浪花の映像の物語 | れぽれろのブログ

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17日の日曜日、「浪花の映像(キネマ)の物語」と題された
映像作品の上映会に行ってきました。

場所は中之島の国立国際美術館。
半年に1度公開される「中之島映像劇場」の第5回目の上映会です。

この日は花粉の量に加えてさらに、朝からPM2.5の値が高い・・・。
50μg/m^3だとか60μg/m^3だとか、恐ろしげな値が出ています。
何だか出かけるのが億劫になってきますが・・・あまり気にしても仕方がないので、
何の防護策も取らずに出かけます。

前回の中之島映像劇場(昨年10月)は、マイケル・スノウのかなり実験的な
映像作品でしたが、今回は戦前日本の映像、
しかも前回のような前衛的な映像ではなく、普通の報道や映画という
また前回とはガラッと内容が違う上映会でした。
客層も前回とはかなり違う人たちのような気がします。
年配の方が目立ちます。どちらかというと、若い人が少ない。

今回はタイトルのとおり浪花(なにわ)=大阪が関係する映像がメインです。
古いもので1917年(大正時代!)、新しいものは戦前昭和、
1930年代後半の映像です。
大阪在住者としては、大阪の知っている地名が次々と出てくるのが
楽しかったです。

今回は5種類の映像作品が上映されていました。
以下映像の覚え書き、感想など。


・アサヒコドモグラフNo.1及びNo.19 (1938年,1939年)
子供向けの短いニュース映像をいくつか集めたもの。
蝶タイのメガネおじさんが登場し、ニュースを紹介。
夏の映像なのか、水に関するニュースが多いです。
世界記録保持者が泳ぐ映像、ビルの屋上に設置されたプール、
巨大な亀(甲羅に「昭和十三年」と書かれている 笑)
モーターボートの映像、天王寺動物園のアザラシ(?)、
阪神水族館の熱帯魚、etc・・・
「1938年」「水」といえば、思い出すのは阪神大水害ですが、
そういう映像はありませんでした。
あくまで明るいニュース。
その他、兵隊さんたちの病院に慰問に行く子供たちの映像や
中国戦線の現地の様子など、日中戦争時代ならではの映像などもありました。

・地下鉄の出来るまで (1938年)
サイレントの映像。
地下鉄御堂筋線がどのように作られたのか、
制作過程の実写映像+イラスト&文字で解説した映像です。
土を掻きだし、穴を掘り、防水加工を施し、柱を作り、天井を作り・・・。
最後の方に心斎橋駅らしきものが出てきます。

・大阪倉庫の爆発 (1917年)
これもサイレントの映像です。なんと大正時代の映像!
倉庫の爆発後の様子の記録映像です。
激しい火災の様子。
布を被せられた遺体と思われる映像も。
登場する人々は、30年代とはかなり様子が違います。
この映像だけでは一概には言えませんが、大正~昭和初期にかけて
都市・人々の生活は著しく変化したのだという印象を受けました。
この映像、フィルムに着色してあるらしく、
画面が赤色だったり黄色だったりします。

・朝日は輝く (1929年)
朝日新聞の広報(?)的な作品。これもサイレントです。
新聞社の様子の再現VTRみたいな感じの映像で、
ドキュメンタリーという感じはしません。
登場する人の一部は、役者さんが演じているようにも見えます。
新聞社内はせわしなく、足元には紙が散乱(何やら汚い)。
回る輪転機、印刷の様子、社内の様子などが描かれた後、
船舶の火災事故発生!
現場に急行する記者たち、飛行機で飛び立つ記者、現地でメモを取り、
伝書鳩で本社に一報。
ゲルニカという音楽ユニットに「輪転機」という曲があるのですが、
この曲をバックに流すとぴったり合うような、そんな映像でした。

・浪華悲歌(なにわえれじい) (1936年)
1936年の劇映画です。日本初の関西弁のドラマなんだとか。
主人公のアヤ子は電話交換手として働いており、社内には恋人もいます。
アヤ子の父が勤め先のお金を使い込んだことが不幸の始まり。
父と喧嘩したアヤ子は衝動的に家を出、会社の上司にうまく取り入り、
愛人としてモダンなアパートで暮らすようになります。
しかし上司の嫁(この人がすごくいいキャラクタです)に不倫がばれて破綻。
アヤ子は続いてお金持ちの株屋に色仕掛け。
お金をもらった後かつての恋人との結婚を望みますが、
不倫やら何やらで性格が一変したアヤ子を目にし、
かつての恋人の心はアヤ子から離れていきます。
株屋によって警察に通報され、実家に帰っても不良少女として冷たく扱われ、
行き場のないままアヤ子は町を彷徨う・・・。

この映画の良さは、何と言っても戦前の関西弁です。
船場言葉とか、そういう言葉づかいなのかな・・・?
まるで谷崎潤一郎や上司小剣の小説の登場人物がそのまま喋っているような、
そんな雰囲気です。
登場人物の中には少しイントネーションが怪しいと感じる人もいますが、
概ね正確に当時の大阪弁を喋っているのではないかと思います。
とくにアヤ子の上司の嫁役の人。この人がやたらと気に入りました。
旦那への小言の言い方が面白く可愛らしい(笑)
文楽座にて、彼女の小言と舞台上の女人形の小言を重ねる部分とか、笑えます。
当時の大阪の色々な場所も登場し、楽しめました。



その他、全体通して感じたことなど。

今回の映像5作品は、すべてジャンルはバラバラです。
子供向けの報道映像、制作過程の解説映像、事故の記録映像、
新聞社の様子を描いた再現映像、そして物語映像。

フィクションとは?ノンフィクションとは?真実とは?虚構とは?

「浪華悲歌」は明確にフィクションです。
「朝日は輝く」は明確なドキュメンタリーではなく、フィクション色が強いです。
「アサヒコドモグラフ」はドキュメンタリーの手法ですが、演出的な部分も感じます。
水泳選手の喋り方が妙に演技的だったり、天王寺のお寺の小坊主の
読経映像など、本当に読経してるのかどうか怪しい。
「地下鉄の出来るまで」も、作業の映像など、
解説のための演出なのか実際の制作過程なのか判別しにくい部分もあります。
明確にノンフィクションと言えそうなのが、記録映像である「大阪倉庫の爆発」
ですが、この作品とて、後から着色が施されており、現実の色とは異なります。
そして、フィクションである「浪華悲歌」であっても、
ロケのシーン:当時の街の様子、百貨店の様子や文楽劇場の様子など、
現在から見ると歴史資料的な価値があるとも言える
「ノンフィクション的な」映像も含まれています。

現在、映像作品はフィクション/ノンフィクションと明確に分けられていることが
多いですが、
両者の明確な区分けなど、実は不可能。
黎明期の映像作品を見ることにより、こういったことを感じました。


夕方、会場を後にし、PM2.5の渦巻く中、なんばまで歩きます。
途中、四ツ橋交差点を通過します。この辺りに文楽座があったのでしょうか・・・。
現在はリキテンスタインの看板がやたらと目立ち、文楽座の面影もありません。

と、そんなことで、この日も楽しい一日となりました。
次の中之島映像劇場は今年の秋。
何が上映されるのか、次回も楽しみです。