アメンバ様700人突破・7万ヒット御礼・ブログ開設2周年を記念しまして…。
細やかながら、自分お祝い祭りです。
ガラケーユーザさまには、ちょっとだけ不親切なお話です。
申し訳ありません。
注!! このお話は単独ではわかりません!!
スタートは、ココ になります。
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仲良く手を繋いで上陸した島は、今まで回ってきた島とそんなに変わりはなかった。
真っ白な壁と痛いぐらいの青。
それが二人を包み込んでゆく。
ころころと寝転がる猫たちを可愛がりながら、軒先に下がったレースにキョーコは夢中だ。
「あ、この模様も素敵…」
生成り色の糸を巧みに操り、街の女性たちが椅子に座って編上げてゆく姿をも熱心に見つめている。
余りにも熱心に見つめるものだから、女性陣は簡単な道具を貸してくれて、即席のレース教室の出来上がりだ。
この島の女性陣は英語が話せず、キョーコはギリシア語が分からない。
だから、なんとなく身振り手振りで会話を続けて…。
すっかり蓮は置いてきぼりだ。
「キョーコ、ちょっとその辺見てるね」
「あ。はい…。おばあちゃん、こう?」
何処までも突き進むキョーコは、隣に座るおばあちゃんに複雑な柄の編み方を教わっている。
それに夢中で…。
蓮の方を振り返りもしなかった。
(…だから、嫌だったんだよな…)
この島に上がって、観光すればこうなることは分かっていた。
だから上陸する時間を少しでも、少なくしたかったのに…。
その計画は上手くいかず、今キョーコはおばあちゃんたちのアイドルだ。
「土産物でも見ていくか…」
暇を持て余した蓮は、開いている土産物屋を見て回る。
オリーブの瓶詰めにオリーブオイル、そしてワイン。
どこもかしこも似たような品ぞろえだ。
唯一違う点があるとすれば、扱っているレースの模様が違う事だろう。
『各家に伝わる模様っていうのがあるんですよ』
と、接客してくれた女店主は、この店の伝統模様だと言って小さな花が波に浮かんでいるような模様の、テーブルクロスを出してくれた。
4人掛けのダイニングテーブルを覆えそうなそれは、模様が繊細過ぎて作るのに1年かかったという大作だった。
『見事だね…』
その繊細さに、ただただ見惚れるしかない。
『あとは、これとか…』
奥から引っ張り出してきたのは、もっと大きなレース細工だった。
同じように波の踊る花が繊細に編まれていた。
蓮ですら床に引きずってしまいそうな、大きく丸いそれ。
『これは?』
用途が分からなくて、蓮が尋ねるとマリアベールだと返事があった。
『こんなに大きいのに?』
こんなに大きくて模様が一面に織られたそれを、蓮は見たことがない。
『そうよ。結婚式用に作ったんだけどさ。この辺りじゃ、こんな大きなの使う人いなくてね』
数代前の店主が数年がかりで作り上げたが、一向に売れないのだと嘆いていてみせた。
『売ってるの? これを?』
余りにも見事なそれは、博物館等におさまっていても不思議ではない。
それほどに見事なのに、女店主は売りたいのだという。
『ここに置いておいても、可哀想だからね。幸せな花嫁さんに使ってもらった方が幸せだろ?』
たどたどしい英語だが、蓮にはきちんと伝わった。
そして、
『じゃぁ俺が買おう』
と、財布を取り出した。
『結婚の予定はあるのかい?』
『結婚したい人がいる。だから、無駄にはならないよ』
『この子も、幸せにしてやってくれよ?』
綺麗に畳まれたそれは、シンプルな紙袋に包まれて蓮の腕に納まった。
かさりと鳴るそれは、これから訪れる幸せを呼んでいるようだ。
『もちろん。幸せになった際には、ご報告しに来ますよ』
そこそこいい値だったそれを、買ったことを後悔はしていない。
きっと必要になるものだからだ。
『期待してるよ。じゃぁね』
蓮が店を出ても、キョーコはまだおばあちゃんたちのアイドルだった。
「もうすぐ完成しそう?」
大分形が出来上がっているそれを、蓮も覗き込む。
「あ、蓮さん。もうちょっと、まって…」
あと一巡りほどで出来上がるらしい。
作っているのは、コースターの様だった。
キョーコの手元を覗き込むおばあちゃんたちも、大作を作る手を止めていない。
からからと笑っては、キョーコに指導をしてくれる。
「できた!!」
編み棒から離れた、糸。
ダリアの花を模したコースターは、初めてにしては良くできている。
「ほんとに何でもできるんだね…」
言葉が通じない人々に教えてもらいながら、ここまで出来るのはすごい。
純粋に感心すると、照れたように笑った。
「おばあちゃんたちにはかないません」
何かを言っているご婦人方の手は、今も止まらない。
「ありがとうございました!!」
初心者でも参加できる、レース編み教室に行くつもりだったが、思わぬところで体験することが出来てしまった。
集中していたせいで、時間も忘れていて…。
立ち上がって、おばあちゃんたちに手を振ると、キョーコのお腹がぐうっと鳴った。
もう昼も回っていて、
「レストランに行こうか?」
この島で有名なレストランで、食事をとろうという話はしていた。
予定より、大幅に時間がずれてしまったけれど…。
路地裏にある島民たちに愛されているレストラン。
そこで、島の料理を貰う。
気取らず、肩の力を抜いて食べることのできるそれらはとても美味しかった。
メリジャノサラタに揚げミートボール。ピリッと辛いピラフも頼んで…。
何処までも笑顔がこぼれてゆく。
「腹ごなしに散歩したら…」
「どうしましょうか?」
この島の観光名所を回り、また夕日を見ようと話しをして…。
「今日はこの島に泊まろう」
「え? でも…」
「給油や補給で、明日の昼に離岸するんだ。だから、今日はここに泊まってても平気」
「ホテルなんて…」
予約していないと、キョーコが眉を寄せる。
「開いてたから大丈夫。この島、穴場のホテルがあるんだ」
「いつのまに…」
「さぁ、何時でしょう?」
キョーコは呆れるが、蓮は最初から決めていた事だとは言わなかった。
船のスケジュールは織り込み済みだし、キョーコがこの島を楽しみにしているのも知っていた。
だから、予めそう言うスケジュールを組んであったのだ。
驚かせたくて、言わなかっただけ。
「じゃ、散歩しながら…。向かいましょうか?」
伸びてきた手を取り、指先を結んで…。
蓮はある意味この度の、メインイベントに向かうべくのんびりと歩き出したのだった。
「ここがホテル?」
キョーコが驚くのも無理はない。
ここは、一見すると洞窟にしか見えないのだから。