「封印漫画大全」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

封印シリーズの最新刊。
今回は「漫画」に限定し、
どの表現のために封印に至ったのか、
その背景や封印までの顛末、
作者が表現したかったことを解説。


「封印漫画大全」
坂 茂樹 :著
三才ブックス/2009.10.9/1300円


月灯りの舞

漫画のすごさ、素晴らしさを布教するのは
そんな漫画バカの皆さんにお任せするとして、
本書は僭越ながら、その極北であるかもしれない
漫画の裏面史を追っていきたいと思う。


ビジネス的な観点からすれば、
本書で取り上げた作品の多くは賊軍という
ことになる。

ただし、スリリングな面白さでは
こっちの方が勝っている。

なぜなら、もともと漫画はスリリングな
媒体だったからであって、しかも漫画家の
魂は多分に前衛的で戦闘的だったからである。

          <前書きより>



様々な理由によって、単行本が発売されない作品、
単行本から削除された作品、
一部を変えて発売された作品など、
封印漫画の歴史が見えてくる。


誰もが知っているような有名漫画家、
有名漫画のものから、
かなりマニアックなものまで揃えている。



封印シリーズはいろいろ読んでいるけど、
これはかなり読み応えがあった。


時代ごとに、一つの作品を見開き2pから6pに
渡って解説。

問題となったカットの部分も掲載されている。

修正後に掲載されることになったカットは、
修正前との比較カットも表示されている
ものもある。



差別的なもの、エロすぎるものというのは、
誰が見てもわかりやすく、
作者も意図しているところはあるのだろう。

時代によっては、その位でというものもあれば、
逆に、今の時代なら絶対書けないだろうという
過激なものまである。



だけど、作者の意図せぬところで、
解釈されてしまい抗議されたものもあり、
そんな作品に関しては、作者の無念さが伝わる。


自主規制や連載打ち切りに追い込まれた作品、
一度そういうレッテルを貼られてしまった作者の
その後の失速を読むと、いたたまれない。


表現の難しさというものを改めて感じる。


意外に「人肉」ものが取り上げられいる。
極限状態においての「人肉食い」は
ヨシとされることもあるようだが、
安易に描けないテーマである。


1980年発行の実験的漫画誌「ポップコーン」に
掲載された赤塚不二夫のブラックジョークな
ギャグ漫画「キャスター」は過激だ。


“人肉料理レストラン”だもの。
へその緒ヌードル、脳みそどんぶり、胎児ピザ……って。

もちろん即刻回収だったようだが。


赤塚漫画の「面白ければ、それでいいのだ」って
わけにはいかなかったのだろう。


料理漫画ナンバーワンの「美味しんぼ」にも
「謝罪」したエピソードがある。


離乳食を与えるシーンで、
乳幼児に与えてはいけない食品を与えているシーンが
「不適切」と抗議されたものだ。


これは作者自身の経験を元に書いたそうだが、
社会情勢や日本人の健康事情の変化によって、
食品事情も変わっていることを見落としたようだ。


やはり影響力の大きい漫画ならではであろう。
漫画といえども、特に「食」に関するこというのは、
細心の注意が必要だ。



漫画の表現ではなく、「注釈」に寄って、
抗議されたケースもある。


1996年「別冊フレンド」に掲載された漫画で、
とある大阪の地名に対して
「気の弱い人は近づかないほうが無難なトコロ」と
欄外に注釈がついている。


その地域に住む中学生が教師に報告し、
その地区の団体から抗議が来て、
謝罪、連載打ち切りとなったという。


でも、この注釈をつけたのは作者自身ではなく、
副編集長だったらしいが、著者が謝罪文を掲載。

漫画自体は全く差別とは関係ない話だったのに、
こういうカタチで連載が打ち切られたのは
作者も無念だっただろう。


逆に抗議した団体も「漫画を打ち切りにした団体」として
逆に抗議されることになり、再度経緯を説明する
二度目の謝罪文も掲載されたという。



絵でも言葉でも、全体を見ずに、
ある一部だけを取り上げて抗議されたり、
作者の意図とは別なところで悪い方に解釈されたり
することも多々ある。


表現するものとしては、考えさせられることが
多い本であった。



★「差別と向き合うマンガたち」20071112
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10055637527.html


★同じ三才ブックスのこちらは映像版
「放送禁止映像大全」 20051003
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10004797170.html

★「実録 放送禁止映像全真相―封印解除」20090102
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10187234567.html


★太田出版の封印シリーズ
「封印作品の謎」安藤 健二:著 20051003
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10004797170.html

★「封印作品の謎 2」安藤 健二:著20060307
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10009942263.html