昨日アップした「ヤマザキパンはなぜカビないか」には、たくさんのコメントをいただきました。
こんなにコメントをいただいたのは久しぶり、かな?
(しかし、アクセス数では「ブータン国王夫妻、雅子妃・愛子さま、デヴィ夫人」を書いた翌日・翌々日がすごかったです。11/19は、アクセス者数1,641人、2,442ページビューという数字でした。びっくり!
その後、順調に減っています;笑。
これほどアクセスが多かったのは、3/20の「ベクレルとは」の記事以来です。)
「ヤマザキパン」の記事についての皆さんコメントを読んで、もう一度じっくり考えないと!とさらに調べてみました。そこでわかってきたこと・考えたことを整理して書いてみます。
(1) ヤマザキパンにはカビが生えないのか?
まず未開封のヤマザキパンにカビが生えないのは、カビの胞子が入らない衛生的な製造工程で製造され、包装もしっかりしているからです。もともとカビの胞子がなければカビが生えるはずがありません。
なぎぽんさんから、ヤマザキパンが未開封でも長時間でカビが生えたというコメントをいただきましたが、運悪く胞子が付着していたのでしょうか。無菌室で製造しているわけではないので、そういうケースは完全にゼロにはならないのでしょう。
山崎パン自身の記事でも、
「各製造機器に清掃手順書を定め、決められたスケジュールにより清掃を実施し、衛生的な製造環境の維持向上に努めています。」
と清掃によって衛生的に保つことを「努力」していることを強調しており、保証はしていません。
開封後にカビが生えないのかどうかについては、渡辺氏の実験によると他社品と違ってヤマザキパンだけカビが生えないとされているようです。一方、山崎パンのホームページに記載の実験によると、カビの胞子を接種すれば、ヤマザキパンも他社品も2~3日以内にはカビが生えるとの結果になっています。
全く対照的な実験結果、どちらの実験が正確なのかは推測になります。
私は渡辺氏のこの本は読んでいないものの、週刊金曜日などで度々彼の文章を読んでいます。いつもの書き方から想像すると、とても正確な実験をしてそのデータをきちんと示しているとは思えません。
一方の山崎パンの方が、カビが生えることのない自社製のパンについてのデータを改ざんして、カビが生えますよ!と主張している、とはとても思えません。実際、いただいたコメントから未開封でもカビが生えた実績もあります。ヤマザキパンに強力な防カビ剤が入っていることなどはないと考えます。
「ヤマザキ食パン」は相対的に他のパンよりカビが生えるのが遅いですが、これは製法によりpHや水分量などが異なることが原因ではないかと推定することはできます。
なお、自家製や小さなお店で作られる手作りパンでは、台所やパン屋さんが山崎パンの場合ほど衛生的ではないので、パンにはカビの胞子が付着しています。したがって早く食べないと、その胞子からカビが成長してきます。
これを防ぐためには冷凍するのが最もいいと思います。私も買ったパンは冷凍しています。
(2) 渡辺雄二氏について
まず、上記の実験でも明らかなように、本のタイトルにまでしている「ヤマザキパンはカビが生えない」という最も基礎となるデータそのものが、デタラメです。他社とさほどの差はなさそうです。
その上、その原因についての仮説もまたいい加減です。単に表示されている食品添加物を比較しただけで、ヤマザキパンにだけ含まれている臭素酸ナトリウムの添加が、カビが生えない(という事実があるとして)原因だと、因果関係について何の考察もなしに、きわめて短絡的に結び付けています。これまた無茶苦茶です。
そもそも素人でもちょっと調べれば、臭素酸カリウムにカビを防ぐ作用などはないことはすぐにわかります。
さらに、その健康影響についてごく微量でも危険だと騒いでおり、毒性学の基本である量の概念が全く欠如していると長村洋一氏から批判されています。(これについては後述します。)
この人が「科学ジャーナリスト」だそうですが、失笑してしまいます。「千葉大学工学部合成化学科卒業」との経歴のようですが、こんな人が幅をきかせていると、この学科の他の卒業生の評価まで地に落ちそうです。
あるいは、そんなことは百も承知で、科学を装ってこんな風に身の回りの危険を煽る事柄を書けば、一般人を簡単に騙せて、本も売れるし講演にも呼ばれる、金儲けができる、という確信犯である可能性もありますね。千葉大学工学部の卒業生がこれほどまで科学が分かってないとはとても思えないので、こっちなのかと思えてきます。
(3) 長村洋一氏について
一方の長村洋一氏について、私はよく知らないままに前回の記事を書きました。これは確かに正しい態度ではなかったかもしれません。反省。
私は10年以上にわたって安井至先生(東大名誉教授・国連大学副学長)のブログ「市民のための環境学ガイド」を読んでおり、ここから環境・安全・エネルギー・リスクについてさまざまなことを学んできたと思います。
その安井先生が紹介されていて知ったのが、松永和紀氏。興味を持って、食品の安全についてとメディアについての彼女の著作を2冊ほど読んでファンになっていました。
その松永氏が主宰しているサイトで記事を書いていたのが長村洋一氏。というような流れで、長村氏のことはよく知らないまま、松永氏がここに記事を載せることを許可(依頼?)している人だから間違いないだろうと思い込みました。
調べてみると、長村氏は、鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授であるとともに、「一般社団法人 健康食品管理士検定協会」の理事長。
この協会のサイトhttp://www.ffcci.jp/index.htmlを開くと、トップに書いてあるのが次の言葉。
「サプリメントに関する正しい知識を持ち、食の安全・安心、健康問題に役立つリスクコミュニケーターの育成」
そして、この協会の「目的」を引用すると、
http://www.ffcci.jp/aboutus/index1_2.html
(引用開始)
健康食品管理士認定協会は、基礎医学(主として生化学・生理学)の教育が十分に行われている教育機関の学生とその卒業生に対し、栄養学や健康状態の診断に必須の臨床検査等に関する教育を行います。さらに、健康食品等の安全性、効果、医薬品との相互作用及びその取り扱いに関する知識についての教育を行います。そしてそれらの総合知識を試験し、一定以上の能力がある者を健康食品管理士として認定証を与え、国民の健康に寄与することを目的としています。(註 ここでいう健康食品とは医薬品以外の主として食品およびその成分で、健康への寄与が具体的に認められているものを総称する。)
(引用終わり)
書いてあることは立派ですが、要はサプリメントなどの健康食品の販売を促進するのに役立つ人材の育成を目的としているようです。
さらに、「日本食品添加物協会」のサイトに長村氏が何度も「特別寄稿」をされていることも見られます。http://www.jafa.gr.jp/kyokai/index.html
うーん、この人の科学者としての中立性は怪しくなってきました。
健康食品や食品添加物を売る側の立場で、その安全性を説いているだけなのでは、という疑いはしっかりと持つべきですね。
日本食品添加物協会への特別寄稿のひとつは「無添加至上主義の風潮に一言」タイトルからして、いかにも提灯記事の匂いがプンプンしてきます(!?)
この記事は、食品添加物の味の問題が中心に取り上げられていて、「無添加こそが本物で食品添加物を使っているものは下等だ」と感じる必要はなく、食品添加物ありでも無添加でも両方の味を美味しいと感じられることが幸せだ、という何とも評価が難しい文章です。
これを食品添加物協会の内部で読んでいると思うと、さらにへんな感じです。
ただ、私自身は先の記事も今回の記事も、科学的に疑問に思うところはありませんでした。とは言え、原発の御用学者と同じように、長村氏はサプリメント・食品添加物の御用学者ではないかとの疑いを持って批判的に注意して読まなければならないことは、確かです。
私は、意見の対立のある物事について考えるとき、まずは両方の意見をしっかり読んで、どちらがどの程度信用できるのかを判断できるようにしたいものだと考えています。その意味で、一般のマスコミとは異なる視点を提供してくれる「週刊金曜日」を購読し続けています。必ずしもその主張にいつも賛同している訳ではありません。
今回の件について私の今のところの判断では、渡辺氏の書いていることは全く信用できない、長村氏の書いていることは注意が必要だが科学的に破綻しているところは見られない、といったところです。
…というようなところで、まだまだ書ききれていないのですが、長くなってしまいましたので(というか、もうそろそろ寝ないと…)、今日はこの辺で終わりとして、続きは明日書かせていただきます。
明日の記事は、
(4) 臭素酸カリウムについて
(5) カビによる毒性について
(6) 食品添加物について
というような内容になるのではないかと思っています。
…思いがけず、おおごとになってしまいました、ね。