シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル | れぽれろのブログ

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13日、シプリアン・カツァリスのピアノ演奏を聴きに、
西宮の兵庫県立芸術文化センターに行ってきました。

カツァリスさんは個人的にすごく好きなピアニスト。
昨年の4月21日に西宮で演奏する予定で、自分もチケットを取りましたが、
腱鞘炎が悪化したとのことで、この公演は延期となりました。
13日はその振り替え公演でした。
去年の4月といえばちょうどこのブログを書きはじめたころで、
過去のブログを見てみると、公演が中止となったので仕方なく予定を変更して
京都に遊びに行った、などと書いてます。
何やら懐かしいです。

この日のカツァリスさんのMCによると、
昨年は腱鞘炎でお休みした後、その後病気で11日ほど寝込んでいたが、
今は回復されたとのことです。
英語で話されていたので病名がよく分らなかったのですが、
後で訳を見ると、脳梗塞だったのだそうな。
ドイツ公演中に脳梗塞で指が回らなくなり、入院していたのだとか・・・。
何やら自分が知らないうちに大変なことになっていたようです。
よく考えるとカツァリスさん、既に還暦を超えています。
(←実はうちの母と同い年なので覚えているのです。)
・・・いつまでもお元気でいてほしいです。

ということで、13日の公演の感想などの覚書です。


カツァリスさんはプログラムの1曲目の前に即興演奏を行うことが多いです。
過去2回の演奏会でも即興演奏を行っていたので、
この日もやるかな?と思っていたら、やはり即興演奏をやってくれました。
何やら嬉しい。
過去の即興演奏は、有名曲のメロディを引用し、メドレーのような形を
取ることが多かったですが、この日はよく知らないメロディばかり。
自分が知らない曲なだけで、元ネタがあるのかな?
それともオリジナルのメロディなんでしょうか。
くるくると指が動き、そして相変わらず音がすごく綺麗です。
はやくもピアノの音にうっとり。

その後、メインプログラムに入ります。
まずはハイドンのソナタ。
長調のいかにも古典派な可愛らしい曲。
音がコロコロ。
1楽章の提示部など繰り返しを弾いていますが、
繰り返しの部分はやや表現を変えています。
弱音で演奏したり。そしてこの弱音がまた異様に綺麗。
カツァリスは演奏中によく空いた手、とくに左手を動かしたりしますが、
その左手のアクションも健在でした。

続いてモーツァルト。
幻想曲2曲をチョイス。
モーツァルトの幻想曲といえばK475を思い出しますが、この日はK396とK397。
どちらも未完で、別の方により補弼された版だとか。
K396なんてあんまり演奏されないような曲をひっぱり出してくるのが
何やらカツァリスらしい感じ。
どちらも短調の曲でした。
K397の方は最後は綺麗な長調のメロディになりますが、
雰囲気はどちらもデモーニッシュな感じ。
モーツァルトのソナタはほとんど長調の愛らしい曲が多い
(短調メインは2曲のみ)ですが、こと幻想曲に限っては、どの曲も
若干ロマン派の香りがするような劇的な短調の曲。
ソナタと幻想曲でのこのような違いが面白いです。

次はシューベルトです。
3曲の歌曲、リストによるPf編曲版。
プログラムの順序とは異なり、なぜか、
セレナーデ→水車職人と小川→アヴェ・マリア、の順に演奏されてました。
セレナーデはカツァリスはアンコールなどで以前よりよく演奏されていた曲。
途中、メロディが中音と高音で輪唱風に繰り返される部分が好きです。
この部分、手が3本要りそうです(笑)。
アヴェ・マリアはなかなか劇的な変奏風音楽。
演奏中に突如右上を見上げて、「見得を切る」ような表情をするカツァリスさん。
感極まったとき(?)によくこの表情をされますが、今回も健在。

そしてショパン。
ショパンのノクターンといえば、カツァリスさんは有名なop.9-2と、あとは
遺作ノクターンを演奏する場合が多いですが、この日は珍しく(?)op.9-1を演奏。
あらためてop.9-1、いい曲です。何やら感無量に。
そして軍隊ポロネーズ。
ダイナミックに弾いてます。「見得を切る」表情連発。

最後はベートーヴェンです。
ピアノ協奏曲5番をピアノ独奏に編曲したものを演奏。
編曲はカツァリスさんご自身。
カツァリスはここ数年「協奏曲のピアノ独奏化」を連続して演奏されています。
3年前、同じ西宮で演奏されたショパンの協奏曲2番、
(2楽章が泣くほど美しかった!
そしてカツァリスさん、このとき本当に泣いてるように見えた・・・?)
2年前、神戸で演奏されたリストの協奏曲2番、
これに続く第3弾です。
このシリーズ、オケ部分も当然ピアノで弾きますので、ピアノの表現の幅の広さ、
面白さが際立ちます。
そして抱く感想・・・「もうオケ要らんやん。なしでええやん(笑)」
今回もいい感じでサクサク弾いて行きますが、若干音は抜け気味な気もしました。
カツァリスさんはアップテンポで興に入ると、若干一部の音が消え気味に
なる場合がありますが、むしろ"流れ重視"で全然問題ないと思います。
1楽章第2主題の弱音の美しさとオケ部分の強音の対比など、面白いです。
1楽章のあと、拍手が入りますが、カツァリスさんは拍手を遮ります。
拍手遮るときのいつもの、手を合わせて「ごめんなさい」のポーズ。
フィナーレには物凄く音を足して弾いてるような部分もあり、
何やら圧倒される感じ。
ベートーヴェンの協奏曲5番、自分は実はそんなに好きな曲でもないのですが
何やら今日は非常に気に入りました。
(全くどうでもいいことですが、この曲の1楽章第1主題を聴くと
「上を向いて歩こう」を思い出してしまいます・・・笑)

アンコールはショパンのマズルカ、バロック曲の編曲モノ、
そしてカツァリスさんのオリジナル曲。
この最後のオリジナル曲が良かったです。


ということで、何やらすごく感激した演奏会になりました。
選曲が楽しいし、編曲物も面白いし、コロコロ動く指が心地よいし、
そしてとにかく音が綺麗!
カツァリスを聴いていつも抱く感想ですが、すごく楽しく気持ちいい演奏会でした。

カツァリスさん、いつまでもお元気でいてほしい・・・。
あまり無理をせず、ときどき日本に来てくれたら、何より嬉しいです。