尚、ピンクのポンポンの時計は、今も去年の夏のソロツアーで止まったままなので、登場人物が過去の出来事を考える時、1年の時差が生じますので、ご了承下さい。
バツイチの義妹が、交際中のカレシと共に久しぶりに遊びに来ると、一週間ほど前に、ダンナの携帯へ連絡があった。
交際を始めた頃にも、カレシを連れて母娘で遊びに来たことがあり、あれから半年が過ぎたので、そろそろ結婚の話が出てもおかしくないことくらいは、ダンナから義妹がカレシと共に遊びに来ることを告げられた時は予想がついた。
お盆休みを利用して身内だけの結婚祝いの席を設けるか、秋に結婚するかのどちらかではないか?という話を、ダンナとしていた。
九州出身のカレシさんは性格の良さそうな人で、初対面での挨拶の時に、自分もバツイチで、別れた前妻さんが引き取ったお子さんにきちんと養育費を支払っていることと、もしも再婚ということになっても義妹に働き続けて貰わないと経済的に難しいことを、正直に話してくれた人だった。
その話を訊いたダンナが、義妹に、経済的な覚悟があるのか?と訊いたところ、
「専業主婦になりたくて再婚する訳ではないし、今はまだ結婚を前提としたお付き合いを始めるという報告に来ただけだから」と断言し、二人揃ってダンナへの心証を良くしたようだった。
二人の言葉に、すっかり気を良くしたダンナが外へ夕飯を食べに行こうと二人プラスおまけに言った。そんな、ご迷惑でしょうから……という顔をしつつも、義妹のカレシの顔もまんざらではなさそうだったので、先回りして、
「安いファミレスにご案内するのも失礼だから、ウチで焼肉でもしましょうか? 誰が車の運転をするか?で揉めなくて済むし」と釘を刺すと、
「ありがとうございます」と、カレシさんも一応は納得してくれたので、安堵した。
私は専業主婦で、ダンナは少々、見栄をはる所がある。万が一、近所のフレンチか焼肉店へ行くことになると、大変な出費だった。
ダンナの給料が安い訳ではないけれど、もうすぐ二歳になる子供の教育費のための貯金や、どちらかの親に何かあった時の蓄えは欠かせない。
子供ももう一人は欲しいし、年に一度は近場でも旅行に出かけたい。
それに、いつまでも家賃の安い社宅に住まわせては貰えないので、不要な出費はなるべく避けるため、ダンナは毎日、お弁当とディスカウントショップで買ってきた缶珈琲持参で出勤している。
この半年の間、義妹に渡す御祝と私の仮衣装代を捻り出すため、一層の節約をするべく、ダンナの毎晩の楽しみである発泡酒も、大手メーカーの物からスーパーのブランド品へ変えていた程だった。
当然、自身の身内への出費に備えてのことなので、ダンナは文句は言わなかった。
でも、御祝儀がたまったら、元へ戻して欲しいという夫からの訴えはちゃんと受け入れたのだった。
「ちゃんと貯めておいて良かったね」という私の言葉に、ダンナも発泡酒を飲みながら、満足そうに、ウンウンと頷いていた。
秋なら留袖を借りなければならないけれど、夏なら神前挙式でなければ、手持ちのドレスかスーツで出席しても良いだろうと考えていた。
なのに、『授かり婚』とやらで、入籍と食事会だけで済ませるという二人からの報告に、安堵したのも束の間。
二人が遊びに来た三日後、姑から悪夢のような知らせを電話で受けた。
カレシさんの御両親が、せっかくの門出に写真も撮らないのは義妹に対して申し訳ないし、あちらの御近所や親戚の手前もあり、費用の全額をカレシさんの御両親が負担して、急遽、結婚式が決まったとのこと。
お昼前にカレシさんの父親が勤務するホテル内で神前挙式、その後、そのままホテルで披露宴とのことだったけれど、挙式前日に双方の親族を集めて、新郎の家で前祝の席を設ける風習が今も残っているとかで、私達一家もその宴席に出席しなければならないらしい。
急な話に、姑は夫が会社を休めるかどうか?を心配していたけれど、私は往復の交通費と九州での宿泊代や手土産代、貸衣装代を心配した。
そして出した結論が、七・九月共々、『諦める』ということだった。
夫が風呂上りに、テレビを観ながら発泡酒を飲んでいる傍で言ってみた。
「こんなことなら、仕事、辞めなきゃ良かったかも…… 育児と仕事の両立は大変だけど、共働きを続けていれば、アナタのお小遣いだって減らさずにすんだし、私も週末くらいは好きに出かけられたと思うから。それに、満足に化粧もしていない妻の顔っていうのもイヤでしょ?」
事情を察した夫が、まだ若いから素顔の方が良いよと、大袈裟に言ったけど、返事をしないでいると、DVDが出たら、僕のお小遣いから買ってあげるからと機嫌をとってきた。
DVDより、発泡酒を我慢するという言葉は出ないのだろうか?と考えながら、更に黙っていると、地雷を踏まれた。
確かに、来年もソロ魂はあるかもしれない。でも、今年とは内容が違うし、ノーカット版のDVDなんて出したら、コンサートの意味がなくなる訳で、自身も野球を観に行く割に、全く意味が分かっていない……
寝室に籠って大泣きしている間に、眠ってしまったらしい。気が付くと、ベッドに寝ていて布団が掛けられていた。
LDKへゆくと、ダンナがソファで毛布を被って寝ていた。そして、ダイニングテーブルの上に目を向けると、メモが置いてあった。
『僕の奢り、冷蔵庫にケーキ入れておきました。明日もお弁当、宜しくね。夜は麻婆豆腐でいいよ』
寝室へ戻り、去年、作ったピンクのポンポンをクローゼットの奥から出してみた。前回のソロ魂は出産を控えて、ユニット魂は産後、間もなくだったので参加出来なかったと言うよりも、参加しないことを選んだし、前回は、「また次の機会まで諦めるしかないなぁ」としか考えていなかった。
でも、今回は…… 楽しみにしていたけれど、仕方がない。麻婆豆腐が安くて、手間もかからないことを知っているだけでも、良いダンナだし、次の魂こそ参加したい!
まだ心の中がモヤモヤしてているけれど、ピンクのポンポンを握ってみた。
次回、一日でも早く握れる日がくることを願って。
{ ふと浮かびまして、
去年、
参加できなかった人達も
想像してみることにしました
「決して、イヤミで書いた訳では
ありません」
(;^^)b ]