東京国立博物館平成館で「大琳派展 継承と変奏」を観た!
2008年は、尾形光琳が生まれて350年目に当たるそうです。従って今回の展覧会は「生誕350周年記念」と「大琳派展」の前に銘打たれています。では副題の「継承と変奏」はどういうことか?琳派は代々受け継がれる世襲の画派ではなく、光琳が本阿弥光悦、俵屋宗達に私淑し、その光琳を酒井抱一らが慕うという独特の形で継承されてきました。今回の「大琳派展」は、琳派を代表する本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳、その弟尾形乾山、酒井抱一、鈴木其一、の6人の優れた作品により「琳派芸術」を展望したものです。国宝7点、重要文化財34点を含む絵画、書跡、工芸など、各分野の名品約240点が展示されました。同じテーマの作品を比較しながら観ることにより、琳派の系譜を具体的に辿ることができること、対比して展示されることによって各作家の独自性も明らかにされるというわけです。
実は出光美術館で開催された「国宝 風神雷神図屏風」展の時に、「琳派芸術の継承と創造」と題した図録別冊が刊行されています。そこで「梅を愛でる」では伝尾形光琳の「紅白梅図屏風」と酒井抱一の「紅白梅図屏風」を、「燕子花(かきつばた)の変容」では伝俵屋宗達の「仰木面散貼付屏風」と、酒井抱一の「燕子花図屏風」、「八つ橋図屏風」、「十二ヶ月花鳥図貼付屏風(五月・燕子花に鴫図)」を、「秋草図の遺伝子」では伝俵屋宗達の「月に秋草図屏風」と酒井抱一の「夏秋草図屏風草稿」、鈴木其一の「秋草図屏風」を比較しています。そして「受け継がれる琳派―抱一の光琳顕彰」として、抱一が文化12年(1815)、光琳100年忌に臨み、大塚にて法会とともに遺墨展を行い、「光琳百図」上下2冊、「緒方流略印譜」を刊行したこと、そしてその後も抱一は光琳研究を継続して行い、亡くなる2年前の文政9年(1826)には「光琳百図後編」上下2冊の形で上梓したことも記されています。
出光の「継承と創造」が、今回は「大琳派展―継承と変奏」となりましたが、それが今回の展示作品の中で「琳派の継承」が如実に出ているのは「風神雷神図屏風」であることは言うまでもありません。「風神雷神図」は、宗達作品を光琳が模し、それをさらに抱一、鈴木其一が模し、先達の作品にに誘発され、同じ題材の作品を描いているのが琳派の特徴です。出光の「風神雷神図屏風」は、宗達、光琳、抱一の3人でしたが、今回はそれに鈴木其一の「風神雷神図」が加わり、計4作品という豪華な展示でした。
俵屋宗達の国宝「風神雷神図屏風」は京都・建仁寺にあるもの、玄関を入ると目の前に展示してありました。が、それは実は「レプリカ」でした。尾形光琳の重要文化財「風神雷神図屏風」は東京国立博物館の所蔵品です。酒井抱一の「風神雷神図屏風」は出光美術館の所蔵品です。この3作品が、出光美術館で開催された「国宝 風神雷神図屏風 宗達・光琳・抱一 琳派技術の継承と創造」展で出展されたものです。鈴木其一のそれは「屏風」ではなく「襖」でした。「風神雷神図襖」、これは東京富士美術館の所蔵品です。8枚の襖に描かれたものですが、元々は4面の襖の表と裏に描かれたものだそうです。この作品は僕は今回初めて観ました。
それがなんと、酒井抱一の「夏草図屏風」は、金地に描かれた光琳の「風神雷神図屏風」の裏面に描かれた裏絵、銀地の屏風だったという。師匠の金地に対して抱一の銀地、光琳を崇拝しつつも、自らは裏面で京都とは異なる江戸の美意識を表しました。風神の裏には、左隻の秋風にそよぐススキや紅葉したツタが描かれています。雷神の裏には、右隻の夏の夕立に打たれた昼顔、白百合、オミナエシなどの夏草が描かれています。もちろん、現在は切り離されて別の屏風となっていますが。この話は朝日新聞の「水曜アート」(2008.10.29)で、僕は初めて知りました。
光琳の「風神雷神図屏風」の裏に抱一の「夏秋草図屏風」。MOA美術館にある国宝「紅白梅図屏風」、尾形光琳の傑作ですが、金箔を張り合わせた屏風にうねった大きな流れがあり、紅白梅が描いてあるもの。それが蛍光X線分析による化学的な分析の結果、金の存在を確認できなかった、金箔ではなく、金箔らしく描かれたものだったという話に匹敵する驚いた話でした。
「日本建築」は柱と柱の間にスライドする板戸を入れて、のちにはそれが襖や障子になるのですが、この構造体の間にスライドする板戸があるのが特徴です。部屋と部屋の間に、あるいは部屋と縁側の間に板戸が挟み込まれますが、それは両面が見られるものです。俵屋宗達の「白象図・唐獅子図杉戸」と「唐獅子図・波に犀図杉戸」は、ともに京都・養源院にあるもの。霊獣の上下の動きは「阿吽」の形式で描かれ、狛犬ともなっています。東照宮や輪王寺の建築彫刻の唐獅子や犀と同じ、外的から墓所を護り、魔を退ける意味を持つと言われています。今回の展覧会ではやや異質な展示品と言えるかもしれません。
(記事、続きます)
図録
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