「返事はいらない」 宮部みゆき | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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henji


出張用に買ったんだけど、ちょっと読み残しがあり、この休みで完読。


「返事はいらない」
都心で働くOLの羽田千賀子。男から別れを告げられ、自殺しようとしたマンションの屋上で知り合った夫婦から、ある「犯罪」に絡む事を持ちかけられる。
銀行の現金支払いシステムの不備に対する警告。


「ドルネシアにようこそ」
地下鉄日比谷線を週1で利用しているアルバイト学生の伸治
用事の合間に駅の伝言板に「ドルネシアで待つ 伸治」と書き残すのがささやかな習慣。
ドルネシアとは、六本木のビル街地下の有名なディスコ。もちろん伸治には縁がない。
だが半年ほど過ぎた時、その伝言に返事がついた。
「ドルネシアに、あなたはいなかったわね」
伝言板を巡って展開されるドラマ。
最後に使われる表題の言葉に、ちょっとウルウル。


「言わずにおいて」
会社の事務員として働いている長崎聡美。二十代後半にもなるのに新人が入らないため、お茶汲み業務もこなしている。
ある日、課長の挑発にとうとうキれて、退職覚悟でタンカを切って会社を飛び出した聡美。その晩、車にはねられそうになるが、その車には夫婦が乗っており、彼女をはねずに自損、炎上して死んでしまう。
不自然な出来事に違和感を覚え、探偵まがいの行動を起こす聡美。


「聞こえていますか」
小学生の「勉」。母親と祖母の折り合いが悪く、別居する事となった転居先での出来事。その家の黒電話に仕掛けられていた「盗聴器」。
なんとなく判った「真相」。そのちょっとしたホロ苦さ。


「裏切らないで」
サラ金に借金を作っていた若い女性が歩道橋から落ちて死んだ。自殺と他殺、両面から捜査が行われる。女性は死ぬ前に美容院で髪をショートにしていた。これが実は事件の大きなポイントだった。
ショートヘアに込められた意味、コワいなー。


「私はついてない」
結婚間近の姉を持つ弟。その姉が憔悴し切って家に帰って来た。会社の同僚に、借金のカタにと婚約指輪を取り上げられてしまったとのこと。今日は彼の恩師が来るのでどうしても会わなくてはならない。
ちょっと出来すぎのドタバタ「篭脱け詐欺」も交えて、話は二転三転。



「レベル7」ではちょっと辛口評価をしていましたが、この短編集は好感が持てます。
日常生活にかなり近い部分で起こる様々な「非日常」的な出来事。
トリックネタとしても時々「オッ」という閃きがあり、それなりに楽しめました。彼女はもともと高卒から「手に職をつける」ために速記の専門学校に通い、まずその方面の職についたとのこと。その後しばらく働いた後、小説教室に通ってこの世界のきっかけをつかむ事に。
この短編集は、多分初期作品だと思いますが、洗練され過ぎていない感じが、却って生活感豊かになり、印象に残る話が多かったです。やっぱ「ディスコ」のキーワードが時代を感じさせるナー。


しかし安部公房なんか読んでいると、フツーの小説にホッとする時もあります(汗)