続々「ヤマザキパンはなぜカビないか」 臭素酸カリウムについて | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

昨日の続きです。

(4) 臭素酸カリウムについて

渡辺氏がカビが生えない原因とした臭素酸カリウムですが、では山崎パンはなぜ臭素酸カリウムを使っているのでしょうか?

長村氏の記事にはこのように書かれています。

ところで、なぜそんなにしてまでヤマザキパンは臭素酸カリウムを使用したいのか?という疑問であるが、これに対しては臭素酸カリウムの小麦改良剤としての素晴らしさがほかの食品添加物では代替できないようである。実際、国産の小麦ではおいしいパンは製造できないが、臭素酸カリウムを使うことにより、見事なまでにおいしいパンができると会社側は関連学会のフォーラム等で説明をしている。そして、おいしさと安全性に関して、科学的根拠を示して説明しており、それらの説明には特に誇張、改ざん等が疑われるような要素は見当たらない。


食品安全委員会のサイトに、臭素酸カリウムについて説明したページがあり、そこに「製パンにおける臭素酸カリウムの使用」の効果についても書かれていました。やや専門的になりますが、引用しておきます。

パンは、一般的に小麦粉又はこれに穀粉類を加えたものを主原料とし、パン酵母、塩などを混捏(こんねつ)した生地を発酵させた後に焼成した食品です。この発酵中の生地の物性を改良し、製パン性を向上させるために酸化剤が使われています。酸化剤は、タンパク質(主にグルテン)のチオール基(SH基)を酸化することでジスルフィド結合(S-S結合)の形成を促進する等の作用があります。この作用により、グルテンの性質を向上させ生地の伸展性を増加させてパン容積の増大をもたらし、パンの食感を改良します。このような酸化剤には、反応速度の違いにより速効型と遅効型があり、速効型にはアスコルビン酸など、遅効型には臭素酸カリウムがあります。

ざっくりいうと、パン生地を製造するときに臭素酸カリウムを添加すると、もちもちっとした食感になるようです。山崎のパンは、他の会社のものよりもっちりして柔らかいような気がします、ね。


さて、その毒性について、Wikipediaにはこのように書かれています。

 かつてはパン生地、魚肉練り製品などの改良材として用いられたが、ラット腎臓における発癌性が指摘され、国によっては使用が禁止・制限されている。イギリスは1990年、ドイツは1993年、カナダは1994年、中国は2005年、食品への使用を禁止した。アメリカは全面禁止していないが、多くの州で、臭素酸カリウムを使用した食品にはその事実をパッケージに明記するように定められている。

 日本では、パン以外の使用は禁止された。パンについても厚生労働省による行政指導で使用自粛が要請されたが、2003年、一部業界団体が、臭素酸カリウムの分析精度が向上したことを理由に、正常の製パン工程を遵守した場合には加熱により分解され、パンから測定限界で臭素酸カリウムの「残存が検出されない」(「残存ゼロ」とは表記しない)とし、山崎製パンなど、使用を再開したメーカーが出現した。ビタミンCなどを利用した代替方法が開発されていることもあり、引き続き使用していない製パン業者も多い。残存が検出されないことが前提のため、使用したことが製品に表示されず、消費者が使用の有無を知るのは困難である。しかし山崎製パンは、臭素酸カリウムを製造工程で使用した製品については、製品パッケージの裏面に「このパンには品質改善と風味の向上のため臭素酸カリウムを使用しております。残存に関しては厚生労働省の定める基準に合致しております」と注釈を付け加えている。


臭素酸カリウムには発がん性の疑いがあって、外国では食品添加物としての使用を禁止していると。これは大事なポイントです。

では、どのくらいの危険性なのでしょうか?

純物質、混合物、生活環境の発癌性リスクは、国際がん研究機関(IARC)によって、次のようなグループに分類されています。(Wikipediaより)

世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、ヒトの疫学調査あるいは生物学的知見および動物実験結果に基づいて、純物質、混合物、生活環境の発癌性リスクを評価し、定期的に勧告している。IARCの発癌性リスクのグループ分類(2006年1月に改訂)を次に示す。

グループ1:作因(Agent)は、ヒトに対して発癌性である(ヒトでの十分な証拠)

グループ2A:作因は、ヒトに対して恐らく(probably)発癌性である(ヒトでの限られた証拠,実験動物での十分な証拠)

グループ2B:作因は、ヒトに対して発癌性であるかも(possibly)知れない(ヒトでの限られた証拠,実験動物での十分より少ない証拠)

グループ3:作因は、ヒトに対する発癌性については分類できない(ヒトでの不適切な証拠,実験動物での限られた証拠)

グループ4:作因は、ヒトに対して恐らく(probably)発癌性でない(ヒトと実験動物での発癌性の欠如を示唆する証拠)



先ほどの食品安全委員会の記事によると、

IARCにおける発がん性に関する評価では、臭素酸カリウムは発がん性分類の中の「グループ2B」(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)に分類されています。

とのことです。

参考に、WikipediaのIARC発がん性リスク一覧によると、グループ1(ヒトに対して発癌性である)に分類されているものには、こんなものがあります。

アフラトキシン(カビの毒)
ベンゼン
ホルムアルデヒド
γ線照射
放射性ヨウ素(ヨウ素131を含む)被曝
太陽光曝露(紫外線による)
アルコール飲料
タバコの喫煙

これらグループ1の要因は、ヒトにガンを起こすことについての十分な証拠があるものです。
紫外線に当たりすぎると皮膚がん、お酒を飲みすぎると肝臓がん、タバコを吸うと肺がんに、それぞれなる可能性が高まることは一般にもよく知られている「事実」ですね。
ヨウ素131による甲状腺ガンも、日本人は東電事故以来、たいてい知っていることとなりました。

これに対して、臭素酸カリウムはグループ2Bで「ヒトでの限られた証拠,実験動物での十分より少ない証拠」があるものとされています。

ただし、この評価は、発癌性の確実さの指標であり、発癌性の強さの指標ではない事を考慮して参照する必要があるとのことです。


さて、臭素酸カリウムの化学的性質としては、構造の中に酸素原子を3つも持っていることから、Wikipediaに、

臭素酸カリウム自体は不燃性だが、強力な酸化剤であり、他の物質を酸化させる作用がある。このため、第1類危険物に指定されている。

というように、他の可燃物に酸素を与えて自分自身も他の物質(たぶん臭化カリウム、そんなにきれいな反応ではないでしょうが)に変化しやすい性質を持っています。これにより、パン生地製造時に臭素酸カリウムを添加しても、製造を焼く過程で分解してほぼ消失してしまうのでしょう。

それでも分析技術が向上して、加熱しても分解せずにごくわずかに残存していることがわかり、さらに製法を改良して(溶液タイプの製剤使用)、確実に残存しないことを前提にして、日本ではパンにのみ食品添加物として認められているようです。

臭素酸カリウムを使用すべきでないと考えている日本生協連のページに、詳しく載っていました。
http://jccu.coop/food-safety/qa/qa01_03.html

Q5
(社)日本パン工業会による新しい情報とはどのようなものですか?
A5
日本パン工業会からの情報(新しい知見など)は概ね以下の通りです。
(1) 臭素酸カリウムの残留分析法が進歩して、極微量なレベルでの分析が可能になった。2003年3月には、厚生労働省から、検出限界0.5ppb*3の高感度な分析法が通知されている。
*3:パン1kgに臭素酸カリウム0.5μg(マイクログラム)を含んだ場合の濃度。

(2) ふたをして焼く角型の食パンでは臭素酸カリウムの分解が進みやすく、残留しにくいことがわかった。

(3) 臭素酸カリウムの製剤自体についても改良が進み、新開発された溶液タイプの製剤は、パンを焼く時に分解が進みやすいことがわかった(従来は粉末タイプ)。

(4) 角型の食パンに対して溶液タイプの製剤を適正な量使用した場合には、上記の高感度な分析方法において「検出せず」という結果が示されている。

(5) パン工業会に所属する製パンメーカーが臭素酸カリウムを使用する際の厳密な規定(溶液タイプの製剤の入手方法や使用量などが厳密に管理される仕組み)を自主的に設けた。

(6) 厚生労働省と協議し、商品の包材に「本製品は品質の改善と風味の向上のため、臭素酸カリウムを使用しておりますが、その使用量並びに残存に関しては厚生労働省の定める基準に合致しており、第三者機関によって確認されております」((社)日本パン工業会科学技術委員会小委員会)と表示することにした。

(7) 国内麦の小麦粉はグルテン(たんぱく質)が少ないため一般に食パンには適さないが、臭素酸カリウムを添加して国内麦100%の食パンを試作したところ、臭素酸カリウムの効果により高品質の食パンができた。


検出限界0.5ppbの分析方法とは驚きです。

「パン1kgに臭素酸カリウム0.5μg」と言われてもピンと来ないですが、言い換えると「パン1万トンに小さじ1杯(5g)」です。「パン1万トン」とは・・・
 食パンを400グラムとすると、「食パン2億5千万個」
 食パンのみかけ比重をおよそ0.2g/cm3とすると、「食パン50,000m3(立方メートル)」
 25mプールを25m×10m×2m=500m3とすると、「食パン25mプールで100杯分」
になります。これに小さじ1杯分の臭素酸カリウムが残存していないことを要求されているということです。

この量で健康への影響があることは、どんな毒物でも全くありえないでしょう。


さて、大手製パン各社の臭素酸カリウムへの対応を調べてみると、以下の通りです。


山崎製パン 超芳醇、芳醇
http://www.yamazakipan.co.jp/brand/01_01.html

「超芳醇(レーズンを含む)」「芳醇」は品質改善と風味の向上のため臭素酸カリウムを使用しております。
その使用量並びに残存に関しては厚生労働省の定める基準に合致しており、第三者機関(日本パン技術研究所)による製造所の確認と定期検査を行なっております。
((社)日本パン工業会 科学技術委員会小委員会)


「国産小麦食パン」「ランチパック」なども同様の記述


敷島製パン(Pasco)
http://www.pasconet.co.jp/company/feeling/material02.html

Pascoでは、1980年(昭和55年)より臭素酸カリウムの使用を中止し、一貫してその使用には反対の立場をとっており、今後も使用する予定はありません。Pascoは引き続き、(社)日本パン工業会で1992年(平成4年)に取り決めた使用自粛措置を遵守していきます。
Pascoは臭素酸カリウムの代替物質について研究・テストを行った結果、ビタミンC(L‐アスコルビン酸)を使用しており、安全性ならびにパンの品質になんら問題はないと考えています。



フジパン
http://www.fujipan.co.jp/

不明(サイトで「臭素酸カリウム」で検索しても何もひっかからず)


神戸屋
http://www.kobeya.co.jp/fresh_pure/index_fp6.html

神戸屋グループでは
1980年(昭和55年)より
全商品について 臭素酸カリウムの使用を
中止いたしました

私たちは、臭素酸カリウムを使用したパンが
良いパンであるとは考えておりません
従って今後も、臭素酸カリウムを使用した
パンづくりは考えておりません

1992年(平成4年)
(社)日本パン工業会では
臭素酸カリウム使用自粛を取り決めました

私たちは
Fresh&Pure
healthy is tasty
を企業理念としております

昔ながらの手づくりの良さと技術を結びつけ
美味しさや品質を 向上させる
努力を重ねております

そして、この取り組みのひとつとして
現在では、イーストフード・乳化剤無添加の食パンを
お客様に、毎日お届けしております


このように各社で対応が異なります。

山崎製パンが臭素酸カリウムを使用、敷島製パンと神戸屋が不使用をはっきり宣言しています。
これに対し、フジパンは調べた限りでははっきりしませんでした。


私の個人的考えでは、先の長村氏の主張は十分に科学的と考えます。
この程度の臭素酸カリウムの使用は、健康に影響があるとは全く思えません。

それでも、臭素酸カリウムが添加されていない方が好ましいと考える方は、他社のパンを選ぶか、あるいは手作りする・信頼できる小規模パン屋で買う、という選択をされたら結構と思います。

山崎が反対されることがわかっているのに、ここまで臭素酸カリウムを使用することにこだわるのには、健康影響が出ないことを自分たちで信じているとともに、使うだけのメリットがあるとの信念を持っているからでしょうね。

敷島パンが言っているように、誰でも受け入れそうな食品添加物であるビタミンCが臭素酸カリウムの代替品として使えるのであれば、こちらに切り替えたらいいと思いますが、山崎には置き換えられない理由というかこだわりがあるのでしょう。

それは、製造工程上・経済的な理由かもしれませんが、私は品質的な理由であるような気がします。好き嫌いはあるでしょうが、「超芳醇」は他社の食パンに比べてかなりしっとり柔らかい(気持ち悪いくらいに…)と思います。これが臭素酸カリウムの効果かもしれないな、と。

敷島・神戸屋は、本当にそれが企業理念なのかもしれませんが、もしかしたらシェア1位の山崎パンとの差別化という企業戦略で臭素酸カリウム不使用を選択しているだけかもしれません。


私自身は、食品添加物の使用にはメリットとデメリットとがあり、デメリットよりもメリットの方が大きければ使用すればよいと考えます。

デメリットとして明らかな健康影響のリスクがあれば、たいていのメリットを吹き飛ばします。今回の臭素酸カリウムについては、正しく使用されていると信じれば健康影響は限りなくゼロに近いと考えます。

この考えには個人差があるかもしれません。そのためにも、どんな食品添加物が使用されているかが表示され、個人が選択できるようになっていればいいですね。

その点、フジパンの態度が(ざっと調べた限りですが)不明なのが気になります。
第一パンもわかりませんでした。


というようなことで、臭素酸カリウムだけでずいぶんと長くなってしまいましたーーー。

本件、さらに次回に続きます。

2014.6.8 追記 東日本大震災支援のお返し セルビア洪水復興支援にご協力を!!