「食道楽」/明治家庭料理一考 | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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村井 米子, 村井 弦斎
食道楽 (1976年)
新人物往来社

明治時代のベストセラーだったという「食道楽。この本は、父弦斎が書いた「食道楽」を、娘米子が抄録及び加筆訂正したもの。家庭料理の大切さを、登場人物に託して諄々と説く、食に絡めた話が続く。そうだなぁ、全てを料理に絡めるという点では、漫画『美味しんぼ』(栗田さん、双子に続き、三人目、ですぜ)のようでもあり、登場人物に託して自らの教え、考えを説きつつ、登場人物たちのドラマを描くところは、『三島由紀夫のレター教室 』のようでもあり。

概ね楽しく読んじゃいましたが、流石、明治とも言うべきか。気炎を上げるも、西洋をすべからく良しとし、手本とする様には、今読むとちょっと色々異論があるかも。

目次

春の巻
夏の巻
秋の巻
冬の巻
跋―父弦斎の思い出


に粗筋が良く纏められているので、引いちゃいます。

大原満君という田舎出文学士が主人公で、親友の小山夫妻と中川君、中川の妹お登和嬢が料理上手の佳人でヒロインである。小山文学士も中川文学士も、カンカンガクガクの新進気鋭のサムライ。互いに会えば、夫人や妹に美味しい料理をつくらせ、大食漢大原君にご馳走し、談論風発。
お登和嬢の料理の腕と、やさしさに感銘した大原が、やっと小山君に頼んで、中川兄弟の心を動かし、結婚の約をとりつけ、有頂天になったとたん、郷里の両親が本家の叔父叔母とお代嬢を引きつれて上京する。お代さんは、かねて親同士の決めていた相手で、大原の学費も、半分は本家で出してきた恩義もあるのだ。
一方、お登和嬢に料理を仕込んでほしいと、広海子爵は娘の玉江嬢を通わせ、覚えた料理三十六品の宴で三人の文学士を招く。中川は風流亡国論、小山は感情亡国論、大原は心の礼をかかげ、新雑誌発刊の話がまとまり、玉江嬢と中川は婚約する。

ふるーい、ふるーい本なので(明治三十六年春から、和綴じで刊行されたとのこと)、プディングはプデンだし、リブロースはレブロース、サーロインはサラエンロース、ピラフはペラオ、トマトは赤ナスなどと、ちょっと考えないと一瞬あれ?、と思うものも(娘、米子により、注が付けられているものもあり)。でも、明治時代にこんなに色々な料理を作っていたとは! お菓子なども、凄い種類なのです。

兄と妹の家庭や、新婚家庭に女中さんが居るのも時代だなぁと思うけれど、「上等にしますと・・・」、「軽便にいたしますと・・・」、「・・・・も手軽です」などの言い回しも何だか楽しい。でも、彼ら彼女らの仰る「手軽」は全然手軽じゃないんですけどね・・・。料理自体は茹でる時間がすっごい長かったり(これは、ガスではなく、炭火の時代というのもあるらしいのだけれど)、何かと卵の黄身を入れて「ドロドロにいたしますと」になってるので、読んでる限りはそんなに美味しそうには思われない。でも、この探究心には敬服させられる。「文学士」という辺りも時代よね、と思うけれど、文学士、大原の身の上も含め、興味深く読みました。

← 文庫も。上巻の方が単行本表紙と同じ絵のよう。
                            大隈重信の台所だそう。

 ← 狐狸庵先生、気になります。



*臙脂色の文字の部分は引用を行っております。何か問題がございましたらご連絡下さい。