夜の女たち | キネマの天地 ~映画雑食主義~

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夜の女たち [DVD]
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内容:巨匠・溝口健二監督が、当時国民的人気を誇った大スター・田中絹代に街娼を演じさせたことで話題となった人間ドラマ。結核で子供を亡くした戦争未亡人の房子は、密輸商の男の愛人になる。しかし、その男は妹の夏子とも関係を持ち、房子は姿を消す。(amazonより)


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はい!今週の溝口健二 監督枠は、1948年製作「夜の女たち」です!




敗戦後の大阪の街は、未帰還の夫を待つ大和田和子に冷たかった。今日も、幼児結核のわが子浩に牛乳を飲ませるため着物を売りに行くと、店のおかみは「金が欲しいおまんのやったら」とめかけをすすめるのだ。看護のかいもなく浩は死んだ。折も折、夫の戦死が戦友平田によって伝えられた。大和田の家に居づらくなった和子は平田の社長栗山の秘書となり、栗山の援助を受けながらアパートに住むが・・・。(goo映画より)






はい、終戦直後の大阪の街を舞台に、“夜の女”すなわち娼婦へと身をやつした女たちの

生きるに難い日々を描いた人間ドラマです。



夫と子を亡くした上に帰る生家もなく、身の処し方に困りやがて街娼へと堕ちていく女和子と、

その妹で朝鮮から身一つで帰還後ダンサーとして生計を立てる和子の妹夏子

そして和子の義理の妹で貧しい生活を嫌い家出した若い娘久美子

この3人を軸に、戦後の混乱の最中生きることすらままならない女たちの憐れさを

描き出しています。



溝口監督と言えば“女”を描くことに定評があった方ですからね、しかも盟友田中絹代

主演に据えた本作はまさに監督の得意分野と言えるはずなのですが・・・

・・・う~ん、戦争とともに低迷期に陥っていた溝口監督が完全復活を遂げるのは、

やっぱりもう少し後の事なのかな。



話としてはひたすら気が重くなる内容です。

真面目に生きていては男共にクイモノにされるばかりか同じ女にまでも出し抜かれ虐げられる。

生き抜くためにはよりしたたかにならざるを得ず、暗く荒んだ奈落へと堕ちていくしかない

女たちの姿からは、逞しさよりも哀れさをより強く感じてしまいます。



ただ同じリアリズムに依った作品として比較してしまうと、やっぱり1936年の溝口作品

「浪華悲歌」 ほどのキレ味は感じないんだなぁ。あちらでのまるで短刀を突きつけるかのような

冷徹さが、本作ではいささか鈍ってしまっているように思える。

女性を描くのが得意とは言っても溝口監督は決してフェミニストではなく、むしろどこか

突き放したような見方で「女の性(さが)を暴きだす方なんですけどね、この作品では戦後の

貧しい暮らしに苦労する女性たちに対して憐憫の情でも湧いたのでしょうか、

傍観者に徹し切れていないようで、それが本来のリアリティを損なってしまっているように

思えました。

特にラストシーンはねぇ…らしくないような気がするんだけどなぁ。



とはいえ、主演の田中絹代さんはやっぱり素晴らしかったですよ。

「病に伏せる子を懸命に看病しながら夫の帰還を待つ貞淑な妻」から一転、

「男達を憎み世の中を恨む娼婦街のすれっからし」への変貌ぶりは御見事の一言です。

失礼ながら例えば原節子さんのような眩いほどの美人さんでは決してない田中絹代さん

ですけどね、さすが昭和を代表する演技は女優の一人ですよ。




総評。

本作や先日の歌麿をめぐる五人の女」 などはワタシが持っている溝口健二DVD-BOXには

入っていないのですが、まぁそれも納得かなぁ、初期や晩年の作品と比べると

胸に迫るものがあまり無いんですよね。

ってわけでコレもひととおり代表作を観た後で宜しいかと思いますよー。

気が向いた方はドゾ!