フィレンツェの郊外に向かうバスは、
朝のまだ9時だというのに、
人がいっぱい乗っている。
それも、イタリア人でない人たちで、大混雑である。
聞こえてくる言葉は、イタリア語でない言葉。
それはまるで、
アフリカか、アジアのどこかの地域に来てしまったかのような、
不思議な空間である。
とんでもないバスに乗ってしまったな...
私は、カバンをガシッと持ち、
なるべく、
外を見るようにしていた。
次の停留所で、
足を引きずりながら、
乗り込んでくる、
老人一人。
引きずる足に比べて、
随分、重そうな荷物が二つ。
バスに乗り込むのも、ようやく...という感じだ。
バスの運転手は、ちゃんと見ないで、
ドアを閉めてしまうことがあるから、
見ている方が、
ヒヤヒヤする。
そんな時、
どこからともなく、
支えてあげる人、
荷物を持ち上げてあげる人、
運転手に「ちょっと待って〜〜!!!」と叫ぶ人。
誰も、
この老人とは、関係のない人たちである。
そんな人たちに支えられて、
家路に向かう、ご老人。
一つ向こうの停留所で降りる。
そんな時も、
誰かしら、
支えてあげる。
体の自由がきかなくても、
こうして外へ出て、
少しでも体を動かす、
イタリア人の老人と、
それを支える人の構図は、
なんだか、とても暖かく、
そうだ、こういう良い面もあるのよね、イタリア...
と、
朝から、とても清々しい気分になった、
ある日の出来事である。