旅行に行こう!! | 妄想★village跡地

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アメンバ様700人突破・7万ヒット御礼・ブログ開設2周年を記念しまして…。

細やかながら、自分お祝い祭りです。


ガラケーユーザさまには、ちょっとだけ不親切なお話です。

申し訳ありません。


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お付き合いしてから、長い時間をかけてくれたと思う。

お付き合いするまでの時間も長かったし、知り合ってからの時間もすっごく長かった。


勿論、お泊りもしたし、互いの家にも行き来をしてる。


(でも…。一緒に旅行って初めてかも…)


世間様に公表しているから、旅行に行けなかったわけではない。

行こうと思えば行けたし、彼からそれとなく誘いもあった。


その誘いに乗らなかったのは、キョーコの我儘だ。

彼に釣り合う人間になりたくて、我武者羅に頑張りたくて…。

みっちりと仕事を詰めた結果、会う時間を確保するのがやっとのスケジュールが出来上がっていたのだ。

そんな生活を続けて、2年。


少しだけ仕事を落ち着かせようと思ったのは、大作映画のオファーを受けて約一年間充実した生活を送れた反動かも知れない。

何時もより長いこと、一つの役に入り込んで彼女として生きる。


(楽しかったなぁ…)


今振り返っても、心地の良い痺れの様なものが体に湧き上がる。

けれど、その生活にほんの少しだけ不安がよぎってしまった。


【私】は、何処に行っちゃったんだろう…。


蓮と過ごす時間が薄くなって、寂しさが、不安が唐突にキョーコを襲ったのだ。

『京子』と過ごす時間は濃密で、有意義だか少しだけ力が入ってしまう。

『キョーコ』として過ごす時間は、甘くて少し苦しい。


「…選べるって、なんて贅沢なんだろう…」


我武者羅に走り続けた結果、沢山来る仕事の中から自分の意思で仕事が選ぶことが出来るようになった。

その事に甘えて、半年間の休養を取ることにしたのだ。

それに合わせて、蓮も一か月の休養を取ることにしたのは、想像の範囲内だ。


(本当に…。甘やかしすぎなのよ…)


何処までもどこまでも、キョーコのペースに合わせて動いてくれる男についつい甘えてしまう。

さり気無く心を砕いてくれる彼の姿を思い出して、耳がふわんっと熱くなった。


「そうですね。こちらなどもお勧めですよ」


「ふえっ!?」


自分の思考に嵌り込んでいたキョーコ。

それを現実に連れ戻したのは、見知らぬ女性の声だった。


「この辺のプランとかも…」


目の前に差し伸べられたのは、綺麗な紅葉の向こうに上品な旅館が見える。

大手旅行代理店の名前が印刷されており、それを見たキョーコは今何をしていたのか思い出した。


(いけない、いけない…。人前でぼーっとするなんて!!)


ここはテレビ局近くにある、旅行代理店。

折角纏めての休みが取れたのだから、二人で旅行に行こうと決めた。

互いの行きたいところを出しあって決めよう、となったのでキョーコもパフレットを貰おうとこの店に出向いた次第だ。

勧められるパンフレットは、海外旅行が多かった。

けれど、キョーコが選んだのはゆっくりとのんびりできる温泉宿。


「あ、ここ素敵…」


店員が指差したのは、離れになっている個室でのプランだった。

近くには渓流があり、紅葉を愛でながら散策も出来るらしい。


「こういう雰囲気がお好きですか? でしたら…」


次々繰り出されるパンフレット。

その中から数点を選びとり、キョーコはお休みの間住むことになった蓮の家へと向かったのだった。

キョーコは休みだが、蓮はバリバリと働いている。

家主のいない部屋に上がりこむ罪悪感は、大分薄れたが…。


「た、ただいま…」


この言葉はまだ口に馴染まない。

大事に抱きしめていたパンフレットを、ダイニングのテーブルの上に置くと部屋着に着替える。

エプロンを纏い、夕食の準備に取り掛かったのだ。

まだ暑さが残るこの季節、さっぱりとしつつ栄養価の高いものをと…。

野沢菜山葵の混ぜご飯に、玉ねぎとおかかのサラダ。

ゆで豚には、大根おろしを添えて…。

汁物も作ろうかと、悩んでいるとき蓮が帰ってきた。

時計を見ると、帰宅予定時間ぴったり。


「相変わらずだわ…」


無遅刻キングっぷりに、思わず笑ってしまいながら…。

スリッパをパタパタ言わせながら、出迎える。

迎える言葉は、これだ


「お帰りなさい」


「ただいま」


抱きしめた彼の体は、外の熱気を吸って暑かった。


「お夕飯の前に、シャワー入っちゃってください」


「ん。あ、これ…。見つくろった旅行。見ておいて?」


キョーコに促されるまま、バスルームへ向かった彼は手にしていた紙袋をキョーコに預けていった。

今日、キョーコが集めてきた物と、同じ。


「全部終わってから、見ましょう…」


蓮の為に着替えを出しておきたいし、すぐに食べられるようテーブルも整えておきたい。

またスリッパを軽やかに鳴らしながら、キョーコは蓮の家をちょこちょこと忙しく動き回ったのだった。


全ての支度を終えるころには、蓮もバスルームから出てきてキョーコの向かいに座っていた。

食事中に何かを見るのは行儀が悪いから、とパンフレットを見比べるのは後回しだ。


他愛もない会話をしながら、何時もより美味しくできた気がする食事に舌鼓を打つ。


「で、どこにしようか?」


二人でやった方が早いからと、食器を片づけると蓮がコーヒーを落としてくれた。

それを、キョーコはソファに座って、受け取った。


「ん…。まって…」


蓮が持ってきたパンフレットは、量が多くて…。

見るだけで大変だ。


「おすすめはね、これとこれ…」


焦れたのか、蓮が抜き取って見せたそれは…


「こんなのっ…」


涼やかな海に佇む、女王。

そんな風情の、豪華客船が大きく映し出されているパンフレットだ。


『エーゲ海クルージング、15日間』


『カリブ海周遊、10日間』


踊る文字と写る豪華客船の写真は、キョーコの心を擽るけれど…。


(初めての旅行で、これって!?)


キョーコが選んできたパンフレットとスケールが違う。


「キョーコのお勧めは、これ?」


呆然としているキョーコを置いて、蓮はテーブルの隅に置かれたままだった国内旅行のパンフレットを手に取った。


「へぇ…。これもいいね」


キョーコにしてみれば、精いっぱいの贅沢で選んだ高級旅館が乗っているそれ。

スケールが違うけれど、蓮はこれが素敵だとか、ここが素敵だと、目を輝かせてる。


「やっぱりさ、初めての旅行なんだから…。のんびりできるのがいいよね」


キョーコも、そこをポイントに旅先を選んだ。


(スケールが…、違い過ぎるわ…)


温泉旅行と、クルージング。


「どっちに行こうか?」


蓮の笑顔に、選択権は自分のあるのだと知る。


A:初めてだもん。ここは贅沢に、蓮さんとゆっくりしよう!! エーゲ海クルージング行きましょう!!


B:豪華旅行は、新婚旅行までお預けにしましょう。温泉でのんびりがいいな。



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こんな感じで、続きます~