旅行に行こう!! ~神話の地は悠々と~ | 妄想★village跡地

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アメンバ様700人突破・7万ヒット御礼・ブログ開設2周年を記念しまして…。

細やかながら、自分お祝い祭りです。


ガラケーユーザさまには、ちょっとだけ不親切なお話です。

申し訳ありません。


注!! このお話は単独ではわかりません!!

スタートは、ココ になります。


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体はつらいけれど、予定通りに観光に行こうと蓮を誘った。

部屋で睦むのも魅力的だが、今日を逃しては観光に行けないような気がしたのだ。


(だって、今晩も…。でしょう?)


多分今晩も解放してもらえないだろう。

その事はキョーコでも想像がついた。

となると体の疲労度は、益々蓄積するだろう。

明日は車に乗るのもきつい状態になってるかもしれない。


「じゃ、行こうか」


だから、今日。

少し無理をして、蓮の運転する車に収まったのだ。

地元でレンタルしたごくごく普通の国産車。

何時もと違う角度で見つめることになる、彼の運転姿は新鮮だった。


(なんだか、どきどきする…)


何度も見たそれなのに、角度が変わるだけでこんなに心臓が弾みそうになるものなのか…

跳ねまわるそれを、シートベルトの上からきゅっと抑え込む。


「少し風が強いね…」


滑る窓外の景色に並ぶ木々。

それが大きくうねっている。


「お天気崩れるんでしょうか?」


空は青く澄み渡っているが、これから崩れるのかもしれない。

二人の世界を邪魔したくなくて、あの部屋ではテレビも付けなかったのだ。

そのせいで、天気予報など全く知り得なかったのだ。


「…かも知れないね…」


蓮はそう言って、ラジオを付けた。

車内に流れ出す音楽。

聞き覚えのあるそれから、新しい音楽まで。

様々な音が車内に溢れる。


キョーコはそれにつられて、鼻歌を歌えば合わせるように蓮の声がかぶさってくる。

合せた訳ではないのに、自然に寄り添うリズム。

それが嬉しくて、くすぐったくて、愛おしい。


「蓮さん、大好き」


「ん? どうしたの? 急に…」


蓮も無意識だったのだろう。

突然のキョーコからの言葉に、びっくりしたようだった。


「うんん。ただ、大好きだなぁって…」


「?? 俺も愛してるよ」


「ふふっ…」


運転している彼の手が離れて、一瞬だけキョーコの髪を摘んだ。

直ぐに離れていくそれを捕まえて、ちょんっと指先に唇を乗せる。

ほんの一瞬だから、運転の邪魔にはならないだろう。

そう思ったのだけれど…。


「こら、誘惑しないの…」


蓮のスイッチを押すには十分だったようだ。


「夜までお預けね?」


意味深に項を撫でていった指先。

キョーコは今度は追わなかった。

産毛を撫でて、離れていった指先。


「そろそろかな…?」


ラジオからは天気予報は聞こえてこず、目的地まで着いてしまいそうだ。

どんどん濃くなる緑と、澄んでゆく空気。

どっぷりと濃くなったそれが、溜っている場所が観光地の入り口だった。


「…なんだか空気も違いますね…」


すうっと肺いっぱいに吸い込むと、刺さる様な澄んだそれがキョーコを出迎えた。


「神聖な域に入ったっていう感じがするよね」


延ばされた手を当たり前のように結んで、渓谷の奥に歩を進める。

程よく野趣を残す遊歩道。

その傍には、悠々と流れる川に、思い思いに枝を伸ばす木々。

はらはらと舞い落ちる紅葉。

それらを愛でながら、のんびりと歩く。


「…こういう所に入ると、『神様』っているんだなぁって思いますよね…」


空気が違う。

温度が違う。

木々が違う。

時間が違う。


何もかにもが『重さ』を持っている。

その荘厳さを、美しさに敬意を表して、人は『神』なんて言うものを考えたのかもしれない。

そんな変なことまで、思ってしまった。


「確かに、こうまで違うと…。そう言う存在がいるんじゃないかって、思っちゃうよね…」


ざわざわと撓る木々。

そこから透ける空すら、色が違う。

歩みを止めて、二人で空を見上げる。

ひゅうっと飛んでゆく鳥。

駆け去る雲。

早いそれに、心が騒ぐ。


「さ、行こうか…」


進めば、大きな滝に出るらしい。

野の鳥や梢の音を楽しみながら、最奥を目指す。

何処までも壮麗で、何処までも美しい自然。

欠けることも満ちることもなく、調和するそこ。

その場所から力を分けてもらう様に、たっぷりと時間をかけて歩く。

時折同じような観光客に抜かれてゆくが、気になんかしない。

二人のペースで、歩けばいいのだ。

そんな風に歩いて、たどり着いた滝。

幾つもの糸が、岩肌を滑ってゆく。

その美しさにまた呑まれ、マイナスイオンを取り込んでいたのに…。


「あれ…」


「…なんだか曇ってきましたね…」


あれほど澄み渡っていた空は、瞬く間にどんよりとした雲に覆われてしまった。

そして生ぬるい風がすうっと、吹き抜けてゆく。

天気が崩れる前兆だ。


「…帰りましょうか?」


「だね」


のんびりと過ごしていた時間はそこで終わってしまった。

雨に降られる前にと、せかせかと足を動かすものの…。


「ひわっ…!!」


無情にも、ぽつんっと降ってきた雨粒。

一滴だったそれは、瞬く間に広がって…。

ざぁぁっと、激しい音を立てて本格的に降り始めた。


「もう…」


何とか車に駆け込むものの、キョーコのワンピースはずぶ濡れ。

蓮のシャツも、もう服ではないような状態になってしまっている。


「…風邪ひいたら大変です…」


タオルなんて持ってきていないから、小さなハンカチで水滴を拭うが…

何の役にも立たない。


「とりあえずホテルに帰ろう」


「はい…」


これからも、道の駅などを回るつもりだったのだが…。

こんな服ではどこにも行けない。

とりあえず帰ろうと、エンジンをかけて蓮はハンドルをきった。

がっかりとしている二人の、残念な気持ち拍車をかけたのは先ほど聞けなかった天気予報だ。


『台風は勢力を増して、北上しております。非常に速い速度のこの台風は、今日の夜半には九州の上陸、明日の未明には四国地方へ上陸する見込みです』


女性アナウンサーの告げるそれに、ひぅ…っとため息を零したのはキョーコ。

この天気予報通りになれば、明日一日は何もできない。


「……まぁ、外れるかもしれないし…」


そう蓮は言ってくれるが、東京や北海道などとは違う。

そんなに大きく針路を変える事なんかないだろう。

しょぼしょぼと肩を落としたキョーコに、そんな慰めをかけてみるが蓮自身も明日の外出は厳しいだろうと、想像がついた。


「……旅館でゆっくりしようよ」


雫が立っている髪を、つんっと引っ張る。

そういう過ごし方も、まぁ楽しいだろうと思ってしまうのは…。


(悪い男なのかな?)