすごく好きで、
この絵も2年前のレンバッハハウス美術館の展示で日本に来ていた絵です。
この作品はどちらかというと画面構成が楽しく、
あまり表現主義的な感じはしないかな・・・?
木の形と男の人の身体の形。
葉っぱの形、女の人の服と傘の形。
この辺りのバランスが楽しくて、好きな絵です。
幸福そうな絵。
マッケも第一次世界大戦で亡くなった画家の一人です。


・ベルリン、フリードリヒシュトラーセ/キルヒナー (1914)

ベルリン、フリードリヒシュトラーセ

エルンスト・ルートヴィッヒ・キルヒナーも、
ブリュッケ・青騎士の活動に参加した方。
細い人物が密集して立ち並ぶ、空間恐怖的な絵をたくさん描いています。
同時期のキュビスムの影響や、アフリカ美術に影響されたピカソや
モディリアーニの作品から形態的な影響を受けているとも言われ、
さらにそれを独自に変化させたような不思議な作品になっています。
犇めき合う人たちが何やら怖い・・・。
キルヒナーも第一次世界大戦で出征しますが、生き残ります。
後に戦間期に自殺しています。


第一次世界大戦後、ドイツでは内面を描くような表現主義の潮流から、
現実をそのまま描く即物主義へと変化します。
と言っても、これらの新即物主義の画家の描いた作品は、
いわゆる普通の写実ではなく、現実をさらに誇張したような、
強烈な印象を残す不思議な作品となっています。


・夜/ベックマン (1919)

夜

これはなかなか強烈な絵で、描かれているのは拷問シーンです。
この作品、怒りや非難といった感情よりも、
拷問の様子を単純に冷徹に描いているような感じを受けます。
それでいて画面から漂う雰囲気は、何とも言えず濃密です。
内面の表現ではなく冷静な観察、しかし決して写実そのものでもないという
何だか不思議な絵で、一度見ると忘れられない絵です。
マックス・ベックマンは第一次世界大戦で従軍した後、生き残った画家で、
このような濃密な空間の絵をたくさん残しています。


・カードに興じる傷痍軍人/ディクス (1920)

カード・プレーヤー

オットー・ディクスも新即物主義の画家で、

やはり第一次世界大戦に従軍した後、生き残った方。
戦争の様子を描いた作品が有名ですが、この作品のような、
現実を描きつつもデフォルメされた人物を描いたような作品も残しています。
なんとも強烈な人物たちです。


30年代にナチスが政権を掌握すると、上に挙げたような表現主義や新即物主義の
画家たちは、「退廃芸術」ということで、批判の対象となります。
なので、ドイツ美術史の上でナチスの時代は空白地帯。
同時期にはナチスの主催による「大ドイツ芸術展」なる展覧会が
開催されたようですが、この展覧会にどんな作品が展示されていたのかは、
自分はよく知りません。
ナチスがどんな芸術作品を好んだのか、興味はありますが、
意外と見る機会はなさそうです。


さて、20世紀前半のドイツ人の画家で、美術史上最も重要な人といえば、
シュルレアリスムの巨匠であるこの人です。

・雨後のヨーロッパ/エルンスト (1942)

雨後のヨーロッパ

シュルレアリスムといえば、スペインのダリやベルギーのマグリットなどが
有名だと思いますが、ドイツのエルンストもすごく面白い画家です。
フロッタージュやデカルコマニーなどといった、偶然の要素が強い技法を
駆使して様々な悪夢的な世界を描いた絵、
さらには「百頭女」のようなコラージュ作品や、
怪鳥ロプロプが登場する絵など、幅広く面白い作品を残しています。
エルンストはナチス時代にドイツを逃亡し、アメリカやフランスで過ごしました。
この画像は小さくて見にくいですが、偶然の要素を重視して描かれた、
廃墟のような森のような空間。
その中に、人間や動物の片鱗のようなものが、所々に佇んでいます。
何とも面白い絵で、ぜひ一度実物を見てみたい絵です。



フランス美術の展覧会は、毎年のようにあちこちの美術館で特集されていますが、
それに比べるとドイツ美術の展示はずっと少ないように思います。
個人的には、もっとドイツの美術作品も特集してほしいです。

ということで、次回はドイツの戦後の美術をいくつか並べてみたいと思います。