夢か、現か、幻か (その1) | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

最近どんどん記事がマニアックになっていってる(笑)気がして、
アクセスして頂いている方の気持ちが離れて行きそうな気もし、
にもかかわらず今日の記事もまたマニアックになりそうな気がしてますが、
あまり気にしても仕方がないので、我が道を突き進みます。

24日の日曜日、国立国際美術館に行ってきました。
目的は「友の会」の更新(この美術館、好きなので会員になってるのです)、
そして、現在特集展示されているビデオ―アートの特集
「夢か、現か、幻か (What we see)」と題された展示を見てきました。

国際美術館はビデオアートの特集に対し比較的積極的です。
過去にも「液晶絵画展」を始め、中国の現代美術の特集展示などでも
ビデオアートが比較的多く上映されていました。
やなぎみわ、束芋といった映像作家さんたちの特集展示もありました。
半年に一度特集される「中之島映像劇場」も楽しみな企画の一つですね。
そんな国際美術館のビデオアートの特集ですので、
見に行かない訳にはいきません。
実はもっと早くに行こうと思っていましたが、他の美術館に行ったり、
演奏会に行ったり、旅行に行ったり、風邪をひいたり(笑)していたので、
行くのが遅くなってしまいました。

今回の展示は、近年の新しい作品が中心でした。
90年代の作品が1作品、ゼロ年代前半の作品も1作品ありますが、
それ以外は2008年以降の作品です。
10人の作家さんの作品が展示されていました。
そして、個人的に驚いたのが、10人中4人が自分より年下の作家さんだということ。
50年代うまれが1人、60年代が2人、70年代が4人、80年代が3人おられます。
自分と同世代の作家さんが国立美術館で活躍されているような時代。
何というか、時代の流れを感じます。単に自分が年を取っただけか・・・。
(ちなみに自分は78年うまれです。)

自分はだいたい展示を見に行くとき、ほとんど下調べをせずに行くのですが
(その方が面白い)、今回も「どうせ面白いだろう」という期待の元に、
何も確認せずに行きました。
で、予想のとおり面白かったのですが、1つ誤算がありました。
ビデオアートなので鑑賞に時間がかかるだろうとは思っていたのですが、
・・・予想以上でした。
最初の3人の作家さんの作品を全部見るだけで、なんと4時間以上かかります。
なので、仕方なく一部飛ばして鑑賞したため、今回10人中3人の作家さんは
コンプリートできていません。
お昼の12時に会場入りし、閉館の夕方5時までいたのですが、
全然時間が足りませんでした。
自分は長らくいろんな展覧会に行ってきましたが、
この鑑賞時間は史上最長です。
ということで今回の特集展示、何とか時間を見つけてもう一度、
見れなかった作品を見に行きたいと思います。

ということで、今日は最初に展示されていたの2つの作品の覚え書き。
いきなりこの2作品がかなり面白かったです。
ちなみに、この2作品を鑑賞するだけで、2時間15分程度かかります(笑)。


・レム睡眠/饒加恩 (2011年)

展示スペースには3つの画面。
それぞれ、3人の人間が眠っています。
3人中1人の人間が目を覚まし、最近見た夢の内容を語ります。
語り終えるとまた眠りにつき、映像がまた別の人物に切り替わります。
これが3つの画面で順番に繰り返され、人がどんどん交代していき、
これが1時間以上続きます。

作者は台湾の方で、語っているのは台湾への移民、すなわち、
インドネシアやフィリピンやベトナムから来た方々です。
老人介護の仕事をしている方が多いようです。
台湾では老人介護は移民の仕事なんでしょうか。
語り手のうち男性は数人で、ほとんどが女性です。
夢の内容は多岐にわたりますが、総じて怖い夢の話が多いです。
中には夢が現実になったような正夢や、人の死や不幸事を予見する
予知夢のような話を語られる方も。
淡々と語る方もおられますが、語っているうちにヒートアップしてきて、
涙目になったり声を荒げる人も出てきます。
いろんな夢のパターンや、語り手の性格なども伺えます。
単身で台湾に来ている方が多いのか、故郷に残した肉親の夢を
語る方が多いです。
仕事に関する話、契約を打ちきられたとか、そういう語りもあります。
彼女たちが何を気にしているのか、
何に不安を抱きながら生きているのかが伺えます。

さて、感じたこと。
体験を語るとはどういうことか。
現実に起こっている「現象」、我々が受容する「体験」、我々が体験を語る「伝達」、
これらは分けて考える必要があります。
我々は現実に起こっている現象をそのまま受容するわけではありません。
「現象」→「体験」に対して、必ず加工が生じています。
現実に起こったことと我々が体験したことの間には、必ずズレがあります。
そして、体験を伝達するには言葉を使います。
言葉は曖昧です。「体験」→「伝達」にも、また加工が生じるものです。
さらに、体験を語っているうちに、体験とどんどんズレていく語りの内容が、
これまた語り手自体にも再度フィードバックされ、
さらに体験が現象からズレていきます。
この作品の場合は、語る対象が夢ですので、そもそも現象に実態がありません。
体験のみを語るわけですから、伝達(語ること)に対し、体験とのズレが
どんどん大きくなって行っていることが予測されます。
そこに、故郷の肉親や仕事の契約の記憶が入り込む。
夢を語るうちに、彼女らの現実の不安がどんどんフィードバックされて
いっているような、そんな印象を受けました。
まさに夢か現か幻か、テーマに合致した展示です。
・・・と、そんな小難しいことは別にしても、単純に語りの内容が
とにかく楽しいですね。

思い出したのが、松谷みよ子さんの「現代民話考」のシリーズです。
「現代民話考」は、明治から昭和にかけての、膨大な量の「民話的な」体験を
収集した著作です。
この中に、夢を扱った巻があり、これも膨大な量の夢に纏わる聞き書きが
収められています。
膨大なのですべて覚えているわけではない(というか細部は全然覚えてない)
のですが、この作品「レム睡眠」と「現代民話考」の夢の巻、
結構鑑賞後の感触が似ています。
予知夢や、人の死を知らせる夢など、傾向が似ている語りがあります。
夢を語るという行為に、文化を問わず割と人類に普遍的に
似通ってくる部分があるのかもしれません。
「現代民話考」は図書館などで読むことができます。結構面白いです。
ちなみに、編集者の松谷さんは、話者の話しぶりのリアリティから、
語りの内容は「在ったること」(実際に起こったこと)だと結論づけてますが、
「伝達」と「現象」には絶対にズレが生じますので、この結論は危険です。
この「レム睡眠」で分かる通り、人間は夢のような曖昧なものであっても、
真実味を持ってヒートアップして語ることができる生き物です。
人間の記憶や語りなんて、すごく曖昧なものだと思います。
63分間この作品を見ながら、そんなことを考えました。

先日から内田百閒の小説を読んだりしているので、
何だか最近は夢や幻づくし、頭がとろけそうです(笑)。


・ダイヤル ヒ・ス・ト・リー/ヨハン・グリモンプレ (1997年)

ベルギー出身の方の映像作品。
今回の鑑賞した作品の中で、一番面白いと感じたのがこの作品です。
68分の作品ですが、強烈に面白いです。
1997年の作品で、おもに60年代~80年代に発生した様々なハイジャック事件の
映像をコラージュし、次から次へと連続的に見せていきます。
ジャンルとしてはドキュメンタリーになるのだと思いますが、音楽を付けたり等々、
映像の加工が入っています。
深刻な映像が多いですが、使われている音楽が妙に明るかったりします。
この作品のメイン・テーマ曲は、ヴァン・マッコイの「ハッスル」
・・・なんでこんな軽薄で明るい曲なんだろ(笑)。

この作品、一部フィクションの映像も含まれているように見えます。
どこまでが現実のドキュメントの部分なのか、
どこからが関係ないフィクションの映像なのか、釈然としない部分もあります。
これは現か幻か・・・?
コラージュされる映像はハイジャック事件が中心ですが、それだけではなく、
旅客機事故などの飛行機に纏わる映像、宇宙開発やミサイルなどの映像、
その他60年代~80年代の世界史的事件(暗殺事件など)の映像も
いくつか出てきます。
そして、20世紀中盤~後半の、国際政治の主要人物がたくさん登場します。
スターリン、フルシチョフ、毛沢東、カストロ、マルコムX、
ニクソン、サダト、レーガン、ホメイニ・・・
ラストは97年当時の指導者、クリントンとエリツィンが
爆笑しているシーンで終わります。
この爆笑映像、何なんだろう(笑)。よくこんな映像が残ってますね(笑)。

面白いのが、日本人の映像の比率が結構高いことです。
よど号ハイジャック事件や、70年代の赤軍がらみと思われる事件が
いくつか登場します。
テルアビブ空港乱射事件の岡本公三の映像と、彼の文章も出てきます。
80年代の大韓航空機爆破事件も出てきます。
作品の中に、「ハイジャックが起こりやすいのは、中東と中南米と極東である」の
セリフが出てきます。
実は日本の70年代は、ハイジャック事件が世界的に見ても
多かったのかもしれません。
その他、飛行機がらみということからか、ゼロ戦に乗り込む直前の
戦前日本の特攻隊員と思われる映像も出てきます。
このあたり、実際の映像なのか、フィクションの映像なのか、釈然としません。
あと、瀬戸内シージャック事件の犯人狙撃の瞬間と思われる映像も、
突発的に出てきます。広島と書いてましたので、たぶんこの事件かと思います。

さて、この作品を見て思い出したのが、
ケビン・ラファティの1982年の映画「アトミック・カフェ」です。
「アトミック・カフェ」もドキュメンタリー映像をコラージュした作品で、
これまたすごく面白い映画です。
「ダイヤル・ヒストリー」はハイジャックの映像ですが、
「アトミック・カフェ」の方は40年代後半~50年代の
核兵器に関する映像のコラージュです。
どちらも冷静体制下の映像が中心。手法も結構似ている気がします。
「ダイヤル・ヒストリー」は上記のとおりヴァン・マッコイなんかの明るい曲が
流れますが、「アトミック・カフェ」の方も無駄に明るい40~50年代の
カントリー音楽が流れる。
このあたりも、なんとなく似ていますね。
そして、この「ダイヤル・ヒストリー」に、「アトミック・カフェ」で使われたものと
同じ映像が出てきます。
ソ連の飛行機がアメリカに核を落とす(と想定される)映像、
核爆弾が降ってきて建物などが破壊される映像が共通しています。
核兵器から身を守るためのアメリカの防災訓練用教育ビデオ
「duck and cover」の映像も瞬間的に出てきます。
(ちなみにこの「duck and cover」の映像、現在youtubeで見ることができます。)

最後は、冷静体制が終わりもうハイジャックなど少なくなるだろう、
という意味なのか、クリントンとエリツィンの仲良し爆笑シーンで終わりますが、
この作品から4年後の9月11日、何が起こったのかを我々は知っています。

ヨハン・グリモンプレさんの作品、実は「ダブル・テイク」という作品も
上映されていたようですが・・・80分もある作品ですので、
見ている時間がありませんでした。
次回もう一度行ったときに、ぜひとも見たいと思います。

ということで、作品が面白すぎるので書きたいことは尽きませんが、
この辺にして次回に続きます。