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2006-10-14 22:21:04

「アラビアの夜の種族」/そして、物語は続く・・・

テーマ:角川書店
 
古川 日出男
アラビアの夜の種族  

物語はそれを聞くことを望む者の前に姿を現し、物語は語られることで不滅の存在となる。そして、物語を識った者は、その者自身が一冊の本となり、またその者自身の物語をも含んで、物語は続いていく。これは、そんな物語。きっと永遠の物語。

系統は全然違うけれど、物語の中に内包される物語、という点では、恩田陸の「
三月は深き紅の淵を 」を思い出した。 

これは、一冊の稀書を巡る物語。

ナポレオン・ボナパルトに侵攻される直前のカイロ。イスマーイール・ベイに仕える、一人のマムルークの若者、アイユーブが夜毎暗躍していた。イスマーイール・ベイは、二十三人いるベイ(知事)たちの間で、現在三番手のベイ。一番手、二番手の、ムラード・ベイとイブラーヒーム・ベイは、煌びやかで美々しいマムルーク騎馬隊の能力を、露ほども疑わないが、しかし、イスマーイール・ベイただ一人は、「騎士道」が廃れた近代戦をおぼろげながらも知る。美が即ち強さそのものである、騎士道の世界は、西洋では既に終焉を迎えた?

命ぜられる前に、常にイスマーイール・ベイに先んじて策をとるアイユーブが、近づくフランク族の脅威に対してとったのは、一冊の稀書。それは類稀なる書であるという。読み始めた者は、その本と「特別な関係」に落ち入り、うつし世のことを全て忘れ去る、別名「災厄(わざわい)の書。これをあのフランク人に、献上しようというのだ。そう、公式(おもて)の歴史には決して残らず、非公式(うらがわ)の歴史にのみ、語られるこの書を・・・。それは誰も知らぬ刺客となる・・・。

「災厄(わざわい)の書」を語るのは、夜(ライラ)とも呼ばれる、夜の種族(ナイトブリード)、ズームルッド。その声は甘い蜜の舌で語られ、夜毎語られるその言葉を、流麗な書体を操る書家と、助手のヌビア人の奴隷が余さず写しとる。そして、物語を聞く、アイユーブと書家、ヌビア人の奴隷もまた、夜の人間となった・・・。

語られるのは砂の年代記。砂漠の歴史。「もっとも忌まわしい妖術師アーダムと蛇のジンニーアの契約(ちぎり)の物語」と呼ばれるその物語には、複数の挿話が織り込まれ、その一遍一遍は主人公を異にする独立した物語である。しかし、語りが進むにつれ、それは巨きな物語に収斂する。別名、「美しい二人の拾い子ファラーとサフィアーンの物語」「呪われたゾハルの地下宝物殿」としても知られるこの物語の運び手は、わずか少数の選ばれた語り部、聖なる血を秘めた夜の人間のみ。そう、まさにズームルッドのみが、この物語の運び手である。

語られる物語は、二十数夜にも及ぶ。夜の物語にとっぷり漬かった後、夜が明ければ、待つのはカイロの危機的状況。ズームルッドの語りが佳境を迎えるにつれ、カイロの状況はますます悪くなる。すっかり夜の人間となった書家とヌビア人の助手は、カイロの危機的状況も知らずに、美食と美しい物語に耽溺し、充実した時を過ごすのだが・・・。アイユーブの計略は、さて、実を結ぶのか?

夜の間に語られる、長い長い物語をとっぷりと楽しんだ。アラビア色の溢れる艶やかなこの物語は、読んだことないんだけど、「千夜一夜物語」的でもあるのかな、と思ったり。純粋な人間としては、完璧の極みに辿り着いた、呪わしく醜い呪術師、アーダム。無色(いろなし)の皮膚(はだ)を持つ麗容の魔術師、ファラー。無双の剣士、美丈夫のサフィアーン。彼ら三人の物語が混じり合い、撚り合わされる様は圧巻。

これは彼ら三人の愛の物語でもあって、ファラーがひとり、人外境(ジンニスタン)に留まることを決めたのは切なくもある。美が善である世界において、醜く生まれ付いてしまったアーダムの純情、彼の報われなかった想いもまた切ないし、サフィアーンの純真無垢さはこれは救い。三者三様の世界が、色鮮やかに立ち上がる。

そうして、物語を聞き終わったアイユーブは、今度は彼自身が一冊の本となり、アイユーブの人生が語られる。ラストはある日本人作家の物語へと、舞台は移る。そうして、物語はきっと続いていく。ズームルッドから糸杉に、語り手が変わるように・・・。

語り手と聴き手がある限り、物語は存在する。物語は不滅だ。

目次
聖還暦(ヒジュラ)一二一三年、カイロ
 第一部 0℃
 第二部 50℃
 第三部 99℃
仕事場にて(西暦二〇〇一年十月)

・マムルーク(Wikipediaに
リンク
・ナポレオンのエジプト遠征について(Wikipediaに
リンク ) 

←長いな~、と思いながら読んでいたら、文庫では三分冊されていました。

いやー、しかし、こういう物語はこの「長さ」も魅力の一つですなぁ(っても、読むのがそう遅い方でもないと思われる自分が、一週間びっちり読んでました。ま、一日の内で、純粋に読書に当てられる時間も、そう多くはないけど。にしても、な、長い・・・)。「物語」を愛する人間には、たまらない本だなぁ、と思いました。面白かった! 

トラバが飛ばない「みすじゃん。」のおんもらきさんの記事にリンク → 
アメブロ、なぜ一部のfc2ブログからのトラバを弾くの~?(困)

コメント

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1 ■一太郎

いやぁ~。
ついに読んでくれたようだねぇ。
bookbathどのに
ここで近日「アラビアの夜の種族」
が紹介されるからと10日ほど前に宣伝しておいたから、なかなか紹介されないからお気に召さないのかしらと気をもんでいたら
どかんと出たからびっくりして倒れそうになってしまったねぇ。

これでつなも
古川日出男の種族の仲間入りというわけだけど、
文庫版だと3冊にもなる濃厚なお話だから
うんざりしてしまったのかと思ったよ。

最新作の LOVE、ルート350もぜひ読んでもらいたいねぇ。

これで出口が見つかれば最高なんだけど
なかなかそうはいかないみたいだねぇ。

ここはどこかしら?

2 ■>一太郎takam16坊ちゃま

いやー、読了までに、えらい長いこと掛かってしまいました。笑 面白かったです! 美が善である世界に生まれ付いてしまった、醜いアーダムの純情も切なかったし、異形のファラーの生涯もまた切ない。唯一、サフィアーンはちょっと能天気?、とも思いましたが。笑(でも、純然たる王子とは、あんなもんなのかな)
早速、「ルート350」を予約しようと思っています。次は「サウンド・トラック」が気になるなぁ、と思っていたのですが、「LOVE」も一太郎坊ちゃまのオススメなのでしょうか? いい作家に、また一人めぐり合えて、嬉しいです♪

>これで出口が見つかれば最高なんだけど
なかなかそうはいかないみたいだねぇ。

ふははははは!
我が地下迷宮は永遠なり!
ここから、生きて出られるものと思うな!
(妖術師アーダムより。笑)

3 ■随分前に読んだのですが。

引きずり込まれる面白さの凄さは未だに鮮明です。
読む終わった後の高揚感は他になかったですね。
古川作品はこれが最初だったので余計に強烈でした。

4 ■なんと

地下迷宮だったのですか…(笑)。
確かに記事が増えたブログは迷宮ちっくかも。検索も役に立たないし。

文庫三分冊ってすごいですね。
サフィアーンはも少しなんとかならなかったのかと思いました。それとジンニーアのセリフまわし(笑)。
ああでも面白かったのにけっこう忘れてしまっている自分が悲しい…。

5 ■>ぐるぐるさん

私もこれが、初・古川作品なのです♪
ほんと、引きずり込まれる面白さでしたねー。頭の中で、どんどん映像化されていく感じでした。
ええ、読み終えた後も、ネットをぐるぐる回って、みんなの感想を覗いてしまいました。笑 私もとっても、高揚してたっぽいです。

6 ■>rizwordsさん

・・・・アーダムごっこしてたのが、バレた!笑
そうですね、アメブロは時に「存在しない」とか言われちゃうし(笑。でも、大分減りましたかねえ?)、まさに迷宮なのかもー。

そうなんですよ、画像を貼ろうとして、ちょっと吃驚。<文庫三分冊!
どうりで読み終わらないはずだよなぁ、と。笑

サフィアーンはね、確かに。笑 でも、王子さまだから、あれくらい単純でもいいのかもしれませんね。笑
ジンニーアはね、ふふ、実は私、あの台詞まわし、結構好きだったのです!笑 あの下世話な感じがたまらない・・・。笑<悪趣味

読んでも読んでも忘れてしまうのは、私も一緒です~。せめて、ブログに書き残しておかないと~。笑

7 ■アラビアの夜の種族!

一度書店でチラっと立ち読みし、そのときはお金がなくて(泣)買えず、
後日「アラビアの夜の物語(脳内変題)」でさがしまくったけどなかなか見つからず(当然)苦労した本です!

読み終わってすぐは余韻が残って書評書けず、そのままほったらかしてたらますます書けず・・・

でも、やっぱり書こうかなぁ

8 ■>ridiaさん

あー、分かります! その脳内変換!笑
「夜の種族」なんて、なかなか聞かない単語ですもんね。
物語を楽しむ物語でしたよねー♪ 私は勢いで記事上げてしまいました。笑 しかし、良くこんな話を考えたなぁ、と感心してしまいました。
ridiaさんも、是非書きましょうよー。笑

9 ■読みたい!

文庫版が出てたのは認知してましたが、、、
この記事を拝見して、すっごい読みたくなりました。
文庫版3冊買いましたが、読了まで時間がかかりそうなので、まずは「読みます」宣言のみで(笑)

10 ■>読みます宣言。笑

>いちみさん
えへへー、これ、面白かったですよー!
最初ね、暫くコメントが付かなくって、面白かったのにー!、と実はちょっと淋しかったのです。笑
文庫版三冊、既に入手しておられるのですね。
rizwordsさんも言及されておられるように、ジンニーアの台詞回しはなかなか凄いんですが(かなり下世話。笑)、あれが楽しめる人には面白く読めると思いますよ。
記事、楽しみにしてまーす。

11 ■ジンニーア!

うふふ。キャラが濃いですよねぇ。あの口調は大丈夫かと思ったけど、ぶっとんでて、途中からすごく楽しくなりました。
ファラーの章はとても壮絶だったのですが、サフィアーンが中和してくれました。こういう正直者っていうのが昔の話には必ず出てきます。王道貫いてるなという感じがして好きです。捻くれ者は捻くれて、強い者は強く、優しい者は優しい。昔話ってそうそう、こういうの!て思えて、安心して読めました。その代わり、アイユーブが大どんでん返し担当で、切なかったですけど。
いやぁ、いいですよねぇ。このお話。今、古川さんの「ベルカ吠えないのか?」を読んでます。
TBさせてくださいな。

12 ■あ!

ごめんなさい。TB外してるんですね。
うんうん。スパムうざったいですもんね!

13 ■>喋喋雲さん

うふ、ジンニーア、いいですよねえ。笑 姫に入っちゃったときの、あの傍若無人ぶりも実は好きでした。笑 そうそう、段々楽しくなるの!
ああ、そうか~、これはほんとに昔話、昔語りでもあるんだ~。途中、ええー!サフィアーン!と思ったけど、実は安心して読めますもんね。笑
アイユーブはねえ、うん、でも、こうやって物語りは物語を飲み込んでずっと続いていくんだなぁ、としんみり思いました。
TBはごめんねー! いやー、一度、一日で500件つきまして・・・。アメブロがどうにかなるまで、解除出来ないかもー。涙
「ベルカ~」はどうですか? 私は「ルート350」を微妙に挫折気味です・・・・。短編だからさくさく読めるかと思ったのに、どうもこちらは今ひとつノレない。

14 ■コメント遅くなりました

まれにある「長いのが嬉しい物語」でしたね。

いやぁ、私、ファンタジーにはウブなもので、前後の著者の翻訳についての記述を頭から信じてしまいました。まぁ、ある意味幸せな読み方でしたが。

古川氏のことを調べると、初期のころウィザードリィのノベライズもしているとのことで、納得でした。

アーダムのネジレぶりが面白くも、「古川氏はきっと締め切りに追われて眠れない日々がつついたのをいまでも恨みにおもっているのかな」と読後しばらくして思いました。

「ルート360」はまだ未読です。
私は初期の「13」「沈黙」がお薦めです。

15 ■>bookbathさん

こんばんはー。
ええ、ほんと、これは長いのが嬉しい物語でしたねえ。この長さも魅力♪

あはは、「仕掛け」、凝ってましたからねえ。笑 ネットでも、騙されたー!!と書かれている方を、しばしば拝見しました。笑 でも、これは騙されるのも幸せですよね?笑

そうそう、地下迷宮はウィザードリィと関連しているらしいですね。ウィザードリィはやった事がないので、良く分かんないんですが・・・。

アーダムは捩れてるし、眠れないし! そ、そうか、あの不眠はその恨みが。笑

「13」「沈黙」ですね。探してみます。実物を見ずに、「サウンド・トラック」を予約して借りたのですが、これもまたなっがいのです。うー、ちゃんと読めるかなぁ。笑

16 ■今日も無理でした。

改めて読んで、改めて感想書いてみました。

しかし最後の最後に”物語”にやられましたね。実は三重構造になってたとは。やっぱ古川さんは曲者(笑

思えばこれがつなさんの紹介記事見て読んだ最初の本かもしれません。そしてTB欄がつなさんで埋まる現在に至るわけですが(笑) ホントお世話になってます。

17 ■>おんもらきさん

こんばんは。
いやー、ほんと、毎度毎度申し訳ない。
記事中、リンクしておきました。

再読して、また書くのもいいですよね♪
これはまた、再読のし甲斐がある類の本ですしねえ。
ふふふ。古川さん、いいですよねえ。
もう、こんなんだったら、いくらでも騙して!、と思う。笑

そっか、この本が、このサイクル(?)の始まりでしたか。笑
そして、今日もまた、トラバ欄にまた一つ・・・。笑

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