夢か、現か、幻か (その2) | れぽれろのブログ

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前回の続き。
2月24日に国立国際美術館で鑑賞した
「夢か、現か、幻か (What we see)」の覚え書きです。

実は昨日書いた2作品・2時間があまりにも面白く、
ここでかなり鑑賞のパワーを使い果たし(←持続力のないやつ)、
以降の作品は、かなりのんびりと鑑賞した形になります。

ヨハン・グリモンプレの作品を見た後は、スティーヴ・マックイーンの作品ですが、
これまた70分もある作品ですので、時間がなくなりそうなため、飛ばしました。
次回訪問時に見ようと思います。
(ちなみにこの人、映画「大脱走」でバイクで鉄柵を越えてた人ではありません。
念のため 笑)

以下、各作品の覚え書きです。


・Artefacts/シプリアン・ガイヤール (2011年)

フランスの作家さんの作品。
中東と思われる砂漠の中を、白人の兵士が進んで行く映像が延々続きます。
廃墟のような建物や、破壊された聖像なんかが映されます。
淡々とした映像ですが、なんだかフワフワした不思議な雰囲気もあります。
解説によると、これはイラクの映像なんだとか。

この作品をぼんやりと見ながら、なんとなく思い出したのが、
フランス映画「フランドル」です。
白人が故郷の田舎を離れ、砂漠で戦争するのですが、
何と戦っているのかよく分らない。何だか不思議な感覚を持った映画です。
「フランドル」も「Artefacts」も、おそらくはイラク戦争に対する
作家としての反応から生まれた映像作品のような気がしますが、
なんとなく不条理感というか、不思議な雰囲気が強いのが現代的です。

あとこの作品の音楽ですが、BGMとして4小節くらいの同じメロディが
延々繰り返されます。(フワフワ感はこのBGMのせいでもある。)
で、この作品の展示場所のせいもあってか、この短いメロディが
会場のどこへ行っても聴こえてきます(笑)。
他の映像作品を見ていてもしつこく聴こえてくるため、
いい加減イヤになってくるという・・・(笑)。


・Lineament/さわひらき (2012年)

日本人の作品です。
夢のような作品。
これまでの情報量の多いような作品、どちらかというと
ドキュメンタリー風の作品と少し違い、静かなフィクションの映像作品です。
ホッと一息、といった感じ。
レコードが回ると細い紐のようになってだんだんと伸びていき、
壁の間から紐が伸びてゆく。ぼんやり見ていると心地よい。

さわひらきさんは過去にサントリーミュージアムで企画された
「インシデンタル・アフェアーズ」という現代美術展で
「Going Places Siting Down」という作品が上映されていたことがあり、
これがすごく可愛らしい作品だったので、
印象に残ってた作家さんです。

他にも「Souvenir No.3」「Souvenir No.5」という小品も展示されていました。
とくに「No.3」の方、短い映像ですが、眠ってる子が目を覚ましても、
まだ夢なのか現実なのか分からないような不思議な雰囲気の作品で、
いい感じです。


・ある裁縫師の一日
・取り戻した時間
・太陽と星:文字の記録
・マイ・フェア・ボーイ
・最後の喜び        /チョ・ソジョン (2012年)

韓国の作品。
ドキュメンタリー作品が5作品上映されていました。
裁縫師、映画用看板の絵師、活版印刷職人、人形制作師、
綱渡り師の5人が登場します。
現実のドキュメンタリーですが、面白いです。
さわひらきのあとに見たからか、裁縫の糸の山や、人形の山、文字型の山、
綱渡りなど、なんとなく夢の世界のような感じに見えてくるのが面白いです。
現なのに幻のようにも見えてくる。現実のドキュメンタリーのはずなのに。
夢か、現か、幻か・・・、何が何なのか、この辺りでかなりトリップしてきました・・・。

綱渡り師の映像が一番面白かったです。
衣装を付けて音楽とともに綱を渡る綱渡り師。
これは現実の映像なのですが、そもそもこういった大道芸自体が「演じる」もの。
現実を虚構化するような、パフォーマンスアートのような営みです。
綱渡り師は、わざと失敗しかけて客をハラハラさせるような、
そんな技術も持っているのだとか。虚構的演技もまた技術。

あと、美術でも何でも、制作過程の映像化というのは、面白いですね。
人形や絵や刺繍など、出来上がっていく過程というのは、シンプルに面白い。


・ヴィジブル・ストーリー/杜珮詩 (2012年)

台湾の作家さんの作品。
いろんな絵が次々と現れ、それに人間がアニメ的にこちょこちょと動きます。
なんとも素朴な感じの作品。
途中、後ろにヘンリー・ダーガーの描く女の子たちの絵が飾られています。
最後のシーンは、アンリ・ルソーの絵で終わります。
途中、ピアノ曲が流れます。
バッハだっと思いますが、何の曲だったかな。
パルティータかな?フランス組曲かな?
あとで解説を読むと、この作品、アウトサイダー・アートの色々な作品を
コラージュしたものなんだそうです。
そして登場する人たちは、歴史の犠牲者と言えるような人たちなんだとか。


・受胎告知/エイヤ=リーサ・アハティラ (2010年)

制作者はフィンランドの方です。
前と左右の3方向に3つの映像が映し出されます。
カメラを3つ使った作品。
複数の映像を同時に流す作品は過去にもたくさんありましたが、
この作品のように、同時刻の映像を3方向から撮影するというのは
何やら珍しい気もします。

まずは、雪山の動物たちの映像。
人間と動物は同じ時間を生きているのではないかもしれない、
などという意味深な解説。
その後、これまたバロック風のチェンバロの曲に乗って、
レオナルド・ダ・ヴィンチやフラ・アンジェリコの「受胎告知」の絵が紹介されます。
天使ガブリエルがマリア様に受胎を告知するシーンを、役者の皆さんが演じる。
この練習シーンが延々続きます。
途中、やはりバッハの「主よ人の望みの喜びよ」が流れたりします。

マリア様の処女懐胎がそもそも虚構だと思いますが、
その虚構を役者さんたちが演じることもまた虚構で、
その演技をドキュメンタリー風に作品化したこの映像自体も虚構であるとも言え、
虚構のレイヤーが何層にもなってる感じが、なんとなく面白げ。

映像には、ロバやハトなど、いくつかの動物が登場します。
2つの画面に人間が映っていて、残り1つに動物、
というパターンが多かったような感じ。
そしてこの動物の映像がまた良いです。とくに雪山とのセットがいい。

あとで読んだ解説によると、この役者さんたち、
1名を除いて全員素人なんだそうです。
マリア様を演じた女の子だけがやたらと綺麗な方なのですが、
この人が役者さんだったのでしょうか。
この女の人がやたらと気に入ったのですが(←こらこら)、
残念ながらお名前が分からない・・・。


実はこの時点でもう閉館時間が近づいてきています。
次のクレメンス・フォン・ヴェーデマイヤーの作品は泣く泣く飛ばします。


・utsutsu nation
・screan meories  /柳井信乃 (2012年)

最後は日本の方の作品。
ututu nationの方は、メリーゴーランドと観覧車の見える中、
巨大なハンマーを持った女の子が、地面に向かって、
マーラー交響曲6番4楽章の展開部の如く、ハンマーをぶちかまします。
すると地面が爆発します。なんぞこれ。
ハンマーが花柄なんかをあしらってて、妙に可愛いのがまた
不思議な感触を与えます。

screan meoriesの方は、能面をかぶった人物が戦闘機や色々な施設と
一緒に写ってるような写真が何枚も続きます。これまたミスマッチ感が面白げ。
能面は角度によっていろんな表情に見えてくるので、写真化が面白いです。



ということで、最後の方はちょっと駆け足で見てしまった感もありますが、
時間があれば次回、もう一度ちゃんと見たいと思います。
今回見れなかったスティーヴ・マックイーンと
クレメンス・フォン・ヴェーデマイヤーの作品ですが、
あとで解説を見ると、これまた非常に面白そうな作品です。
時間を取ってもう一度見に行かないと・・・。

閉館前の少しの時間、常設展示を駆け足で見て回ったのですが、
2年前に特集展示があった森山大道さんをかなり購入されたようです。
これももう一度じっくり見たい作品ですね。