静嘉堂文庫美術館で「錦絵の美―国貞・広重の世界―」(前期)を観た! | とんとん・にっき

静嘉堂文庫美術館で「錦絵の美―国貞・広重の世界―」(前期)を観た!




静嘉堂文庫美術館で「錦絵の美―国貞・広重の世界―」を観てきました。静嘉堂文庫が所蔵している「国宝」が7点あることは以前から知っていました。とんぼの本「国宝」(芸術新潮編集部編:1993年5月20日発行)に載っているからです。「静嘉堂文庫創設百周年・新美術館開館記念 優品展」という図録も持っています。しかし、「錦絵」を所蔵しているとは、今までまったく知りませんでした。いや、単に僕が知らなかったというだけですが、それにしても驚きました。


今回は「錦絵の美―国貞・広重の世界―」展、歌川豊春門下の、国貞と広重が取り上げられています。豊春の弟子、豊国の弟子が国貞、豊春の弟子、豊広の弟子が広重というわけですから、二人とも豊春の孫弟子に当たるわけです。国貞と国芳は兄弟弟子、国芳の弟子が月岡芳年、その弟子が水野年方、その弟子が鏑木清方、その弟子が伊東深水と続くとは、驚きました。身時で書くとよく分かりませんが、「歌川派略系図」を見れば一発で分かります。が、それぞれ持ち味が大きく違うのが不思議です。


まあ、それはそれとして、ここでは独断で国貞を取り上げたいと思います。下に載せた「歌川国貞―美人画を中心に―」(平成8年2月24日発行)という図録が手に入ったことにも拠ります。広重は「六十余州名所図絵」8点と、国貞と協働で描いた「双筆五十三次」15点、これらはよく観られるものですが、そして大判錦絵3枚続の「阿波鳴門之風景」1点だけが出されていました。さすがに「阿波鳴門之風景」は見応えのあるものでした。


広重の見慣れた錦絵と比べると、国貞のヴァリエーションの豊富さには脱帽です。ご存じの方はご存じなのでしょうが、なにしろ僕は国貞は初めてですので。基本的には「大判錦絵」ですが、ここでは主として「大判錦絵3枚続」を取り上げます。当然ですが、「3枚続」になると情報量が多いので描かれた絵が俄然生き生きとして、しかも迫力満点です。


入り口正面に、ガーンと「今様見立士農工商」がありました。「商人」は、「東錦絵」と染め抜かれた長暖簾の後ろに、錦絵問屋の店先で働く人たちが描かれています。一方「職人」は、浮世絵版画の分業化された絵師・彫師・摺師の働く様子を描いたものです。男性の作業をすべて美人に見立てています。以下、「北国五色墨」、「集女八景」、「星の霜当世風俗」、「江戸自慢」など、シリーズ毎に取り上げてみました。チラシやポスター、そして図録の表紙も「江戸自慢 四万六千日」です。右上に向かって斜めに立ちのぼる蚊遣りの煙と、子どもが引っ張って、女性の解けかかった帯から袖の線が妙に色っぽい。コマ絵は浅草寺の遠景。四万六千日とは旧暦の7月9日10日に行われる縁日、この日に参詣すれば四万六千日詣でたと同じ功徳があるとされた。他に、蚊帳の表現がいくつか見られます。彫りと摺りの高度な技術を用いての涼感が見事です。


「北国五色墨」、江戸の町では吉原を北、品川を南と言いならわした、つまり北国とは吉原遊郭を指します。国貞は歌麿の作品に発想を得て、題名もそのまま借りています。「集女八景」、中国の景勝地に取材した伝統的画題として著名な「瀟湘八景」にかけて、江戸美人の全身像を描いた8枚そろいのものです。「星の(や)霜当世風俗」、八花形の縁の古鏡風枠内に題名がかかれています。「星の霜」としたもの、「星や霜」としたもの、各5図、計10図があります。「江戸自慢」、江戸の夏から初秋にかけての風物をコマ絵に配し、女性の夏姿を描いた季節感溢れる10枚そろいの美人画シリーズです。内5図は子どもを配しています。ここでは取り上げませんでしたが、鏡に映る顔で女性の美しさを描いた「今風化粧鏡」というシリーズも出されていました。


「雪のあした」、正月の朝、雪が降り積もった井戸端に、近所の女将さんや子供たちが集まってきます。手桶には寿の文字が見え、正月気分を盛り上げています。「月雪花ノ内 向島月見」、隅田川の東岸にある向島、対岸には墨絵のように浮かぶ浅草の風景です。動きのある三人三様の姿も面白い。「歳暮乃深雪」、向かい風の雪道で行き悩んでいる二人の美人、向こうから頭巾を頭からかぶって、大徳利を持った美人と行き合います。「卯の花月」、陰暦の4月、粋な初鰹売りが、長屋の女将さんたちに囲まれて鰹をおろしている場面です。「七代目市川団十郎の菅丞相五代目瀬川菊乃丞の梅王丸『菅原伝授手習鑑』天拝山の場」 は、「長判摺物」です。























「錦絵の美―国貞・広重の世界―」展

江戸時代後期(18世紀後半)以降、盛んに制作され、人々を魅了した木版多色摺浮世絵は、「錦のように美しい」という意味で、錦絵と総称されます。錦絵は、現代のテレビコマーシャルやポスターのような報道的な役割をも担い、人々は絵を楽しむと共に、そこから様々な情報を得ていました。その錦絵界を代表する浮世絵師、歌川国貞(三世歌川豊国、1786-1864)と歌川広重(1797-1858)。特に、国貞は美人画と役者絵、広重は風景画の名手として知られています。本展では、この二人の作品の中から代表作を選び、精緻を極めた彫り・摺りの技術的側面にも光を当てつつ展示致します。いきいきとした江戸の女性たちの姿や、旅情あふれる名所の数々を、鮮やかで美しい色彩と共にお楽しみください。


「静嘉堂文庫美術館」ホームページ


とんとん・にっき-kunisada 「歌川国貞―美人画を中心に―」

図録

平成8年2月24日発行

編集・発行:静嘉堂文庫










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